↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮面勇者  作者: Toooji
PR
12/40

第十一話 森を知る者


翌朝、セレナは宿屋で簡単な朝食を済ませると、街の北側へ向かった。


昨日、魔法道具店で聞いた話が気になっていた。


チャイムの近郊には、魔法に詳しい者がいるかもしれない。


まずは、その手がかりを確かめてみるつもりだった。


街の北側には、旅人や荷運びの者が使う道具を扱う店が並んでいる。


セレナはそのうちの一軒に入り、店主に尋ねた。


「すみません、この街に魔法を研究している方はいませんか?」


「魔法を研究している奴か?」


店主は棚から縄を取り出しながら、首を傾げた。


「魔法道具の職人もいるし治療師もいる。だが研究となると……」


「いろいろな魔法を使う魔法使いを探しているんですが…」


店主は縄を棚へ戻し、カウンターに肘をついた。


「役にたつかは分からんが、この街の北西に小さな森があるんだ」


「森ですか?」


「ああ。何年か前、その森の近くで変わった魔法を使う旅人が目撃されたことがある。詳しいことは知らんが、青白い光が木々の間に浮かんでいたそうだ」


セレナの目が輝いた。


「その方が、今も森にいる可能性は?」


「さあな。旅人だったという話だから、もう別の土地へ移っているかもしれん」


店主は少し考えてから、棚の下から古い地図を取り出した。


「森の場所ならこの地図に載っている。ただし、奥まで詳しく描かれているわけじゃない。道を外れれば迷うこともあるだろう」


セレナは地図を受け取り、描かれた森の位置を確かめた。


チャイムの街から北西へ向かえば、徒歩で半日もかからない距離らしい。


「ありがとうございます、参考になりました」


「待ちな。森へ行くつもりなら、先に森を知っている者を訪ねた方がいい」


「森を知っている方?」


「北門の外に、薬草採りの婆さんが住んでいる。長年この辺りの森に通っている人だ。どこが危険で、どこなら人が入れるのか、よく知っているはずだ」


「ぜひ、お話を伺いたいです」


セレナは礼を言い、店を出た。


*


北門を抜け、街道をしばらく歩くと、道の脇に小さな畑が見えてきた。


畑の周囲には低い柵が巡らされ、家の前には薬草を干すための棚が置かれている。


その脇で、腰の曲がった老婆が薬草を仕分けていた。


「おはようございます」


セレナが声をかけると、老婆は顔を上げた。


「おや、旅の人かい?」


「はい。突然すみません。この近くの森について、お話を伺いたくて」


老婆はセレナの仮面を眺め、それから彼の腰にある剣へ目を移した。


「森へ入るつもりかい?」


「まだ決めたわけではありません。森の中で、魔法を使う方が目撃されたと聞いたんです」


「魔法を使う人ねえ……」


老婆は薬草を籠へ入れ、ゆっくりと腰を伸ばした。


「そんな話があったのは確かだよ。もっとも、私が直接見たわけじゃないけれどね」


「どのような魔法だったのでしょうか?」


「夜、森の奥に青白い光が浮かんでいたそうだよ。火のように揺れるわけでもなく、しばらく同じ場所に留まっていたんだとか」


セレナは真剣に耳を傾けた。


「その光が見えた場所は分かりますか?」


「大体の方角ならね。でも、正確な場所までは分からない。森の奥は昔から人があまり近づかないからね~」


「危険な魔獣がいるのでしょうか?」


「それもあるだろうね。ただ、魔獣だけが理由じゃない」


老婆は森の方角を見つめた。


「この辺りには、森の奥へ入った者が道に迷ったという話がいくつもある。木々が似ているからだと言う者もいれば、不思議な魔法が働いているのだと言う者もいる」


「実際に、魔法が使われている可能性があると?」


「さあね。私には分からないよ。ただ、分からないものを分からぬまま行くのには感心しないね」


セレナは少し恥ずかしそうに頷いた。


「おっしゃるとおりです」


老婆は彼の返事を聞くと、家の前に置かれた椅子を指した。


「立ち話も何だ。お茶くらいなら出せるよ」


「ありがとうございます」


セレナは勧められるまま椅子に座った。


老婆が持ってきた茶は、薬草の香りが強かった。


一口飲むと、少し苦いが、喉の奥がすっとする。


「この森には、エルフが住んでいるという話も聞いたことがあります」


セレナが尋ねると、老婆は首を傾げた。


「エルフかい。永遠の森の方ならそういう話もあるだろうね」


「永遠の森……?」


「中央大陸王都の北に広がる大きな森さ。ここからは海を越えた先の話だよ。この辺りの森とは別の場所さ」


セレナは頷いた。


自分が今いるのは西の大陸だ。


永遠の森は遠い。


「この近くの森にも、エルフがいるのでしょうか?」


「私は見たことがないね。本当にいるかどうかも知らない。ただ、森の奥で不思議な光を見たという話と、森に住むエルフの話が、いつの間にか混ざってしまったのかもしれないよ」


セレナは考え込んだ。


人々の噂は、必ずしも正確ではない。


別々の出来事が結びつき、いつの間にか一つの話になってしまうこともあるのだろう。


「森へ行くなら、まずは入り口付近から確かめてみることだね。奥へ入るのは、それからでも遅くないよ」


「分かりました。ありがとうございます」


セレナは深く頭を下げた。


*


老婆の家をあとにした後、セレナは街へ戻る道を歩いていた。


森へ行く前に、必要なものを揃えなければならない。


食料と水。


森の地形を記した地図。


考えることは多かった。


けれど、不思議と気持ちは弾んでいた。


自分の探す魔法使いが、すぐ近くにいるかもしれない。


そう思うだけで、足取りが軽くなる。


やがて街道の脇に、小さな荷車が停まっているのが見えた。


車輪の片方が外れかけており、荷台には薬草の籠がいくつも積まれている。


そばでは、若い女性が困った顔で車輪を調べていた。


「どうかしましたか?」


声をかけると、女性は顔を上げた。


「車輪の留め具が外れてしまって……。街まで戻りたいのですが、このままでは荷物を運べそうになくて」


セレナは荷車のそばにしゃがみ込んだ。


留め具そのものは壊れていない。ただ、軸から外れかけているようだった。


「少し持ち上げます。留め具を押し戻せますか?」


「はい、やってみます」


セレナが荷台を持ち上げ、女性が留め具を押し込む。


何度か位置を調整すると、車輪は元どおりに固定された。


「これで大丈夫だと思います」


「助かりました。ありがとうございます」


女性は安堵したように笑った。


「近くで薬草を採っているんですが、今日は少し欲張ってしまいました」


「森の近くですか?」


「はい。奥には入りませんけれど、入り口付近なら薬草がよく育つ場所があるんです」


セレナは少し考えた。


「森の中で、魔法を使う人を見かけたことはありますか?」


「魔法を使う人、ですか?」


女性は首を傾げた。


「見たわけではありませんが、以前、森の入り口近くで不思議な矢を見たことがありますよ」


「矢?」


「木の幹に刺さっていたんです。普通の矢ではなくて、矢尻の近くに小さな紙が巻きつけられていました。紙には、見たことのない模様が描かれていました」


セレナは興味を引かれた。


「その紙は今も残っていますか?」


「もうなくなっていました。矢も古くなっていたので、誰かが使ったあとだったのかもしれません」


「矢の周りには何か変わったことはありませんでしたか?」


「木の幹が少し黒く焦げていました。何かの魔法が働いたのかもしれませんね」


セレナは、その話を頭の中で繰り返した。


魔法の模様が描かれた紙。


魔法を使う者が、矢を利用していたのだろうか。


自分が知っている魔法とは、違う使い方かもしれない。


女性は荷車の持ち手を握り直した。


「最近、森の周りで、あなたの様に仮面をつけた旅人を見かけたという話もありますよ。私も一度、遠くに人影を見ました。顔は分かりませんでしたけれど」


セレナは自分の仮面に触れた。


仮面をつけた旅人。


魔法の矢。


そして、森の奥に現れる青白い光。


今は、まだ分からないことばかりだった。


「いろいろと教えてくださって、ありがとうございました」


「いえ。こちらこそ、荷車を直していただいて助かりました」


女性は荷車を押し始めた。


セレナはその後ろ姿を見送り、街へ戻る道を歩き出した。


自分の知らない魔法は、まだまだたくさんある。


そう思うと、胸の奥が熱くなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。