第三十一話 王都への道
船が中央大陸の港へ到着したのは、昼を少し過ぎた頃だった。
長い船旅を終え、乗客たちが次々と下船していく。
セレナと弓使いの彼女も荷物を手に、ゆっくりと船を降りた。
港には多くの船が停泊し、荷物を運ぶ人々や商人たちで賑わっていた。
チャイムとは違う活気に満ちた光景を、彼女は興味深そうに眺める。
「ようやく着いたわね」
「はい。陸地がこんなに落ち着くとは……」
「……やっぱり船酔いしてたでしょ?」
「いえ! 酔ってないですよ。揺れで少し目が回っただけです」
「ふ~ん、あやしい……」
彼女は微笑みながら、セレナを疑わしげな目で見た。
「さて、ここから王都サイレンまでは、馬車で数日かかるそうよ。まずは宿を探して、それから王都へ向かいましょう」
「…分かりました」
二人は港町を歩き出した。
宿を探す途中、彼女は通りにある店や掲示板に目を向けていた。
旅人が集まる場所なら、勇者に関する話が聞けるかもしれない。
「少し情報を集めていきたいわ。この辺りで最近の話を聞いておきましょう」
「そうですね。何か手掛かりが見つかるかもしれませんしね」
二人は酒場を兼ねた食堂に入り、食事を取りながら周囲の話に耳を傾けた。
近くの席では、商人らしき男たちが王都の話をしている。
「最近の王都サイレンは落ち着いているな。王城に魔王が現れたと聞いた時にはどうなるかと思ったが」
「ああ。あの戦いの後は大変だったらしいが、今じゃすっかり復興したそうだ」
「騎士団もよくやっているらしいぞ。今の騎士団長は、あの戦いにも参加していたんだろう?」
「そうらしい。相当な腕前らしいぞ」
その会話を聞き、彼女はそっと顔を上げた。
「すみません。少しお話を伺ってもよろしいですか?」
「ん? あんたたち旅人かい?」
「ええ。人を探しているんです。魔王討伐の戦いに参加した、勇者について何かご存じありませんか?」
男たちは顔を見合わせた。
「勇者か。懐かしい名前だな」
「俺たちも詳しくは知らないが、魔王討伐の後、王城で治療を受けていたという話は聞いたことがある」
「その後のことは分からんな。いったい誰なのか、今も生きているのかどうかさえ、はっきりしないんじゃないか?」
「そうですか……」
彼女は少し考え込んだ。
「では、その戦いについて詳しい方は、王都にいらっしゃるのでしょうか?」
「それなら、騎士団長に聞くのが一番だろうな。あの人は魔王討伐の戦いを知る数少ない人物らしいぞ」
「騎士団長……」
彼女はその言葉を繰り返した。
かつて自分の村を救ってくれた人かもしれない勇者について、何か知っている人物。
「ありがとうございます。参考になりました」
彼女は男たちに礼を言い、席へ戻った。
「騎士団長に会いに行くんですか?」
セレナが尋ねる。
「ええ。今の話を聞く限り、勇者について知るには一番確実だと思うわ」
「確かに……」
「王都に着いたら、まずは騎士団長に会える方法を探しましょう」
彼女はそう言って、食事を再開した。
翌朝、二人は港町を出発した。
王都サイレンへ向かう街道は整備されており、途中には小さな町や宿場町もあった。
道中、彼女は旅人や商人に声をかけ、王都の様子や騎士団について情報を集めていく。
しかし、勇者のその後について詳しく知る者は見つからなかった。
数日後、街道を歩く二人の目の前に大きな城壁が現れた。
「見えてきたわ。あれが王都サイレンよ」
高い城壁の向こうには、いくつもの建物が立ち並び、街の中央には大きな王城がそびえている。
彼女は足を止め、その景色を見上げた。
「ここに来るのは久しぶりだわ」
「以前にも来たことがあるんですか?」
「ええ。少しだけね」
彼女はそれ以上語らず、再び歩き出した。
セレナも王都を見上げる。
白き王国と謳われた美しい都、サイレン。
懐かしい街並みが目に入ったが、彼は何も言わず、彼女の後を追った。
王都に入ると、二人はまず宿を確保した。
荷物を置いた後、彼女は街の人々に騎士団長について尋ねて回った。
騎士団長は王城にいることが多く、面会には正式な手続きが必要らしい。
突然訪ねても会える相手ではないようだった。
「やっぱり王城へ行くしかなさそうね」
「そうですね。騎士団長に会いたい理由を伝えれば、取り次いでもらえるかもしれませんよ」
「まずは騎士団の詰所を訪ねてみましょう」
二人は街の中心部へ向かった。
騎士団の詰所は王城の近くにあり、周囲には鎧を身につけた騎士たちが行き交っていた。
彼女は受付の騎士に声をかける。
「騎士団長にお会いしたいのですが」
「騎士団長にですか? ご用件を伺ってもよろしいでしょうか」
「魔王討伐の戦いについてお聞きしたいことがあります。勇者についても、知りたいことがあるんです」
その言葉を聞いた騎士は、少し考えるような表情を浮かべた。
「勇者についてですか……。騎士団長がその戦いに参加していたのは確かですが、現在は公務で忙しくされております。すぐにお会いできるかは分かりません」
「そうですか……」
彼女は残念そうに俯いた。
「では、現在の状況を確認してみます。少々お待ちください」
騎士はそう言って奥へと向かった。
待っている間、彼女は王城の方へ視線を向けていた。
「騎士団長が勇者について何か知っていればいいのだけれど……」
「きっと、手掛かりが見つかりますよ」
セレナの言葉に、彼女は小さく頷いた。
やがて、先ほどの騎士が戻ってきた。
「本日、騎士団長が戻られる予定です。お話を伺う時間をいただけるか確認してみますので、明日もう一度お越しいただけますか?」
「ホントですか!ありがとうございます、明日伺います」
詰所を後にした二人は、宿へ戻ることにした。
「明日、会えるといいわね」
「そうですね」
彼女は王城を振り返った。
勇者の足取りを追って、ようやくここまでたどり着いた。
騎士団長に会えば、長い間分からなかったことが明らかになるかもしれない。
彼女は期待を胸に、王城を見つめ続けていた。




