森の邂逅と感動の再会
王都を出て十四日目。
荷馬車は、エルフ王国へ続く街道をゆっくりと進んでいた。
左右は深い森。
人の気配はない、はずだった。
「ターケシさん、この辺りは本当に静かですわね。」
「静かだな。」
「ご主人様。」
「何だ。」
「何かいます。」
ターケシが馬車馬を急かす。
だが街道脇道。大して速度は上がらない。
石を乗り越えたのだろう、馬車が大きく揺れる。
全員が手すりか荷物にしがみつく。
「何人だ。」
「いっぱい。」
「便利だな、その数え方。」
シフォンが鼻をふんふんと鳴らした。
「上です!!」
次の瞬間だった。
「悪党め!!観念しろ!!」
「なっ!?」
一人の女性が、木の上から荷馬車へ飛び降りてきた。
着地の衝撃を膝で吸収したのか、大して馬車は揺れなかった。
金色の長髪。
軽装の鎧。
腰の長剣は既に抜き放たれていた。
二十代半ばほどだろうか。
そのまま、御者台と荷台の間…ターケシ&フィリアとシフォン&ロザリアを分かつように割り込む。
「動くな!!」
「……。」
ターケシは思わず固まった。
「何だ?」
「しらばっくれるな。」
女が長剣をスッとターケシの首に当てる。
その動作だけで得物を扱い慣れていることがわかる。
「何をだ。」
「己の罪の全てだ。悪党。」
何故か悪党呼ばわりされている。
「君!」
女はターケシから目を離さないまま、シフォンへ手を伸ばす。
「安心しろ!もう大丈夫だ!」
「へ?」
馬車の周りを軽装の鎧の男女が囲んでいく。
槍や剣がターケシとフィリアに突きつけられる。
「君もだ!」
女はターケシとフィリアの拘束は他の者に任せたのか、剣を下げ、今度はロザリアの手を掴む。
「怖かっただろう!?」
「え?」
一瞬。
女の瞳が揺れた。
金色の髪。
碧い瞳。
どこか見覚えのある顔。
だが、そんなはずはない。
「今、助けてやる!!」
「ええっ!?」
ターケシはフィリアを見る。
フィリアもこちらを見ていた。
「……。」
「……。」
「お前、何かしたか?」
「してないわ。」
「お前が言うと信用できない。」
「心外ね。」
「奴隷商人!!」
ロザリアの肩を左腕で守るように抱き、女が再び剣を突き付ける。
「観念しろ!!」
「おれが?」
「お前だ!!」
「いや…その…。」
「ご主人様。」
「何だシフォン。」
「ご主人様って、奴隷商人だったんですか?」
「違う。」
「あ、でもお金で私達を買いました!それが奴隷商人ってことじゃ!」
「おいいま余計なことを…」
「この男とエルフを縛れ。アジトに連れて行く。目的地も流通ルートも吐いてもらう。」
「ま…待ってくださいませ!」
初めてロザリアがまともに声を出す。
混乱を抑えるように胸を押さえながら。
「その人は…そのエルフも…奴隷商人なんかじゃありません…えっと…」
「ロ、ローズ姉様…?」
長剣の女騎士の瞳が見開かれ、激しく揺れる。
「ま、まさか…」
ガシャンと両手の籠手を投げ捨てた女騎士が、がっと抱きしめるようにロザリアの顔を素手の両手で挟む。
「し、信じられない…ああ…神様…」
みるみるうちに両の目から雫が溢れた。
「ロザリア…生きていたのか…」
「ローズ姉様…」
感動の再会。抱き合う生き別れの姉妹。確かに、年の差はあれどよく似ている。
「さぞ…さぞ苦労したであろう…苦しかったであろう…辛かったであろう…もう何も心配いらない。重いものを運んだり寒い日に水洗いをしたり暑い日に遠くまで買い物に行ったりしなくていいんだ。」
「…あの、姉様?」
「いいんだ皆まで言うな!言いたくないこともあるだろう!今はよく食べてよく寝てよく食べなさい!」
「二回食べろって言いました?」
シフォンが突っ込む。
「大事なことだ!」
「あの、そうではなくて…。」
もらい泣きするローズの仲間もいた。
思わず涙ぐむターケシだったが、
「ほら、歩け奴隷商人。」
男の槍に小突かれる。
「えっおれは解放されないの?」
「当たり前だ!首領の妹君をひどい目にあわせやがって!余罪も吐いてもらうからな!」
大きくため息をついた。ややこしいことになってしまった。
「ため息なんかついたらだめですよご主人様!幸せが逃げちゃいますよ!」
「もうお前は黙っててくれ…。」




