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奴隷市場から始まる異世界冒険譚―第二部エルフ王国編  作者: たーけし
攻防

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反撃 後編

「かかれ!!」

ローズの号令とともに。

北の灯火の戦士たちが襲いかかる。

「なんだこいつらは!」

赤牙の叫び。

剣と剣がぶつかる。

槍が、斧が繰り出される。

「押せ!」

「下がるな!」

怒号が飛び交うが、不意打ちが効いていた。

突然の至近距離での一斉射に、それまで少数の敵を追撃し包囲するつもりだった赤牙は、完全に態勢を崩されている。

「この!!」

ローズが長剣を振るう。

ガキンッ!!

敵の剣を弾く。

胴を薙ぐ。

「ぐあっ!」

赤牙の男が崩折れる。

みるみるうちに赤牙の先頭が下がっていく。

北の灯火の戦士たちが前へ出る。

「戦列を保て!」

「深追いするな!」

ローズは剣を構えたまま叫ぶ。

「敵はまだ百人以上いる!」

赤牙は退いている。

だが、総崩れしているわけではない。

森の奥には、まだ無数の人影が見える。

「負傷者を後ろへ!」

「弓兵! 次に備えろ!」

声が次々と飛ぶ。

北の灯火の戦士たちが素早く動く。

飛び出していた者が戻る。

負傷者が後方へ運ばれる。

弓を持つ者が木々の間に散る。

剣や槍を持つ者が、その前へ立つ。

押し返しただけで戦果だ。

ローズは赤牙の向こうを睨んだ。

「まだ来るぞ。」

赤牙の兵たちが後退する。

「前列を下げろ! 後列を出せ!」

声が飛ぶ。

「隊列を組み直せ!」

混乱していた兵たちが、徐々に動きを取り戻していく。

その後方。

リリアは剣を抜いていなかった。

黒髪を後ろで束ね。

左頬の古傷を動かすこともなく。

戦場を見ている。

「…五十。」

呟く。

マリナから聞いていた数と違う。

西へ逃げたのは三十前後。

その多くは負傷者。

そう聞いていた。

だが。

目の前にいるのは。

明らかに闘志にあふれた戦士たちが五十近く。

「隊長!」

兵の一人が駆け寄る。

「伏兵です! 北の灯火が――」

「見れば分かる。」

「はっ。」

リリアは森を見る。

追撃により隊列が乱れていた。

そこへ至近距離から一斉射を受けた。

さらに敵は、その混乱を利用して反撃してきている。

こちらが押し返されるのは当然。

深追いしてくれば包み込んでやろう。

だが。

「…突っ込んでは来ないな。」

リリアが呟く。

北の灯火は、こちらを追撃していない。

森の奥へ下がりながら戦列を整えている。

「ローズ。」

小さく名前を呼ぶ。

伏撃が成功し、こちらの先頭を崩した。

兵数差を考えれば、一気に畳みかけたいと思ってもおかしくない。

それでも、勝ちを急がない。

「厄介だ。」

だが。

数はこちらが圧倒している。

その事実は変わらない。

「弓兵。」

「はっ!」

「前へ。」

「一斉射の準備。」

伝令が走る。

「弓兵前へ!」

「前列、射線を開けろ!」

赤牙の兵たちが身をかがめ、あるいは数歩横へずれて射線を開ける。

その後方。

弓を持った兵たちが並ぶ。

リリアが手を上げた。

「射て。」

弦が鳴った。

「矢が来る!」

誰かが叫んだ。

ザザザザッ!!

空気が鳴る。

矢が森へ降った。

枝。

葉。

木の幹。

無数の障害物が、飛来する矢を阻む。

バキッ!

一本が枝を折った。

別の一本が木の幹へ突き刺さる。

何本もの矢が葉に触れ、軌道を変える。

それでも、何割かは地表へ、北の灯火の戦士たちへ降り注ぐ。

「ぐっ!」

男が肩を押さえた。

「大丈夫か!」

「腕だ! まだ動ける!」

「うっ!」

女が膝をつく。

腿に矢が刺さっている。

「下がれ!」

「肩を貸せ!」

二人が負傷者を抱える。

「第二射が来る!」

また誰かが叫んだ。

「木の陰へ! 伏せろ!」

ローズの号令。

戦士たちが一斉に散る。

再び。

ザザザザッ!!

矢が降る。

カンッ!

ターケシの大盾に矢が当たった。

一本。

二本。

三本。

盾を傾ける。

その陰へシフォンが滑り込んだ。

「ありがとうございます!」

「頭出すな。」

「はい!」

矢が木々を叩く。

葉が散る。

枝が落ちる。

森そのものが雨に打たれているようだった。

威力は削がれている。

命中率も高くない。

だが。

数が違う。

一本。

また一本。

北の灯火に傷を増やしていく。

ローズは周囲を見る。

このまま射たれ続ければまずい。

「後退する!」

声を張り上げる。

「負傷者から下げろ!」

「弓兵は交互に射て!」

「前列! 敵を近づけるな!」

北の灯火が動く。

走らない。

背中を見せない。

互いに庇いながら。

少しずつ。

西へ下がる。

「下がれ!」

「そっちの負傷者を先に!」

「慌てるな!」

「戦列を崩すな!」

ローズは前線に残る。

「ローズ様!」

仲間の一人が振り返る。

「先に下がれ!」

「しかし――」

「殿には私も加わる。お前たちは負傷者を連れて下がれ。」

仲間は命令に従った。

ローズは長剣を構える。

その横へ。

大刀と大盾の男が並ぶ。

「俺も。」

「働き者だな。」

「働き者の奴隷商人なんて聞いたことないだろう?」

「どうかな。」

ターケシが大盾を、ローズが長剣を構える。

カンッ!!

矢を盾に当てて弾く。

その横から接近した赤牙の兵へ、ローズが踏み込む。

ガキンッ!!

剣を弾く。

返す刃を肩口に打ち込み、前蹴りで倒す。

敵はひっくり返った。

「少しずつ下がるぞ。」

「ああ。」

下がる。

追いすがる敵に向き直って斬り伏せる。

また下がる。

戦線は再び西へ移りつつあった。

「敵が後退していきます!」

報告を聞いて。

リリアは目を細めた。

北の灯火は崩れてはいない。

負傷者を下げ。

弓で牽制し。

前列を交代させながら後退している。

見事なものだ。

だが。

後退は後退。

そして。

こちらには数がある。

「前衛をさらに前に。」

「追撃ですか?」

「ああ。」

「弓兵は?」

リリアは前方を見る。

北の灯火との距離が開きつつある。

このまま森の奥へ逃げ込まれれば。

また追跡のやり直しになる。

「後方から援護させろ。」

「はっ!」

リリアが手を上げる。

「追え!!」

号令が響いた。

赤牙が動く。

剣を持つ者。

槍を持つ者。

次々と西へ走り始める。

「逃がすな!」

「押せ!」

「北の灯火の奴らをここで潰せ!」

再び。

赤牙の主力が前へ出る。

北の灯火を追って。

さらに西へ。

さらに前へ。

後方には。

弓兵たちが残った。

弓を番え。

前方へ注意を向け。

追撃する味方を援護する。

彼らにとって、敵は前方にしかいないはずだった。

遠く。

微かに。

鋼のぶつかる音が聞こえた。

クラウスが右手を上げる。

馬が速度を落とした。

後ろの騎士たちも続く。

ロザリアも手綱を引いた。

「音が…聞こえますわ。」

「ああ。」

剣戟。

怒号。

時折。

矢の飛ぶ音。

間違いない。

戦闘が行われている。

「遠くないな。」

クラウスは馬上から森の奥に目を凝らす。

街道ではない。

獣道ですらない。

木々が不規則に並ぶ北部の森。

普通ならば、騎兵が速度を出せる場所ではない。

しかし、この騎士たちは違う。

北部で育ち。

森を走り。

雪原を越え。

山道を馬で駆ける訓練をしてきた。

馬もまた。

この土地で育っている。

「音を抑えろ。」

クラウスが低く言った。

騎士たちが頷く。

速度を落とす。

木を避け。

岩を回り。

柔らかな地面を選ぶ。

ロザリアとクラウスを含めた十二騎が。

森の中を静かに進む。

やがて。

木々の向こうに人影が見え始める。

赤牙。

ロザリアの表情が変わる。

「…いましたわ。」

クラウスが手で制した。

「まだです。」

ロザリアは頷く。

前を見る。

弓兵。

二十。

三十。

さらにその向こう。

赤牙の兵たちが西へ走っている。

何かを追っている。

そして。

そのさらに先。

木々の隙間。

一瞬。

長い金髪が見えた。

剣を振るう女。

「…姉様…!」

ローズが戦っている。

ロザリアはクラウスを見る。

その若き指揮官は、手をかざして目を細める。

「あれがハリントン子爵家のご長女、ローズ殿か。四年前の事件から消息不明と聞いていましたが、本当に生きておられたのですね。」

感慨にふけるだけではもちろん、ない。

赤牙の隊列を観察している。

弓兵。

全員が西を向いている。

その前方。

赤牙の主力はさらに遠ざかっていく。

「追え…!」

遠くからの女の号令。

赤牙の指揮官だろう。

赤牙の兵たちが、さらに西へ走る。

クラウスは待った。

赤牙の前衛が前方へ離れていく。

弓兵たちは、もちろんこちらに気づいていない。

クラウスが片手を前に出す。

十一騎が静かに動き始める。

常歩。

速歩。

そして。

駈歩。

蹄が地面を蹴る。

トッ。

トトッ。

トトトトトッ!!

木々の間を。

馬が走る。

迫る枝に、クラウスとロザリアは身体を伏せる。

頭上を枝が掠めていった。

大きな木の根や岩は、馬体を傾けてかわす。

倒木には、手綱を引く。

馬が跳び越える。

着地してそのまま加速。

後続も続く。

一列。

二列。

木々の間隔に合わせて形を変えながら。

十一騎が森を駆ける。

ロザリアも遅れない。

赤牙の弓兵の一人が。

ようやく異変に気づいた。

「…何だ?」

蹄の音。

それも近い。

男が振り返る。

木々の間から。

青地に銀狼の旗が現れた。

男の顔から血の気が引く。

「き、騎兵だとぉ――」

「抜刀!!」

クラウスが剣を抜いた。

十一騎が応える。

「応!!」

ロザリアも剣を抜く。

赤牙の弓兵の指揮官が振り返った。

その時には。

もう遅かった。

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