第三十二話 騎士団長との対面
翌朝。
セレナと弓使いの彼女は、昨日訪れた騎士団の詰所へ向かっていた。
「会えるといいわね」
「そうですね。都合をつけてくれればいいのですが」
「ええ。せっかくここまで来たんだもの。何か手掛かりを持ち帰りたいわ」
彼女はそう言って、足早に詰所へと向かった。
受付で昨日のことを伝えると、どうやら昨日の騎士が話を通しておいてくれたようで、二人はすぐに応接室へ案内された。
「騎士団長は間もなくお見えになります。こちらでお待ちください」
「ありがとうございます」
二人は仮面越しに顔を見合わせ、喜んだ。
部屋に入り、勧められた椅子に腰を下ろしてしばらく待っていると、扉の向こうから足音が聞こえてきた。
「待たせたな」
扉が開き、一人の男が姿を現した。
大柄な体格に、鍛え上げられた腕。落ち着いた表情の奥には、歴戦の騎士らしい鋭い眼差しがあった。
「私が近衛騎士団、そしてこの騎士団を預かっている者だ」
「初めまして。お忙しいところ、お時間をいただきありがとうございます」
彼女は立ち上がり、丁寧に頭を下げた。
「いや、問題ない。勇者について聞きたいそうだな」
「はい。私は以前、剣士様に助けていただいたことがあるんです」
「ほう……」
「幼い頃、私の村が魔物に襲われたことがありました。そのとき剣士様が現れて、村を救ってくれたんです」
彼女は胸元に手を添えた。
「それ以来、ずっとその方を探していました。剣士様は魔王討伐の戦いにも参加していたと聞いて、何か知っている方がいないか調べていたんです」
騎士団長は彼女の話を静かに聞いていた。
「それで私に話を聞きに来たわけか」
「はい。騎士団長様は魔王討伐の戦いについて詳しいと伺いました。勇者様がどのような人物だったのか、そして、その後どうなったのかを教えていただけませんか?」
騎士団長は少し視線を落とした。
「勇者か……」
短い沈黙の後、彼はゆっくりと口を開いた。
「魔王討伐の戦いで、確かに大きな役割を果たした人物だな」
「単身で王城へ乗り込み、最後には魔王を倒したんだから……王女の助けもあったようだが」
「その後はどうなったのでしょうか?」
「戦いが終わった後、王城で治療を受けていた。かなり深い傷を負っていたらしい」
「では、生きていたんですね」
「ああ。だが、その後の足取りについては、記録が残っていないそうだ」
「王城からいなくなってしまった、ということでしょうか?」
「んー……私の口からは言えないこともあるんだ……すまない、察してくれないか」
彼女は少し考え込んだ。
「騎士団長様は、その勇者と直接お会いになったことはあるのでしょうか?」
その問いに、騎士団長の視線が彼女へ戻る。
「……ああ。あの戦いに関わった者として知っている」
「どのような方だったのでしょう?」
「一言で説明するのは難しいな」
騎士団長は窓の外へ目を向けた。
「ただ、必死で誰かを守ろうとする不器用な男だったよ」
彼女はその言葉を聞き、懐かしそうに目を細め、胸元のお守りを握りしめた。
「やっぱり、あの時の剣士様もそうでした。自分の身体より、村の人たちを助けることを優先していましたから」
「そうか……君は」
騎士団長は小さく頷いた。
彼女はもう一つ、気になっていたことを尋ねた。
「騎士団長様。もしかして、村を救ってくれた剣士様と勇者様は同一人物だったのではありませんか?」
「確かに、話を聞く限り、村も救っていたと思う……」
騎士団長は彼女を見つめたまま、しばらく黙っていた。
「いや、しかし、一概に同一人物だと判断するのはよくないかと……」
「そうですね」
彼女は勇者が自分の探している剣士様と同じ人物だと確信した。
「あなたが勇者を探している理由は分かった。もし所在地が分かれば、すぐに知らせよう」
「本当ですか? ありがとうございます!」
彼女は深く頭を下げた。
そのとき、騎士団長の視線が彼女の隣に立つセレナへ移った。
「そちらの仮面の少年は君の仲間か?」
「はい。旅の途中で知り合って、今は一緒に行動しています」
「そうか」
騎士団長はセレナの仮面を一瞬だけ見つめた。
セレナもまた、騎士団長の顔を見ていたが、すぐに視線をそらした。
「……すみません」
小さな声だった。
「何か言ったか?」
「いえ」
セレナは短く答えた。
騎士団長は少しだけ目を細めたが、それ以上は何も尋ねなかった。
「今日はこれくらいにしておこう。何か知りたいことがあれば、また訪ねてくるといい」
「はい。本当にありがとうございました」
二人は礼を言い、応接室を後にした。
詰所を出ると、彼女は少し考え込むように歩いていた。
「どうでしたか?」
セレナが尋ねる。
「うーん……。剣士様は勇者だったようね。魔王を倒した後、王城で治療を受けていたことは分かったけれど、その後のことは分からなかった」
「そうですね」
「でも、生きていることは分かったわ! 騎士団長様は何かを知っていそうだったけど、これ以上は無理みたいね……」
「また訪ねてみるのもいいと思います」
「そうね。ほかにも当時のことを知っている人がいないか、探してみましょう」
彼女は前を向いた。
勇者の行方は、まだ分からない。けれど、ここまで追ってきた手掛かりが、少しずつ一つにつながり始めているような気がした。
一方、セレナは詰所の方を一度だけ振り返った。
しかし彼は何も言わず、再び彼女の後を追った。




