フウの景色
王都、アルフォンス第二王子の離宮。
今日も、王都は平和だった。
「ふぅー。」
小さなオーガの子供、フウは目を覚ます。
知らない天井。
いや、少しだけ知っている天井だ。
赤いのがいる。
「おはよう、フウ。」
あかいの。
りでぃあ。
だっこしてくれる。
やさしい。
でも。
「ふぅ?」
鼻をふんふんと鳴らす。
いない。
黒いのがいない。
いつもいた。
一緒に寝て。
一緒にご飯を食べて。
一緒に遊んで。
一緒に木の棒を振っていた。
「シフォンたちなら、旅に出てるよ。」
めがねが言った。
ふぅ。
わからない。
でも。
いない。
◇
部屋の隅。
見たことのあるものがあった。
「ふぅ。」
とことこと歩いていく。
木の棒。
黒いのが、いつも振っていた。
ぶん。
ぶん。
ぶん。
速かった。
「ふぅ。」
持ち上げようとする。
重い。
仕方がないので、かじる。
「こら。」
あかいのが取り上げた。
「それは食べるものではない。」
「ふぅー。」
でも、においがする。
黒いののにおい。
「……。」
リディアは何も言わず、小さな頭を撫でた。
◇
昼。
王宮の庭。
「ふぅー。」
鼻をふんふん。
いない。
黒いのも。
きらきらも。
みどりも。
大きいのも。
いない。
「どうした?」
あかいのが聞く。
「ふぅ。」
わからない。
ただ。
いない。
◇
夕方。
あかいのが木の棒を振っていた。
ぶん。
ぶん。
ぶん。
つよい。
でも。
ちがう。
黒いのは、もっといっぱい振る。
ぶん。
ぶん。
ぶん。
「……シフォンを思い出しているのか。」
「ふぅ。」
あかいのは少しだけ困った顔をした。
「もう少しだ。」
「きっと帰ってくる。」
わからない。
でも。
あかいのは、やさしい。
◇
夜。
「ふぅ……。」
今日は少しだけ静かだった。
「寝るぞ。」
だっこされる。
あったかい。
目を閉じる。
夢を見た。
『フウー!ご飯ですよー!』
『ふぅー!』
黒いのが笑っていた。
目が覚める。
「……ふぅ。」
いない。
でも。
少しだけむねがあったかい。
きっと。
またいる。
そんな気がした。
窓の外では、王都の夜風が静かに吹いていた。
◇
焚き火を囲みながら、シフォンが呟く。
「フウ、元気ですかねぇ。」
「元気だろ。ケガも病気もしたこと無かったろ。」
「そうですけどー…。」
北部にも、夜風が吹いていた。




