彼らと彼
彼は動いた
理性、使命、記憶…
それらを得た事で帰巣本能に抗う事が出来た
しかし彼の複数の意思の多くは帰巣本能に従い森の奥深くを目指す
森の中から轟音が鳴り響く
獣とも人ともつかぬ叫び声
巨大な何かを引きずる音
巨大な何かが踏みしめる音
肉を裂き、ちぎり、喰らい合う音
木々はなぎ倒され、丘が破砕される音
ーーー
丁度その時に監視者としての任を受け、大工などの技術者と共に大森林に踏み入らんとする者達がいた
が、即座に引き返す
どんなに急いだとて領主に報告するするまでもない
轟音はその者達の頭上を越え街に、そして城にも届いた
その者達はただ、己の命惜しさに逃げ帰るのだ
ーーー
三日三晩、彼は自身である彼らと戦い続けた
やがて体や力の大半を彼らに奪われ森の外に出る
常人であれば簡単に発狂できる程の混沌とした思考、その中から浮かび上がったのは真新しい騎士達の記憶
女達を追う使命
…よりも生きて家族のところへ帰りたいと泣き叫ぶようなものだった
彼はそれに従う
だがそんな記憶や願いなど、彼が一歩目を踏み出した時にはすでに混沌の中だ
しかし彼は行く
自身の歩みを止める程の理由が、混沌の中から浮かばなかっただけだ
彼の今の理性など獣以上ヒト未満
彼女達を守る
それが最初であり根幹であり未練であり呪い
だがそれは彼女達を前にした時の話
今はただ全てが敵
襲うか壊すか喰う
それも元を辿れば彼女達の敵を、という行動から来ることかも知れない




