↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮面勇者  作者: Toooji
PR
27/36

第二十六話 変わらない呼び名


翌日の昼過ぎ。


魔物討伐軍の拠点に、数人の男たちが訪れた。


いずれも旅慣れた様子で、身につけている装備には古い傷が目立つ。


兵士たちと軽く言葉を交わしながら、迷うことなく建物の奥へと進んでいった。


「頭領!」


そのうちの一人が、ヒイラギの姿を見つけて声を上げた。


ヒイラギは書類から顔を上げる。


「久しぶりだな」


「お元気そうで何よりです」


「わざわざここまで来るとは、何かあったのか?」


「いえ、特別な用事というわけではありません。ただ、近くまで来たもので」


男は笑いながら答えた。


「それに、たまには頭領の顔を見ておこうと思いましてね」


「俺の顔など見ても面白くないだろう」


「そんなことはありませんよ」


男たちは懐かしそうに笑った。


その様子を、少し離れた場所でセレナは眺めていた。


彼らはヒイラギに対して、今の上官と部下というより、昔からの仲間として接しているようだった。


「昔と変わらんな」


「頭領こそ、相変わらずですね」


「そうか?」


「ええ。昔から、必要なことしか話さないところも」


「余計なことまで話す必要はないからな」


ヒイラギは短く答えた。


男たちはまた笑った。


*


しばらくして、ヒイラギはセレナたちを呼んだ。


「紹介しておこう。こいつらは、昔、俺と一緒に戦っていた仲間だ」


「セレナです。よろしくお願いします」


セレナは頭を下げた。


隣の彼女も、軽く会釈する。


「こちらは俺の部下だ、今は傭兵として討伐軍に加わっている」


「ほう。若いのに頭領のところで働いているのか」


男の一人がセレナを見た。


「頭領が認めたのなら、腕前も相当なものなんだろうな」


「まだまだですよ」


セレナが答えると、男は楽しそうに笑った。


「謙遜するところは、昔の頭領にそっくりだ」


「俺は謙遜などしていない」


「そうでしたね。頭領は昔から、たいしたことがないと言いながら、誰よりも先頭に出てましたね」


「必要だから前に出ていただけだ」


「その結果、何度も酷い目にあってましたけどね」


ヒイラギは返事をせず、少しだけ顔をしかめた。


その様子を見て、セレナは思わず小さく笑った。


普段のヒイラギからは想像しにくい一面だった。


*


その後、彼らは拠点の食堂で食事をすることになった。


昔の戦いの話は尽きないようだった。


「西の山脈で砦を構えていた頃が懐かしいですね」


「あの頃は食料を確保するだけでも大変だった」


「そうそう。ノームたちの洞窟の近くでしたね」


「お前は食料を探しに出ても、帰ってくるのが遅かったな~」


「いやあ、あれは道に迷ったんですよ」


「三度も同じ場所で迷う奴があるか」


男たちは声を上げて笑った。


セレナは彼らの話に耳を傾けていた。


西の大山脈。


ヒイラギがかつて反乱軍を率いていた場所だ。


そこでは、魔王に抵抗するために多くの者が集まり、苦しい生活を送りながら戦っていたのだろう。


「頭領は、その頃から強かったんですか?」


セレナが尋ねると、男の一人が首を横に振った。


「強かったというより、頑丈だったな。傷を負っても前に出るし、どれだけ疲れていても仲間の様子を見に行く」


「おかげで、こちらは何度も助けられました」


別の男が続けた。


「それに、頭領にも頼もしい仲間ができましたからね」


その言葉に、ヒイラギは黙って食事を続けていた。


「仲間、ですか?」


「ああ。俺たちとは別に、魔王と戦うために協力してくれた男がいたんだ」


男は懐かしそうに目を細めた。


「仮面をつけて、正体も素性もよく分からない男でしたが、剣の腕は凄まじかった。あいつがいなければ、俺たちは魔王の城にたどり着くこともできなかったでしょう」


セレナは、思わずヒイラギを見た。


ヒイラギは何も言わなかった。


ただ、手にしていた食器を静かに置いた。


「……あの男には、借りがある」


低い声だった。


「そうですね。いつか、もう一度会えるといいのですが」


男はそう言って、少し寂しそうに笑った。


*


食事を終えた男たちは、しばらく拠点に滞在することになった。


セレナは彼らと別れ、彼女とともに外へ出た。


「ヒイラギさんにも、いろいろな過去があるんですね」


「そうね。あの人が話したがらないだけで、きっと私たちが知らないことはたくさんあるのでしょう」


「魔王と戦った仲間がいたという話も気になります」


「無理に聞くことはないわ。話したくなれば、いつか話してくれるでしょう」


彼女はそう言って、弓の肩紐を直した。


セレナはうなずいた。


「そうですね」


「それより、今日の訓練で剣の振り方が少し乱れていたわよ」


「えっ?」


「疲れているのに無理をしたでしょう」


「少しだけです」


「少しでも無理は無理。魔法の練習も剣の訓練も、体が動かなければ意味がないわ」


「分かりました。気をつけます」


「よろしい」


彼女は満足そうにうなずいた。


セレナは苦笑しながら、拠点の建物を振り返った。


中からは、昔の仲間たちの笑い声が聞こえていた。


かつて共に戦った者たち。


離れた場所で暮らしていても、再会すれば変わらずに笑い合える。


その姿は、セレナの心に温かなものを残した。


そんなことを考えながら、彼女と並んで歩いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。