↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奴隷市場から始まる異世界冒険譚―第二部エルフ王国編  作者: たーけし
世界樹の国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/63

時には昔の話を

その日の夕方。

ターケシたちは王城へ戻った。

一日中歩き回ったせいか、シフォンはまたすっかり腹を空かせている。

四人に用意された食堂の卓には、焼いた川魚、香草を添えた野菜、木の実を練り込んだパン、果実、それに温かなスープが並んでいた。

「おいしいです!」

シフォンは今日、何度目か分からない言葉を口にした。

「お前、昼にも同じこと言ってなかったか。」

「お昼はお昼のおいしいです。これは晩ご飯のおいしいです。」

「便利だな、その言葉。」

「ご主人様も食べてるじゃないですか。」

「食事だからな。」

ロザリアが小さく笑う。

フィリアは慣れた様子で、果実酒の入った杯を傾けていた。

その時、扉が軽く叩かれた。

「どうぞ。」

フィリアが答える。

扉が開き、リュシアンが入ってきた。

「食事中にすまない。」

フィリアが座ったまま顔を向ける。

「長老会への報告日が決まった。」

その言葉に、フィリアの手がわずかに止まった。

「いつ?」

「明日の朝。」

「そう。」

それだけだった。

フィリアは何事もなかったように、杯を口元へ運ぶ。

ターケシは二人を見る。

長老会。

昨日、女王との会話でも出てきた言葉だ。

フィリアが七年間の任務について報告する相手らしい。

それ以上のことは、ターケシも知らない。

「伝達は以上だ。」

リュシアンが踵を返しかける。

「リュシアンさん!」

シフォンが呼び止めた。

「……何だ?」

「もう晩ご飯は食べました?」

突然の質問に、リュシアンが少し戸惑う。

「いや。これからだが。」

シフォンの耳がぴんと立った。

「じゃあ、一緒に食べませんか?」

「……私が?」

「はい!」

シフォンは満面の笑みで頷く。

「私、お二人のことをもっと聞きたいです!」

フィリアの杯が止まった。

「……シフォン。」

「だって、子供の頃からのお知り合いなんでしょう?」

「そうだけど。」

「七年ぶりに会ったんですよね?」

「そうね。」

「だったら、昔のフィリアさんのこと、いっぱい知ってますよね?」

「シフォン。」

先ほどより、少しだけ声が低くなった。

だが、シフォンは気づかない。

「フィリアさん、昔はどんな子だったんですか?」

リュシアンがフィリアを見る。

フィリアもリュシアンを見る。

短い沈黙。

ターケシはパンをちぎりながら、二人を見比べた。

ロザリアはすでに何かを察したのか、楽しそうに微笑んでいる。

リュシアンが静かに答えた。

「では、お言葉に甘えよう。」

「リュシアン。」

「夕食に誘われただけだ。」

「そう。」

フィリアは杯を置いた。

「余計なことを喋ったら、覚えておきなさい。」

「何のことか分からないな。」

「わあ! 楽しみです!」

シフォンだけが、心の底から嬉しそうだった。

やがて、リュシアンの分の食事も運ばれてきた。

「それで。」

待ちきれなかったのだろう。

リュシアンが一口食べるのも待たず、シフォンが尋ねた。

「お二人は、いつからのお知り合いなんですか?」

「いつから、と言われてもな。」

リュシアンが少し考える。

「子供の頃からだ。」

「じゃあ、幼馴染なんですね!」

「そうなるな。」

シフォンの耳が楽しそうに動く。

「初めて会ってから、どのくらいなんですか?」

「どのくらい……。」

リュシアンは少し考えてから、何でもないことのように答えようとした。

「三――」

「リュシアン。」

フィリアが遮った。

静かな声だった。

リュシアンが止まる。

フィリアは微笑んでいる。

だが、一瞬だけ、その視線が鋭くなった。

「人間の方々の前で、女性の年齢や、それを想像させるようなことを口にするのは、マナー違反ですよ。」

「……。」

リュシアンの背筋が、わずかに伸びた。

「いや、その……。」

明らかに怯んでいる。

「我々エルフは、細かな年月にはそれほど拘らないんだ。」

「そうですね。」

フィリアはにこやかに答えた。

「だから、つい。」

「そうですね。」

フィリアは何事もなかったように食事へ戻った。

「えー!」

シフォンが抗議の声を上げる。

「いいところだったのに!」

「何が?」

「だって今、リュシアンさん、『さん――』」

「フィ、フィリアは、子供の頃はよく喋る活発な女の子だった。」

「意外ですね! フィリアさん、いつも落ち着いていて大人の女性って感じなんですよ。何か面白かったことはありますか?」

「そういえば、この国では珍しい犬を初めて見た時――」

「あー! その話はやめなさい!」

「聞きたいですー!」

露骨な話題逸らしに気づかないまま、シフォンの質問攻めは続いた。

ターケシは何も言わず、黙々と食事を続ける。

聞きたいことはあった。

七年間の任務とは何か。

奴隷になっていたのも任務だったのか。

人間の王国で何をしていたのか。

そういえば、妙に裏社会にも詳しかった。

だが、ターケシは何も尋ねなかった。

彼女の秘密を知ってどうするのか。

知る必要があるのか。

彼女が自ら話すまでは、他愛のない子供時代の話でもしていればいい。

そう思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。