第三十三話 北へ
騎士団の詰所を出た二人は、城下町の通りを歩いていた。
先ほどまでの面会について、彼女は考え込むように黙っている。
「師匠、どうかしましたか?」
セレナが声をかけると、彼女は少し遅れて顔を向けた。
「ううん。さっきの騎士団長の話を思い返していたの」
「勇者のことですか?」
「ええ。やっぱり、私の村を救ってくれた人と同じ人物だと思う。魔王を倒した後も生きていたことが分かったし、もう少し調べれば何か手掛かりが見つかるかもしれない」
彼女はそう言って、胸元の首飾りにそっと触れた。
「ただ、騎士団長は何か知っていそうだったのに、話してはくれなかったわね」
「……そうですね」
セレナは短く答えた。
騎士団長と目が合った時のことが頭から離れなかった。
あの視線は、ただ珍しい仮面を見ていただけではない。自分のことが分かっている反応だった。
この仮面を見て気付いたのだろうか。
それも無理はない。今身につけている仮面は、かつてあの人が使っていたものなのだから。
けれど、騎士団長は何も尋ねなかった。
こちらが事情を話していないことを察し、あえて知らないふりをしてくれたのかもしれない。
セレナは仮面の縁に触れた。
彼女には話していないことがある。
「セレナ?」
「えっ、あ、はい!」
彼女の声に、セレナは我に返った。
「何か考え事?」
「いえ。少し、騎士団長のことを考えていました」
「そう。あの人、少し怖そうだったものね」
「……そうなんですよ」
思わず同意してしまい、セレナは慌てて口を閉じた。
彼女は不思議そうに首を傾げたが、それ以上は追及しなかった。
「それでね。これからのことなんだけど」
彼女は歩みを緩め、セレナの方を向いた。
「一度、故郷に戻ろうと思うの」
「故郷ですか?」
「ええ。永遠の森にある、仮面の部族の村よ。その先に私の師匠がいるの」
彼女が師匠と呼ぶ人物。
魔法について深い知識を持ち、彼女にとって師であると同時に祖父のように慕っている存在だと聞いている。
「今回のことを相談したいし、旅の途中で気になることもあったから。師匠なら何か知っているかもしれない」
「分かりました。僕もご一緒します」
セレナはすぐに答えた。
「いいの? 故郷に帰るだけだから無理についてこなくてもいいのよ」
「師匠の行くところなら、どこへでもついていきます。それに、まだ修業の途中ですから」
「ふふっ。本当にあなたは、懐いてくる子犬みたいね」
「こ、子犬ですか?」
「ええ。放っておいたら、どこへでもついてきそうだもの」
彼女は楽しそうに笑った。
セレナは少し恥ずかしそうに仮面へ手をやったが、否定はしなかった。
「それじゃあ、明日出発しましょう。必要なものを買い足しておかないとね」
「はい!」
彼女の後を追いながら、セレナはもう一度、城の方を振り返った。
白い城壁の向こうには騎士団長がいる。
あの人はどこまで気付いているのだろう。
考えても答えは出ない。
セレナは小さく息を吐き、前を歩く彼女の背中に目を戻した。
今はまだ話せない。
そう心に決めて、彼は彼女の後を追った。
翌朝、二人はサイレンの街を出た。
目指すのは、北に広がる永遠の森。
彼女の故郷と師が待つ場所だった。




