↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮面勇者  作者: Toooji
PR
7/40

第六話 森の向こうに


それから数日。


セレナは、街道を西へと進み続けた。


町や村を訪ねては、変わり者の魔法使いの噂を聞く。


しかし、返ってくる答えは似たようなものばかりだった。


神殿にいる治療術師。


薬を作る薬師。


旅の一座に加わっている魔法使い。


どれも、彼が探している人物とは違う。


「森の奥に住む変わり者の魔法使い、か……」


野営の準備をしながら、セレナは呟いた。


聞き込みを続けるうちに、彼は一つのことに気づいていた。


西へ向かうほど、魔法に関する話が増えている。


とくに、チャイムへ近づくにつれて、その傾向は顕著になった。


人族だけでなく、魔族も暮らす土地。


かつて魔王の国と呼ばれた場所。


今では種族の違いを越えて、人々が生活を営んでいるという。


もちろん、すべてが平和というわけではないらしい。


長い間続いた争いの傷跡は、まだ各地に残っている。


それでも、そこには王都とは違う何かがある。


セレナはそう感じていた。


彼は火を小さくし、干し肉を口に運んだ。


夜の森からは、虫の声が聞こえてくる。


時折、遠くで獣が鳴く。


危険のない場所ではない。


だが、魔獣の気配は感じられなかった。


セレナは外套を引き寄せ、横になった。


明日もまた、歩かなければならない。


*


翌日の昼過ぎ。


街道の先に、石造りの橋が見えてきた。


橋の下を流れる川は広く、流れも速い。


橋のたもとには小さな休憩所があり、数人の旅人が腰を下ろしていた。


セレナは水筒に水を補給し、近くにいた老人へ声をかけた。


「すみません。チャイムまでは、あとどれくらいでしょうか?」


老人は少年の仮面を眺めてから、川の向こうを指さした。


「この街道をそのまま進めば、あと二日ほどだな。途中に小さな町がある。そこで一泊すれば、無理なく着けるだろう」


「ありがとうございます」


「チャイムへ行くのか?」


「ええ。魔法について学びたいことがあって」


老人は少し驚いたように眉を上げた。


「魔法か。なら、あの国は悪くないかもしれんな」


「あの国には、魔法使いが多いんですか?」


「人族だけの土地とは違うからな。魔族の中には、我々とは違うやり方で魔法を使う者もいると聞く」


老人は川の向こうを眺めた。


「もっとも、強い魔法を使える者が、必ずしも人に教えるのが上手いとは限らんが」


「……それは、そうですね」


セレナは苦笑した。


どれほど優れた魔法使いでも、弟子を取る気がなければ意味がない。


そして、彼が探しているのは、まさにそんな人物かもしれなかった。


「そういえば、少し妙な話を聞いたことがあるんだが」


老人が、声を落とした。


「チャイムへ向かう途中、街道から外れた森に入っていく魔法使いを見たという者がいてな。

ずいぶん前の話だが、森の中で不思議な光を見た者もいるらしい」


セレナの表情が変わった。


「その魔法使いは、どんな人物だったんですか?」


「そこまでは知らん。老人だったとも、若かったとも聞く。話す者によって違うんだ」


「……そうですか」


期待したほどの情報ではなかった。


それでも、森の中で不思議な魔法が使われているという話は、彼の興味を引いた。


「その森は、どこにあるんでしょうか?」


「街道を西へ進むと、北側に森がある。そこから先は、詳しい者でなければ道が分からんだろうな」


老人は念を押すように言った。


「むやみに入るのは勧めんぞ。魔獣も出るし、道に迷えば戻れなくなる」


「分かりました。気をつけます」


セレナは礼を言い、橋を渡り始めた。


背後から、老人の声が追いかけてくる。


「本当に探している相手がいるなら、まずはチャイムで情報を集めることだ。森へ行くのは、その後でも遅くない」


セレナは振り返り、軽く手を上げた。


「そうします」


*


その夜。


セレナは街道沿いの宿に泊まっていた。


部屋は狭く、寝台も固い。


だが、屋根の下で眠れるだけでもありがたかった。


彼は荷物を整理し、剣の手入れを済ませた。


それから、古びた鉄の仮面を外し、枕元に置く。


銀色の髪が肩に落ちた。


鏡の代わりに使っている、小さな金属板を覗き込む。


そこには、まだ少年らしさの残る顔が映っていた。


「……本当に、見つかるのかな」


誰に聞かせるでもなく、呟いた。


魔法を教えてくれる師匠。


自分の知らない魔法を知り、自分の知らない世界を見せてくれる人。


そんな人物に出会えるのだろうか。


そもそも、自分に魔法の才能があるのかどうかさえ分からない。


剣ならば教えてくれる人がいた。


けれど、魔法については何も知らない。


だからこそ、知りたい。


使えないから諦めるのではなく、使えるようになるために学びたい。


セレナ仮面を手に取り、額に当てた。


冷たい鉄の感触が伝わってくる。


「……明日も頑張ろう」


仮面を身につけ、外套を枕元に置く。


窓の向こうには、星空が広がっていた。


西へ進めば、チャイムがある。


その先に何が待っているのかは、まだ分からない。


けれど、旅を始めたときにはなかった手がかりが、少しずつ集まり始めていた。


セレナは目を閉じた。


明日もまた、彼は歩き続ける。


自分の知らない世界を知るために。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。