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奴隷市場から始まる異世界冒険譚―第二部エルフ王国編  作者: たーけし
森の中で

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襲撃

ターケシたちの馬車は、分かれ道で北へ続く街道から東の街道へ進路を取る。

「どうして北へ行くのに東の道を使うんですか?」

荷台からシフォンが尋ねる。

「ああ。」

ターケシは頷く。

「あの北への道を真っ直ぐいくのが、エルフ王国への近道だ。」

「はい。」

「だが、あの道は、旧ハリントン領を通る。」

「はい。」

「ロザリアたちハリントン家の人気は、四年経っても衰えていない。むしろ王宮公認闘技大会で更に高まっている。」

「はい。」

「それが旧ハリントン領に入ったらどうなると思う?」

「…みんな喜びます。」

シフォンには辺境伯領での歓迎と送別が浮かんでいるのだろう。

「…民衆はな。だが、領主は喜ばない。自分より人気者が現れたら自分の人気が落ちるからだ。」

「でも通り過ぎるだけですよ?」

「そうなんだけどな。」

ハリントン家はまだ正式に復権していない。

王宮公認闘技大会優勝。

辺境伯の歓迎。

北部の民の支持。

それらは確かに力になる。

だが。

今のハリントン領には、別の領主がいる。

余計な火種は作らない方がいい。

『焦るな。』

辺境伯の言葉を思い出す。

『ハリントン領は逃げん。』

ロザリアは静かに頷いた。

日が傾き始めた頃。

一行は、小さな村へ辿り着いた。

東への街道沿いにある小さな村。

石造の家々。

畑。

井戸。

そして、一軒だけある宿。

「いらっしゃい。」

出てきた宿の主人は、無愛想な老人だった。

「四人だな。」

この村にも先触れは来ていたはずだ。

「部屋はある。」

「飯は出す。」

「愛想がないな。」

何も言わず、主人は奥へ引っ込んでしまった。

村人たちも、どこか様子がおかしい。

視線を向けてくる。

だが、近づいてはこない。

「何だか変ですね。」

シフォンが耳を伏せる。

「私、何かしちゃいましたか?」

「お前じゃない。」

フィリアが小さく呟く。

「見ているのは、ロザリアよ。」

ロザリアは居心地悪げだ

シフォンが耳をしゅんと寝かせて言う。

「…みんな、恥ずかしがり屋なんですよ。」

「…そうだといいな。」

夜。

宿は静まり返っていた。

月明かりだけが、窓から差し込んでいる。

五つの影が、音もなく村へ入り込んだ。

慣れている。

そう分かる動きだった。

宿の裏手。

鍵には、あらかじめ油が差されている。

蝶番も同じ。

音一つしない。

「……。」

リーダーだろう、一人の仕草に他の四人が頷く。

計画どおり。

部屋には四つの寝台。

膨らみが見える。

それぞれが短剣を構えた。

一。

二。

三。

同時に振り下ろす。

――軽い。

「何!?」

藁だった。

次の瞬間。

「炎よ、照らせ。」

ぱっ。

ロザリアの魔法で、光球が天井へ浮かび上がる。

突然の光に、刺客たちが目を焼かれた。

「ぐっ!」

「なっ!?」

「俺たちは人気者なんだ。」

声は、窓の外から聞こえた。

「会いたきゃ予約してくれ。」

次の瞬間。

バァン!!

窓が内側へ吹き飛ぶ。

ターケシが盾を構えたまま、窓枠から部屋へ侵入。 

そのまま一人を盾で殴り飛ばす。

ワイバーンの鱗の盾は見た目以上に重く衝撃力がある。

「いったん撤収――」

「捕まえた。」

「!?」

シフォンの腕が、叫ぼうとしたリーダー格の首へ巻き付く。

そのまま、裸絞め。

「ぐ……っ!」

「静かにしてください。」

「みんな寝てますから。」

その間にも。

ヒュン。

ヒュン。

二本の矢。

刺客二人の足が、床へ縫い付けられた。

「ぎゃあああっ!!」

「痛い!痛い!」

「動かないで。」

フィリアが三本目の矢を番える。

「次は膝よ。」

「ひっ……!」

残る一人が窓から外へ。

「逃げるぞ!」

だが。

窓枠に足をかけた瞬間、その足が止まった。

「な……。」

そこには。

数十人の村人たち。

松明。

農具。

猟弓。

そして、宿の主人。

「降参しろ。」

老人が低い声で言った。

「お前たちに、逃げ場はない。」

一時間後。

縛り上げられた刺客たちは、何も語らなかった。

「誰の差し金だ。」

「……。」

「現ハリントン領か?」

「王都か?」

「……。」

沈黙。

「…拷問するのもな。」

「こいつらは、この辺りの者じゃない。言葉が違う。」

宿の主人が話す。

「主人、知らせてくれて助かった。」

「お前さんたちは北部の人気者だ。ここで死なれちゃあ、おれたちが除け者になっちまう。」

村人たちも気まずそうに頭を下げる。

「申し訳ありません。」

「ロザリア様。」

「え?」

「私たちは、あなたを知っています。」

「……。」

「ハリントン家に、助けていただいたことがあるのです。」

「だから。」

「今度は、私たちの番です。」

ロザリアは何も言えなかった。

ただ、唇を噛む。

「本当に。」

「北部って、優しいんですね。」

シフォンがぽつりと呟く。

「ああ。」

ターケシは小さく頷く。

「ロザリアは、ここでも一人じゃないんだな。」

我知らず、大きな政治的陰謀に巻き込まれかけている。

内心ため息をついた。


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