決闘の行方
「ほれ、お前の得物だ。」
ローズから木剣と木盾が投げ渡される。
ターケシは反射的にそれを受け止めた。
道具を粗末にするのは性に合わない。たとえ牢から出された直後でも、地面に落としたりはしない。
「……。」
「何だ。」
「いや、長剣じゃないのか。」
ローズは当然のように鞘から長剣を抜いた。
「こっちは木剣と木盾。」
「ああ。」
「そっちは真剣。」
「ああ。」
「不公平じゃないか?」
「黙れ悪党。」
朝日を受けて、銀色の刃がきらりと輝く。
「ロザリアを怪しげな魔法だか何だかで誑かしおって。」
「誑かしてない。」
「その首、今日で胴体とお別れにしてやる。」
「お姉様。」
ぺしん。
「あいたっ!?」
良い音が響いた。
振り返ると、ロザリアが木剣を片手に仁王立ちしていた。
「やめてくださいまし。」
「ロザリア……。」
飼い主に怒られた飼い犬みたいな顔をしている。
「木剣に持ち替えてください。」
「しかし!」
「木剣です。」
「……はい。」
素直に妹の言うことを聞く姉だった。
「審判はわたくしが務めます。」
「シフォンは応援します!」
「フィリアは?」
「朝ご飯を食べながら見てる。」
「何でお前だけ食ってるんだ。」
「勝手に朝食をかけたのはあなただけです。」
「理不尽だ。」
朝の冷たい空気の中。
北の灯火の住人たちが見守る中。
北部レジスタンスの長と、元闘技奴隷の男が向かい合う。
かくして――
朝食を賭けた真剣勝負が始まった。
◇
カンッ!!
「はっ!」
ローズの初太刀。
流れるような剣筋。
だが。
ゴッ。
木盾が止める。
「……。」
「……。」
ターケシは受ける。
カンッ!
ゴッ!
ガッ!
攻めているのはローズ。
だが。
一歩。
また一歩。
ターケシが前へ出る。
◇
皆が息を呑んで見守る中。
ローズは気づく。
(下がらされている……。)
攻め手はこちらが多い。だが、尽く防がれ、流され、徐々に押し下げられている。
木盾がぶつかる。
ゴッ。
ローズは思わず奥歯を噛みしめた。
(重い……。)
力ではない。
圧だ。
この男は、一度たりとも下がらない。
ならば。
「流星!」
一歩踏み込み。
全身を使った刺突。
ハリントン流最速の一撃。
「そこだ。」
ガンッ!!
「なっ……!?」
流星が放たれる、その瞬間。
ターケシの木盾がローズの剣を弾く。
同時に。
木剣の切っ先が、ローズの喉元で止まっていた。
「そこまで!勝者ターケシ!」
ロザリアの判定が下る。
シフォンが尻尾を振りながら手を叩く。
「速かった。」
「だが、技の起こりが見えた。」
「終わりだ。」
「……。」
「飯はシチューで頼む。」
「くっ…そんな理由で私の流星が破られたのか!?」
「空腹だった。」
「姉様。」
「ご主人様はそういう方です。」
かくして、奴隷商人という疑惑は薄まり、朝食は無事、ターケシの胃のなかに収まった。




