第二戦線 宿場村
朝日が森の向こうから昇り始めていた。
ロザリアは走り続ける。
枝が頬を掠める。
泥が靴へ跳ねる。
息は荒い。
それでも足は止めない。
(間に合って。)
その一心だけだった。
やがて森が途切れる。
見えてきたのは、小さな宿場村だった。
木柵。
見張り台。
そして、青地に銀狼を描いた旗。
ヴィンターベルグ家。
村の入口では、武装した兵たちが慌ただしく行き交っている。
「止まれ!」
入口で槍が交差した。
槍を構えた民兵たちが鋭く叫ぶ。
「何者だ!」
ロザリアはようやく足を止め、息を切らしながら声を張り上げた。
「ロザリア・フォン・ハリントンです!」
民兵たちの表情が一変する。
「ロザリア様!」
「ご無事でしたか!」
「ここの指揮官に会わせてください。」
「すぐに騎士団の力が必要なのです!」
再び走り出そうとした。
しかし、力が入らない。
張り詰めていた緊張が切れたのか、膝が大きく震えた。
その時だった。
鎧の触れ合う音が近づく。
「ロザリア殿?」
男たちが左右へ道を開く。
姿を現したのは、一人の若い騎士だった。
銀の胸甲。
青い外套。
腰には長剣。
母譲りの赤髪が朝日に照らされている。
ヴィンターベルグ辺境伯三男。
クラウス・ヴィンターベルクだった。
彼はロザリアの姿を見るなり、駆け寄って肩を支えた。
「ご無事で何よりです。」
「何がありました。」
ロザリアは荒い息を整える暇もなく答える。
「北の灯火が……私の姉、ローズたちが襲撃されました。」
「赤牙です。」
空気が張り詰める。
クラウスの瞳が鋭く細まった。
「規模は。」
「約二百。」
「現在、ターケシ、シフォン、フェルネアが敵を西へ誘導しています。」
「ローズお姉様は子供たちと南へ避難中です。」
「お願いします。」
ロザリアは深く頭を下げた。
「どうか、力を貸してください。」
クラウスは目を閉じた。
一瞬だけ、父エドゥアルトの言葉が脳裏をよぎる。
――客人を守るのは、迎え入れる側の務めだ。
静かに目を開く。
敵は約二百。
対するこちらは五十騎。
しかし、敵は分散している。
ターケシたちが時間を稼いでいる今なら、各個撃破は可能だ。
勝機はある。
「角笛を鳴らせ。」
近くの騎士が駆け出す。
クラウスは周囲を見渡した。
「伝令。」
「捜索活動は、ただいまをもって中止。」
「各班の騎士団を速やかにこの村へ集結させろ。」
「完全武装。」
「出撃準備だ。」
「はっ!」
命令は矢継ぎ早に飛び、村の空気が一変する。
やがて。
低く重い角笛の音が、北部の森へ響き渡った。
それは、散開していたヴィンターベルグ騎士団へ向けた、緊急集結の合図だった。




