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奴隷市場から始まる異世界冒険譚―第二部エルフ王国編  作者: たーけし
北の灯火

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英雄は戦う。朝食をかけて。

ロザリアとシフォンは、奴隷市場での出会いから始まる長い旅路を語った。

奴隷商人に並べられていた少女たち。

自由を得た日のこと。

森で巨大オーガと戦ったこと。

神話に語られる巨人を討ったこと。

赤牙に連なる組織の拠点を焼き払い、職人街を救ったこと。

地下格闘技大会。

王宮公認闘技大会。

そして、優勝。

エルフ王国へ向かう旅路の途中で、この隠れ里へ辿り着いたこと。

食堂は静まり返っていた。

誰も口を挟まない。

片腕の男は口を半開きにし、子供たちは目を輝かせている。

マリナは何度も「まぁ……」と呟き、ローズは腕を組んだまま微動だにしなかった。

やがて。

「――というわけで、エルフ王国へ向かうところだったんです。」

ロザリアが締めくくる。

「なるほど。」

ローズは静かに頷いた。

そして、隣のマリナへ目配せをする。

マリナは困ったように苦笑した。

「つまり、その男は奴隷を買った。」

「はい。」

「だが、自由にした。」

「はい。」

「命を懸けて巨大オーガと戦い。」

「はい。」

「神話の巨人を討ち。」

「はい。」

「赤牙の拠点を壊滅させ。」

「はい。」

「王宮公認闘技大会で優勝した。」

「はい。」

「……。」

ローズは腕を組んだ。

「実に素晴らしい。」

「ですよね!? ですからターケシさんを解放――」

「実に素晴らしい物語だ。」

「姉様?」

「まるで吟遊詩人の英雄譚のようだ。」

「ですけど、事実ですわ。」

「しかも、元闘技奴隷。」

「はい。」

「盾を持ち。」

「はい。」

「料理ができ。」

「はい。」

「子供の面倒も見て。」

「はい。」

「奴隷たちのために戦う。」

「はい。」

「……。」

「……。」

ローズは深々とため息をついた。

「ロザリア。」

「はい。」

「本当にお前たち、洗脳魔法をかけられていないか?」

「姉様!!」

「マリナ! 浄化魔法だ! 解呪薬を!」

「どちらもここにはありませんよ……。」

「なぜだ!」

「普通は常備しません。」

「では誰か魔法の使える者を呼べ!」

「そんな理由で夜中に起こされたら、今度は私たちが怒られます。」

ローズは頭を抱えた。

「そんな男が存在してたまるか……。」

「存在してます!」

「しかもエルフが同行している。」

「してますわ!」

「王子とも知り合い。」

「知り合いです!」

「子オーガまで育てている。」

「育ててますわ!」

「意味が分からん!!」

食堂中にローズの叫び声が響いた。

翌朝。

がちゃん。

待ち望んだ、鉄格子の鍵が開く音で、ターケシは目を覚ました。

「おい、奴隷商人。」

「……。」

聞き覚えのある声だった。

「何だ。ロザリアの姉さんか。」

「そうだ。ローズという。」

「おはよう。」

「お、おはよう……いや、挨拶はいい!」

思わず返してしまい、ローズは顔を赤くした。

隣の牢では、フィリアが毛布にくるまったまま小さく肩を震わせている。

「笑うな。」

「ふふ。」

ローズは咳払いをした。

「お前、私と勝負しろ。」

「あ?」

「本当に吟遊詩人の歌う英雄譚に相応しい男か、この私が見極めてやる。」

「まじか。」

ターケシは面倒くさそうにため息をついた。

「また幸運が逃げるとか言われるわよ。」

「この状況でまだ逃げる幸運があると思うか?」

「確かにないかも。」

「ええい! 私語を慎め!」

ローズが怒り出す。

「牢屋で雑談しているだけなんだが。」 

「そこが気に入らん!」

ターケシは諦めたようにローズに向き直る。

「ちなみに、断ったら?」

「疑いは深まる。」

「勝ったら?」

「疑いは少し薄まる。」

「負けたら?」

「疑いは確信に変わる。」

「おれに得がないな。」

「黙れ奴隷商人。」

ターケシはしばらく考えた。

「ところで朝飯は?」

「出ると思うか?」

「出ないのか。」

「……。」

「……。」

ローズは尊大に腰に手を当て、胸を張る。

「勝ったら考えてやる。」

「よし。」

ターケシは立ち上がり、大きく背伸びをする。

「表へ出るか。」

「何だ、その軽さは。」

「飯がかかってるからな。」

「お前、本当に英雄なのか?」

「知らん。」

隣の牢から、くすりと笑い声が聞こえた。

「頑張ってね、英雄様。」

「うるさい。」

こうして。

北の灯火のリーダー、ローズ・フォン・ハリントンと。

元闘技奴隷にして、現・奴隷商人容疑者ターケシの朝の決闘は始まった。

とりあえず朝食をかけて。

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