↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奴隷市場から始まる異世界冒険譚―第二部エルフ王国編  作者: たーけし
世界樹の国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/67

宣告

長い報告が終わろうとしていた。


そこで、暗闇の中から一つの声がした。


「奇妙だな。」


フィリアが顔を上げる。


「何がでしょうか。」


「白聖王家の霊廟。」


別の声。


「鎮魂の書。」


さらに。


「オーガの特異体。」


また。


「赤牙。」


そして。


「そのすべてに、お前は関わった。」


「はい。」


「一人で解決したわけではあるまい。」


フィリアは少し黙った。


「はい。」


「誰の手を借りた?」


それは。


「ターケシたち、です。」


暗闇の向こうで、誰かが小さく動いた。


「かの者どもについて、詳しく教えよ。」


フィリアは報告し始めた。


最初は、事実だけを。


ターケシ。


C級冒険者の枠に留まらない高い戦闘能力を持ち、大刀と大盾を主武装としながら、空手、柔道、相撲、日本拳法、剣、短槍にも通じている。さらに馬術、野営、追跡、警戒にも長けている。


次にシフォン。


灰狼族。赤牙に村を襲われ、捕らえられた奴隷。優れた嗅覚と高い機動力を持つ。


そしてロザリア。


四年前に没落したハリントン家の生き残り。剣術と魔法を使い、王宮公認闘技大会でも戦果を挙げた。


フィリアの声には、いつの間にか熱が入っていた。


「ターケシは、戦闘能力だけの男ではありません。」


誰も聞いていないことまで。


「状況判断に優れています。退くべき時には退き、守るべき者がいる時は――」


止まる。


だが、もう遅かった。


「灰狼族の娘も、随分高く評価しているな。」


「事実でございます。」


「ハリントン家の娘も。」


「……はい。」


フィリアはわずかに息を整えた。


「彼らがいなければ、今回の任務を完遂できなかった可能性があります。」


一拍。


「私自身、ここへ戻ることもできなかったかもしれません。」


部屋が静まった。


そして、暗闇の中から声がした。


「つまり。」


「彼らは知りすぎたということか。」


フィリアの目が動く。


「……何をでしょうか。」


「鎮魂の書。」


別の声。


「白聖王家の霊廟。」


「オーガ。」


「ドワーフ。」


「赤牙。」


最後に。


「貴エルフ語。」


フィリアは黙った。


「間もなく帰国するのだろう。」


「はい。」


「ならば。」


声は、あまりにも淡々としていた。


「途中で事故に遭ったことにすればよい。」


一瞬。


フィリアは意味を理解できなかった。


「……何を……。」


「始末すべきであろう。」


「お待ちください!」


思わず大きな声が出た。


「何だ。」


「彼らは強いです。」


フィリアは前へ出る。


「特にターケシを確実に殺害しようとすれば、こちらにも相当数の犠牲が出ます。」


「ならば、寝込みを襲うなり――」


「警戒心が強い者です。野営時も眠りは浅い。シフォンは嗅覚に優れています。毒物についても、獣人と人間で作用に差が――」


「ならば、別の方法を――」


「その必要はありません。」


フィリアの声が、また少しだけ強くなった。


「彼らには、利用価値があります。」


暗闇。


誰も遮らない。


「ターケシは、人間の第二王子と接点がございます。王国の冒険者社会にも顔が利きます。ロザリアは貴族社会へ戻りつつある。シフォンも北部の獣人社会と――」


そこで。


フィリアは止まった。


誰も、何も言わない。


暗闇の中で、自分の声だけが余計に響いていた。


しまった。


フィリアは、ようやく気づいた。


始末すべきだ。


あれは、提案ではなかった。


本気で暗殺方法を相談したかったわけでもない。


試された。


自分が、どこまでターケシたちを守ろうとするのか。


長い沈黙。


そして。


「分かった。」


声。


「報告、ご苦労だった。」


フィリアは、しばらく答えられなかった。


「……ありがとうございます。」


「七年。」


別の声。


「よく務めた。」


「……はい。」


そして。


「少し、疲れているようだな。」


フィリアの目が動く。


「……。」


「しばらく、休め。」


一瞬。


意味が分からなかった。


しばらく。


その言葉だけなら、穏やかだった。


だが。


ここはエルフ王国だ。


フィリアは知っている。


長老たちの言う、しばらく。


十年?


二十年?


もっと?


「……それは。」


「任務を解く。世界樹の側で、ゆるりと鋭気を養うがよかろう。女王にも、我らから伝えておこう。」


「……恐れながら! 私には、すぐにやらねばならないことが――」


「下がれ。」


反論も質問も許されなかった。


フィリアは立ち尽くした。


少しだけ、長く。


それから。


諦めたように、深く頭を下げる。


「……承知いたしました。」



扉が閉じた。


リュシアンが、壁際で待っていた。


顔を上げる。


そして、すぐに表情が変わった。


「フィリア?」


返事がない。


「どうした。」


フィリアは、しばらくそこに立っていた。


「……帰るわ。」


それだけ言って、歩き出した。


「おい。」


リュシアンが後を追う。


来た時と同じ階段。


世界樹の地下から、地上へ。


一段。


また一段。


フィリアは黙ったまま登っていく。


「しばらく休め。」


その言葉だけが、頭から離れなかった。


長老たちの言う「しばらく」の意味。


十年か。


二十年か。


二百年か。


その頃。


ターケシは。


ロザリアは。


シフォンは。


もう。


もう、いないのだろう。


自分は、休養の名の下に軟禁される。


果たして、死刑宣告とどちらがマシだったろうか。


間もなく、地上の光が見えた。


フィリアは、考えるのをやめた。


階段を上る。


明るい。


地下の薄暗さに慣れた目には、朝の光が眩しかった。


「フィリアさーん!」


聞き慣れた声。


フィリアが顔を上げる。


シフォンが、こちらへ走ってくる。


その後ろに、ターケシとロザリア。


「ちょうどよかったです!」


シフォンの灰色の耳が、ぴんと立っている。


「女王様の侍女さんに教えてもらったんです! すっごくおいしいクリームのデザートが食べられるお店があるんですって!」


フィリアは、何も言わなかった。


「フィリアさん?」


シフォンが止まる。


顔を覗き込む。


「どうしたんですか?」


「……何が?」


「何か、元気がないです。」


「そう?」


「お腹、痛いですか?」


「……どうしてそうなるのよ。」


「だって昨日、いっぱいお菓子食べたじゃないですか。」


「あなたほどじゃないわよ。」


「私は大丈夫です!」


「でしょうね。」


「じゃあ、フィリアさんも大丈夫ですか?」


フィリアは、シフォンを見る。


彼女らと。


一緒にいる時間は。


あまり残されていないのだろう。


「……大丈夫よ。」


フィリアは笑った。


「本当に?」


「ええ。」


もう一度、笑う。


いつものフィリアらしく。


「行きましょう。」


「え?」


「そのお店。」


フィリアは、シフォンの横を通る。


「私も楽しみだわ。」


シフォンの耳が立った。


「本当ですか!?」


フィリアは振り返る。


そして。


普段の彼女からすれば。


不自然なくらい。


明るく笑った。


「いっぱい食べるぞー。」


「おー!」


シフォンが嬉しそうに拳を上げる。


「フィリアさん、今日は私と勝負ですよ!」


「望むところよ。」


「何の勝負だ。」


ターケシが呆れたように言う。


ロザリアが笑う。


いつもの声。


いつものやり取り。


フィリアも笑った。


その後ろで。


リュシアンだけが、笑わなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。