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奴隷市場から始まる異世界冒険譚―第二部エルフ王国編  作者: たーけし
探索

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番兵

ギギ……。


機械人形の頭部、その中央。


赤い一眼が灯った。


「……光った?」


ユヅカが呟く。


次の瞬間。


ガコンッ!


機械人形の左腕が動いた。


腕と一体になったような機構が持ち上がる。


弩。


「伏せろ!」


バシュッ!!


矢が放たれた。


ガァン!!


ワイバーンの鱗を張った大盾に、凄まじい衝撃が走る。


「ぐっ!」


ターケシの身体がわずかに押された。


矢は盾の硬い鱗に弾かれ、床へ落ちる。


「お父さん!」


「大丈夫だ!」


ガコッ。


機械人形の内部で何かが動く。


弩に、次の矢が装填された。


「連射できるのか!」


バシュッ!!


ターケシは頭まで盾の陰へ潜り込ませた。


矢がそのすぐ上を通り過ぎ、後方の闇へ消えていく。


「前に出るぞ!」


盾の陰から機械人形を睨む。


「シフォン、俺に続け!」


「はい!」


ターケシが走り出した。


大盾を掲げたまま、一気に距離を詰める。


シフォンはその真後ろ。


身体を完全に盾の射線へ隠し、ぴったりと追従する。


ガコッ。


再び装填音。


十歩。


七歩。


五歩。


ターケシの右手が背中へ伸びた。


巨大な骨大刀を抜く。


「シフォン!」


「はい!」


機械人形まで、あと数歩。


そこで二人が分かれた。


ターケシは左へ。


シフォンは右へ。


ギギッ!


機械人形の頭部が動く。


赤い一眼が、右へ走ったシフォンを追った。


弩も動く。


狙いを定める。


「シフォン!」


だが、その射線へ。


ターケシの骨大刀が上から叩きつけられた。


ガァン!!


機械人形の右腕が動く。


そこに握られていた剣が大刀を受け止めた。


だが。


力が違う。


剣ごと押し込まれ、機械人形の上体が大きく傾いた。


同時に、左腕の弩まで壁の方へ向けられる。


バシュッ!!


矢が放たれた。


狙いは大きくずれている。


シフォンは横へ一歩。


軽く跳ねるようなステップで射線を外した。


矢はその脇を通り過ぎる。


ガンッ!


壁にぶつかり、跳ね返った。


「ふっ!」


ターケシが大刀を引く。


そして。


横薙ぎ。


ガシャン!!


赤い一眼ごと、機械人形の首が吹き飛んだ。


金属の頭部が宙を舞う。


ガンッ。


灰色の床へ転がった。


まだ胴体は倒れない。


その時。


後方から声が響いた。


「水槍よ、穿て!」


ロザリアの突き出した右手の先に集まった水が、鋭い槍となった。


一直線に飛ぶ。


ドンッ!!


水槍が機械人形の胴体を撃ち抜いた。


金属とも石ともつかない破片が飛び散る。


首なしの身体は剣を取り落とし、そのまま床へ崩れ落ちた。


静寂。


ターケシは大刀を構えたまま、しばらく動かなかった。


シフォンも二刀に手をかけ、倒れた機械を警戒している。


動かない。


ようやく、ターケシが大刀を下げた。


「……止まったか。」


「たぶん。」


シフォンが答える。


その後ろで。


「す……。」


ユヅカが立ち尽くしていた。


口をぽかんと開けたまま、父親たちを見ている。


「すごい……!」


目の前で起きたことに、まだ頭が追いついていない。


そんなユヅカへ、ロザリアが振り返った。


「ケガはないですわね?」


「え?」


「ユヅカ。どこか痛むところは?」


「あ……うん。大丈夫。」


「それならよかったですわ。」


ロザリアはそう答えると、すぐに倒れた機械人形へ視線を戻した。


ターケシは大刀を手にしたまま、その残骸を見下ろす。


「……さて。」


赤い一眼を失った頭部が、少し離れた床に転がっている。


「何なんだ、こいつは。」


「天井が開いて、そこから落ちてきました。」


シフォンが頭上を見上げた。


四人もつられて見る。


先ほど開いた部分は、そのまま暗い穴を覗かせている。


「最初から、あそこに入ってたのか。」


「たぶん。」


勝手に地下へ住み着いた魔物の類ではなさそうだった。


ターケシは改めて、倒れた機械人形を見る。


「このダンジョンの番兵ってところか?」


「ダンジョン?」


ユヅカが聞き返す。


「いや……現王宮の地下で、今も人が住んでるかもしれん施設だが。」


少し考える。


「もうダンジョンって言っていいだろう。」


「そうですわね。」


ロザリアが頷いた。


「少なくとも、明確に二発、私たちを狙ってきましたわ。」


「ってことは。」


ユヅカが機械人形を見る。


「私たち、この施設に敵か侵入者だと認識されてるってことよね?」


「まあ、仕方ないだろ。」


ターケシは大刀を背負い直した。


「実際、勝手に壁を壊して入ってきたんだ。」


「そう言われると完全に侵入者ね……。」


「ご主人様。」


シフォンが少し心配そうに、床に転がった頭部を見た。


「どうしましょう、これ。」


「何がだ?」


「壊れちゃいましたけど……女王様に怒られませんか?」


沈黙。


ターケシも残骸を見る。


首は飛んでいる。


胴体には大穴。


どう見ても修理が簡単そうな壊れ方ではない。


「……それはもう仕方ないだろ。」


「仕方ないですか。」


「フィリアを見つけてから、土下座して謝ろう。」


「お父さん、女王様に土下座するつもりなの?」


「壊したもんは仕方ない。」


ユヅカは機械人形の残骸を見下ろした。


「まあ、正当防衛というか、緊急避難ね……。」


それから、通路の奥を見る。


「早いとこ終わらせましょう。」


「ああ。」


どうやら。


先へ進むという一点については、父娘の見解は一致したらしい。

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