対応
天幕へ一人の斥候が駆け込んできた。
「報告!」
リリアが視線だけを向ける。
「何だ。」
「辺境伯軍が動きました!」
天幕の空気が変わる。
「規模は。」
「騎士五十ほど!」
「街道沿いの町村へ分散しております!」
「各地で猟師や木こり、民兵まで招集している模様!」
参謀が顔をしかめる。
「こちらを嗅ぎ回っているのか……?」
リリアは答えない。
地図へ視線を落とす。
辺境伯軍。
ローズ。
自軍。
三つを頭の中で並べる。
やがて口を開いた。
「目的は。」
斥候は首を振る。
「不明です。」
「ロザリアたちを捜索している、との話は耳にしました。」
「何でも、王都からエルフ王国へ向かう使節が行方不明になったとか。」
ロザリア・ハリントン。
ローズの妹か。
地図を見つめる。
「……そうか。」
リリアは静かに頷いた。
「ローズとの繋がりがあるとは限らん。」
「偶然かもしれん。」
「だが。」
指先が西の森を叩く。
「辺境伯軍とローズに接触されれば厄介だ。」
参謀が息を呑む。
「では……。」
「西へ百二十。」
参謀が目を見開く。
「百二十…。」
「先行した三十と合わせれば、西へ百五十になります。」
「ああ。」
リリアが言葉を続ける。
「ローズに速やかにとどめを刺す。」
「辺境伯軍とぶつかる前にな。」
天幕の外で怒号が飛ぶ。
「第三隊から第六隊!」
「西へ!」
武装した男たちが次々と持ち場を離れ、西の森へ駆け出していく。
赤牙の兵力は、目に見えて西へ流れ始めた。
その様子を、少し離れた樹上から一人のエルフが静かに見下ろしていた。
(……西へ増派。)
(敵拠点は、手薄になる。)
事態は、ターケシとローズ達の望むように動いていた。




