番兵
ギギ……。
機械人形の頭部、その中央。
赤い一眼が灯った。
「……光った?」
ユヅカが呟く。
次の瞬間。
ガコンッ!
機械人形の左腕が動いた。
腕と一体になったような機構が持ち上がる。
弩。
「伏せろ!」
バシュッ!!
矢が放たれた。
ガァン!!
ワイバーンの鱗を張った大盾に、凄まじい衝撃が走る。
「ぐっ!」
ターケシの身体がわずかに押された。
矢は盾の硬い鱗に弾かれ、床へ落ちる。
「お父さん!」
「大丈夫だ!」
ガコッ。
機械人形の内部で何かが動く。
弩に、次の矢が装填された。
「連射できるのか!」
バシュッ!!
ターケシは頭まで盾の陰へ潜り込ませた。
矢がそのすぐ上を通り過ぎ、後方の闇へ消えていく。
「前に出るぞ!」
盾の陰から機械人形を睨む。
「シフォン、俺に続け!」
「はい!」
ターケシが走り出した。
大盾を掲げたまま、一気に距離を詰める。
シフォンはその真後ろ。
身体を完全に盾の射線へ隠し、ぴったりと追従する。
ガコッ。
再び装填音。
十歩。
七歩。
五歩。
ターケシの右手が背中へ伸びた。
巨大な骨大刀を抜く。
「シフォン!」
「はい!」
機械人形まで、あと数歩。
そこで二人が分かれた。
ターケシは左へ。
シフォンは右へ。
ギギッ!
機械人形の頭部が動く。
赤い一眼が、右へ走ったシフォンを追った。
弩も動く。
狙いを定める。
「シフォン!」
だが、その射線へ。
ターケシの骨大刀が上から叩きつけられた。
ガァン!!
機械人形の右腕が動く。
そこに握られていた剣が大刀を受け止めた。
だが。
力が違う。
剣ごと押し込まれ、機械人形の上体が大きく傾いた。
同時に、左腕の弩まで壁の方へ向けられる。
バシュッ!!
矢が放たれた。
狙いは大きくずれている。
シフォンは横へ一歩。
軽く跳ねるようなステップで射線を外した。
矢はその脇を通り過ぎる。
ガンッ!
壁にぶつかり、跳ね返った。
「ふっ!」
ターケシが大刀を引く。
そして。
横薙ぎ。
ガシャン!!
赤い一眼ごと、機械人形の首が吹き飛んだ。
金属の頭部が宙を舞う。
ガンッ。
灰色の床へ転がった。
まだ胴体は倒れない。
その時。
後方から声が響いた。
「水槍よ、穿て!」
ロザリアの突き出した右手の先に集まった水が、鋭い槍となった。
一直線に飛ぶ。
ドンッ!!
水槍が機械人形の胴体を撃ち抜いた。
金属とも石ともつかない破片が飛び散る。
首なしの身体は剣を取り落とし、そのまま床へ崩れ落ちた。
静寂。
ターケシは大刀を構えたまま、しばらく動かなかった。
シフォンも二刀に手をかけ、倒れた機械を警戒している。
動かない。
ようやく、ターケシが大刀を下げた。
「……止まったか。」
「たぶん。」
シフォンが答える。
その後ろで。
「す……。」
ユヅカが立ち尽くしていた。
口をぽかんと開けたまま、父親たちを見ている。
「すごい……!」
目の前で起きたことに、まだ頭が追いついていない。
そんなユヅカへ、ロザリアが振り返った。
「ケガはないですわね?」
「え?」
「ユヅカ。どこか痛むところは?」
「あ……うん。大丈夫。」
「それならよかったですわ。」
ロザリアはそう答えると、すぐに倒れた機械人形へ視線を戻した。
ターケシは大刀を手にしたまま、その残骸を見下ろす。
「……さて。」
赤い一眼を失った頭部が、少し離れた床に転がっている。
「何なんだ、こいつは。」
「天井が開いて、そこから落ちてきました。」
シフォンが頭上を見上げた。
四人もつられて見る。
先ほど開いた部分は、そのまま暗い穴を覗かせている。
「最初から、あそこに入ってたのか。」
「たぶん。」
勝手に地下へ住み着いた魔物の類ではなさそうだった。
ターケシは改めて、倒れた機械人形を見る。
「このダンジョンの番兵ってところか?」
「ダンジョン?」
ユヅカが聞き返す。
「いや……現王宮の地下で、今も人が住んでるかもしれん施設だが。」
少し考える。
「もうダンジョンって言っていいだろう。」
「そうですわね。」
ロザリアが頷いた。
「少なくとも、明確に二発、私たちを狙ってきましたわ。」
「ってことは。」
ユヅカが機械人形を見る。
「私たち、この施設に敵か侵入者だと認識されてるってことよね?」
「まあ、仕方ないだろ。」
ターケシは大刀を背負い直した。
「実際、勝手に壁を壊して入ってきたんだ。」
「そう言われると完全に侵入者ね……。」
「ご主人様。」
シフォンが少し心配そうに、床に転がった頭部を見た。
「どうしましょう、これ。」
「何がだ?」
「壊れちゃいましたけど……女王様に怒られませんか?」
沈黙。
ターケシも残骸を見る。
首は飛んでいる。
胴体には大穴。
どう見ても修理が簡単そうな壊れ方ではない。
「……それはもう仕方ないだろ。」
「仕方ないですか。」
「フィリアを見つけてから、土下座して謝ろう。」
「お父さん、女王様に土下座するつもりなの?」
「壊したもんは仕方ない。」
ユヅカは機械人形の残骸を見下ろした。
「まあ、正当防衛というか、緊急避難ね……。」
それから、通路の奥を見る。
「早いとこ終わらせましょう。」
「ああ。」
どうやら。
先へ進むという一点については、父娘の見解は一致したらしい。




