彼女
わけがわからない
とにかく逃げる
逃げろと言われたから逃げる
すぐに後ろから叫び声が聞こえた
逃げろと言ってくれた彼の声
それに重なる人とは思えないおぞましい声がたくさん
ここがどこか分からない
前の人がどこに向かっているか分からない
どこかにある深い森の中
日本であってほしい
日本であってたまるか
誰が懇願する、少し休ませてほしいと
どれだけ走ったか分からないけど、私ももう足が動かない
きっと逃げ切れたはず
みんな泣いている
いや、泣いてない人もいる
私は無理
小さい頃から怖いものは見てきた
でもこんなに生々しいものは初めてだった
怖くて怖くて涙が止まらない
今だって私達が来た方から草を掻き分ける音が近づいてくる
助けてくれた彼じゃない
だっていっぱいいるもん
一人の足音じゃないもん
少し会話した程度の記憶だけどあんな顔じゃなかったもん
動けない
疲れたからじゃない
怖くて動けない
動いて刺激したらなにされるか分からない
人の動きとは思えない
腕を振り下ろして頭を砕いた
拾った武器を振り回して殺していく
頭が血まみれで左腕がなくて正気かどうかもわからない
獣のように首に噛みついた
逃さないように足や曲がった腕を絡ませる
ゴキンという音がする
助けに来てくれたはずなのに
その彼が何より怖かった
最後の一匹が動かなくなって彼も倒れ込む
私達を見てなにかを言っているみたいだ
歯がない
バケモノの体にそれっぽいのが残ってる
声が聞こえない
多分…もう…
でも、『ごめんなさい』って聞こえたと思う
それで…それで…
それで
私は
ソレを見た




