↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奴隷市場から始まる異世界冒険譚―第二部エルフ王国編  作者: たーけし
世界樹の国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
44/63

いつもより

その日。


フィリアは、どこかおかしかった。


いつもより、よく喋る。


いつもより、よく笑う。


「シフォン、これ食べてみなさい。」


「えっ、まだ食べるんですか?」


「あなたが言う?」


「食べます!」


「フフッ……そうでなくちゃ。」


さっきクリームをたっぷり使った菓子を食べたばかりなのに、フィリアは別の店へ寄ると、今度は果実を練り込んだ焼き菓子を買ってシフォンへ渡した。


「おいしいです!」


「そうでしょう?」


「フィリアさんも食べます?」


「もちろん。」


二人で半分ずつ食べる。


少し歩けば、また別の露店へ立ち寄る。


「これもおいしそうね。」


「食べましょう!」


「お前ら、まだ食うのか。」


ターケシが呆れる。


「観光よ。」


「食ってるだけじゃないか。」


「ヴァエルシアの食文化を学んでいるの。」


「便利な言葉だな。」


フィリアは声を上げて笑った。


いつもなら、もう少し静かに笑う女だった。



次に捕まったのは、ロザリアだった。


「これ、似合うんじゃない?」


フィリアが露店から小さな飾りを手に取る。


葉を象った小さな留め具だった。


「昨日、髪飾りを買っていただいたばかりですわ。」


「それは髪飾り。これは留め具。」


「そういう問題では……。」


「じゃあ、これは?」


今度は、細い革紐に小さな青い石を通した腕飾り。


「フィリア。」


「何?」


「私を着せ替え人形にするつもりですの?」


「いいじゃない。似合うもの。」


「よくありませんわ。」


そう言いながらも、結局、一つ、また一つと、ロザリアの手には小物が増えていった。


「もう、本当に十分です!」


「遠慮しなくていいのに。」


「フィリア!」


ロザリアが困ったように声を上げる。


フィリアは楽しそうに笑った。


その少し後ろを歩くリュシアンが、ターケシと目を合わせる。


何も言わない。


だが、その顔には、はっきりと書いてあった。


――すまない。


――今日は許してやってくれ。


そんな顔だった。


ターケシは眉を寄せた。


やはり。


何かある。



「ターケシ。」


「今度は何だ。」


「これ。」


フィリアが屋台の串焼きを差し出してきた。


「自分で食え。」


「一口だけ。」


「いらん。」


「いいから。」


「何で俺に食わせようとするんだ。」


「おいしいものは分けるものよ。」


「さっきまでシフォンに全部食わせてただろ。」


「細かい男ね。」


「誰がだ。」


「はい。」


口元へ串を突き出される。


「やめろ。」


「ほら。」


「子供じゃないんだぞ。」


「いいから。」


仕方なく一口食べる。


フィリアが満足そうに笑った。


「どう?」


「うまい。」


「でしょう?」


「それだけか。」


「それだけ。」


何だったんだ。


ターケシには分からない。


少し離れたところでは、シフォンが手で口を押さえながら、こちらを見ている。


「か、間接チューだ……『あーん』だ……。」


ロザリアは、すっと視線を逸らした。


「た、ただ食べ物を分けているだけですわ。そ、それだけで……。」


リュシアンだけが、また申し訳なさそうな顔をしていた。


「……何だ、その顔。」


ターケシが小声で尋ねる。


「いや。」


「何か知ってるだろ。」


「……。」


リュシアンは少し黙った。


「今日は、好きにさせてやってくれ。」


「何なんだよ。」


「私からは言えない。」


それだけだった。



夕方まで。


フィリアは、よく喋った。


シフォンの食べ方を笑い、ロザリアに似合うものを探し、ターケシにくだらないちょっかいをかけた。


昨日までだって、十分に楽しそうだった。


だが。


今日は違う。


楽しんでいるというより。


楽しもうとしている。


そんなふうにも見えた。



その夜。


部屋へ戻った後。


「……ご主人様。」


シフォンが、小さな声で言った。


「何だ。」


「フィリアさん。」


「うん。」


「どこかに行っちゃうんでしょうか……。」


ターケシがシフォンを見る。


灰色の耳が、少し垂れている。


「何でそう思う。」


「だって……。」


シフォンは少し考える。


「今日、ずっと変でした。」


「そうだな。」


「いっぱい喋って、いっぱい笑って。」


「お前にいっぱい食わせてたな。」


「はい。」


「ロザリアにも、いろいろ買ってた。」


ロザリアが手元を見る。


今日、フィリアから半ば押し付けられた小物が、卓の上にいくつも並んでいる。


「……確かに、少し不自然でしたわね。」


「でしょう?」


シフォンが身を乗り出す。


「それに、部屋で別れる前も、ずっと喋ってたんです。明日は何食べようとか、今度はどこへ行こうとか……。」


そして、小さく呟く。


「何か、行っちゃう人みたいでした。」


部屋が静かになった。


ターケシは腕を組む。


「出張かもな。」


「出張?」


「何か別の任務だ。」


シフォンが耳を立てる。


「任務……。」


「フィリアは、どうもただの奴隷だったわけじゃないみたいだしな。」


エルフ王国へ来てから、少しずつ分かってきた。


女王との距離。


リュシアンとの関係。


王城の軍事区画へ当然のように入れる立場。


七年間の任務。


知らないことは多い。


だが、少なくとも、ただ旅の途中で偶然出会ったエルフではなかった。


ロザリアが考え込む。


「今朝の長老会への報告で、何かあったのかもしれませんわ。」


「長老会か。」


「はい。フィリアがあのようになったのは、その後でしょう?」


言われてみれば、その通りだった。


ターケシは少し考える。


「どうかな……。」


答えは出ない。


「明日、リュシアンにでも聞いてみるか。」


「教えてくれますかしら……。」


「分からん。」


「聞くだけ聞いてみればよいのでは?」


ロザリアが言う。


「そうだな。」


シフォンは、まだ心配そうだった。


「……フィリアさん、どこにも行かないといいんですけど。」


ターケシは答えなかった。


窓の外。


世界樹の葉が、夜風に揺れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。