第二十八話 海の向こうへ
翌朝、二人はヒイラギのもとを訪ねた。
「少し、お話があります」
「ん?」
ヒイラギは手元の書類から顔を上げた。
「私たち、サイレンへ向かおうと思います」
「サイレンか。昨日の話の続きだな」
「はい。あの方の足取りを追うためには、あそこへ行くしかないと思います」
ヒイラギは二人の顔を見比べた。
「セレナ、お前も一緒に行くのか?」
「はい。彼女一人では心配ですし、俺もまだ師匠から学びたいことがあります」
「そうか」
ヒイラギは少し考え込んだ後、椅子の背にもたれた。
「お前たちが決めたことなら、俺から止める理由はない。だが、ここを離れる前に、今受けている任務の引き継ぎだけは済ませておけ」
「ありがとうございます」
「礼を言うことじゃない。お前たちには十分働いてもらった。これ以上、無理に引き留めるつもりもないさ」
ヒイラギはそう言って、いつものように豪快に笑った。
「それに、サイレンへ行くなら気をつけろ。海を渡るのは陸路とは勝手が違う。船の手配も早めにしておいた方がいい」
「はい。港で調べてみます」
「何かあれば、俺の名前を出しても構わん。向こうにも知り合いはいる」
「ありがとうございます」
彼女は深く頭を下げた。
「セレナ、お前もだ。向こうへ行っても鍛錬を怠るなよ」
「もちろんです」
「最初に会った頃に比べれば、随分と頼もしくなったな」
「そうでしょうか?」
「自分では分からないものさ」
ヒイラギはセレナの肩を軽く叩いた。
「次に会う時は、もっと強くなっていろよ」
「はい!」
二人はヒイラギのもとを後にした。
*
その日のうちに、二人はこれまで共に任務をこなしてきた仲間たちにも、旅立つことを伝えた。
「もう行っちまうのか?」
「ええ。少し遠くまで行くことになったの」
「そうか……。お前たちには随分助けられたからな。寂しくなるよ」
兵士の一人が、名残惜しそうに言った。
「こちらこそ、本当にお世話になりました」
セレナも頭を下げる。
「セレナ、お前はまだ若いんだ。これからいくらでも強くなれる。どこへ行っても頑張れよ」
「ありがとうございます」
「そっちの弓使いもな。あんたの矢にも何度も助けられた」
「そう言ってもらえると嬉しいわ」
短い言葉を交わしながら、二人は仲間たちに別れを告げていった。
この場所で過ごした時間は長くはなかった。
それでも、共に魔物と戦い、互いの背中を預けた仲間たちとの日々は、二人にとって大切なものになっていた。
*
夕方、二人は野営地の外れで荷物をまとめていた。
「これで、あとは船の手配ですね」
「そうね。まずは港町へ行って、サイレン行きの船があるか調べましょう」
「長い旅になりそうですね」
「そうね。でも、急ぐ必要はないわ。船の上では魔法の練習もできるでしょう?」
「そうですね!もう一度復習もしないと!」
「ふふ。感心ね」
カナデは荷物を背負い、遠くに広がる空を見上げた。
この大陸であの方の手掛かりを追い続けてきた。
けれど、ここで得られる情報はもう限られている。
次に向かうのは、海の向こうにある中央大陸。
彼が最後に戦った場所、サイレン。
そこへ行けば、今まで知らなかったことが分かるかもしれない。
「師匠、準備はできましたか?」
「ええ。行きましょう」
二人は並んで歩き出した。
海の向こうに何が待っているのか、まだ分からない。
それでも、二人の旅は新たな目的地へと進み始めていた。




