↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【別冊】『レストラン船ブルートーンへようこそ』  作者: マサ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/16

第24話:『小さな紳士と星空の約束』

いつも『ホテル・ブルートーン』を応援していただき、本当にありがとうございます!


前回、最高の初日航海を終えたレストラン船『ブルートーン号』。

今回お届けする第22話は、一人の小さな男の子が送ってくれた「一通の手紙」から始まる、

最高に温かくて、ちょっぴり泣ける物語です。


なんと、大島編でみんなに愛されたあの「明日香」が、久しぶりに物語に絡んできます!

健気な男の子・ケンタくんの願いを叶えるため、明日香からバトンを受け取ったチャンが、

レストラン船のメンバー全員を巻き込んで大作戦を開始します。


「お父さんと正装で来てください」


その招待状に込められた、おもてなしのプロたちの粋な計らいとは――。

三層デッキが再び奇跡を起こす新章の第2幕、どうぞハンカチをご用意してお楽しみください!

それは、レストラン船『ブルートーン号』の初日航海が無事に大成功で終わり、

神戸の港に心地よい余韻が残っていた、ある日の午後のことだった。


事務所でデスクワークをしていた佐々木支配人のスマートフォンが、懐かしいメロディを鳴らした。

画面に表示されたのは、かつて大島にお客様として訪れ、

現在は乗船乗り場オフィスで企画の道を歩んでいる明日香の名前だった。


「おや、明日香さん。珍しいですね、お元気ですか?」

佐々木がいつもの穏やかな声で電話に出ると、受話器の向こうの明日香は、

少し興奮した様子で、しかしとても真剣なトーンで話し始めた。


「佐々木支配人! お久しぶりです。実は……支配人に、どうしても相談したいことがあるんです。

私のところにね、一人の小さな男の子が、一生懸命に書いた手紙を持ってきてくれたんです」


明日香の話によると、その男の子の名前はケンタくん。

まだ小学校に上がったばかりの小さな男の子だった。

ケンタくんのお母さんは現在、病気で長い間入院生活を送っている。

そのため、お父さんは毎日、朝から晩まで仕事と家事、そしてお母さんの看病に追われ、

自分の時間をすべて削ってケンタくんのために必死に働いていた。


そんなお父さんの背中をずっと見ていたケンタくんは、ある日、テレビで新しくオープンした

レストラン船『ブルートーン号』のニュースを見たのだという。


『いつもがんばっているお父さんを、カッコいいお船のレストランに招待して、

元気にさせてあげたいです。僕の貯金箱のお金で、お父さんをお客様にできますか?』


ケンタくんの手紙には、お小遣いを少しずつ貯めたお財布の絵と、

不器用ながらもお父さんへの愛が詰まった文字が並んでいた。


「手紙を読んだとき、私、涙が止まらなくて……。

ケンタくんのこの優しい願いを、どうしても叶えてあげたいんです。

ブルートーンの皆さんなら、きっと……!」


明日香の切実な願いを受け止めた佐々木は、眼鏡の奥の目を優しく細め、深く頷いた。

「分かりました、明日香さん。その男の子の純粋な想い、確かに預かりました。

私たちの船に、不可能なおもてなしはありませんよ」

◇

電話を切った佐々木が、ロビーにいたチャンにその手紙の内容を伝えると、

チャンの大きな瞳は瞬く間に潤み、次の瞬間には拳をぎゅっと握りしめていた。


「支配人! ケンタくん、なんて健気で格好いい男の子なんですか……!

チャンスをください、このケンタくんの願い、チャンの手で絶対に世界一の宝物にして魅せます!」


チャンは手紙のコピーを引っ掴むと、すぐさまレストラン船内を脱兎のごとく駆け回った。


「亮太シェフ! 慎太郎さん! これを読んでください!」厨房へ飛び込み、

仕込み中の料理人たちに手紙を突きつける。

「須賀さん! カイトさん! 大変です、一大事です!」

バーやステージにいるメンバーの元へ息を切らせて駆け込む。


チャンの熱い突撃と、ケンタくんの手紙を読んだメンバーたちの反応は一瞬だった。


「子供の小遣いで大人のフレンチが食えるかって? ……食わせてやるよ。

アイツの貯金箱、全部ひっくり返した以上の、世界一の皿を作ってやる」

亮太は不敵に笑いながら、すでに頭の中で特別なメニューの構成を練り始めていた。


「ジャズの歴史は、背伸びをしたいガキの憧れから始まったんだ。

ジョージ、ベン、最高のセッションにするぞ。その小さなジェントルマンのためにさ」

カイトがアルトサックスを愛おしそうに磨きながら、2人の戦友と顔を見合わせてニカッと笑った。


村田船長も、成人も、バロンも、全員の目が一瞬で「一人の小さな紳士」を迎えるための、

最高プロの目へと変わっていった。

◇

数日後。ケンタくんの家のポストに、一枚の分厚い、

見たこともないようなピカピカと金色に光る美しい封筒が届いた。


中に入っていたのは、上品な文字で書かれた、

世界にたった一枚だけの『ブルートーン号特別招待状』。

そしてそこには、明日香からの優しい手書きのメッセージが添えられていた。


『ケンタくんへ。ケンタくんの心のこもった手紙が、お船の神様に届きました。

今度の週末、ケンタくんが主催する最高のディナーに、お父さんを招待してあげてください。

一つだけ、お船の神様からのお願いです。当日は、お父さんとケンタくん、

2人とも一番格好いい「正装(スーツ)」で来てくださいね。

船長たちが、小さな紳士の乗船を心から待っています』


「お父さん! お父さん、見て!!」

手紙を読んだケンタくんは、仕事から帰ってきたばかりのお父さんの服の裾を引っ張り、

飛び上がって喜んだ。


「お船の神様から、お手紙が来たよ! 僕、お父さんをカッコいいお船に招待できるんだ!」


手紙を読んだお父さんは、驚きで目を見張り、そしてケンタくんの小さな手を強く握りしめながら、

静かに涙を流した。自分のために、息子がそこまで考えてくれていたこと。

そして、その小さな想いに本気で応えようとしてくれている、

まだ見ぬレストラン船のスタッフたちの優しさに、胸がいっぱいになったのだ。


「……そうか、ケンタ。ありがとう。お父さん、すっごく嬉しいよ。

よし、週末は2人で、一番格好いい服を着て行こうな」


「うん! 僕、カッコいい紳士になる!」


小さな男の子が仕掛けた、大好きなお父さんへの秘密の恩返し。

その純粋な想いを受け止めたブルートーン号のプロフェッショナルたちが、

いま、神戸の港で最高のおもてなしの準備を整えて、その日を待っていた。


雲一つない週末の夕暮れ。神戸の港に停泊する『ブルートーン号』のタラップ前には、

特別な緊張感と温かい空気が流れていた。


中央のBデッキ乗船口で待つ村田船長とチャンの目に、人混みを歩いてくる一組の親子が映る。

そこにいたのは、少し着古したスーツを実(まこと)に実直に着こなしたお父さんと、

その手を引く、男の子――ケンタくんだった。

ケンタくんは、お父さんのものだろうか、あきらかに袖も丈も少し大きな、

だけどピシッとアイロンのあてられたジャケットを着て、

緊張で顔を真っ赤にしながら一歩一歩進んでくる。


タラップの前に着くと、ケンタくんは小さな手をポケットに突っ込み、

一生懸命に背筋を伸ばして、握りしめていたピカピカの招待状をチャンへと差し出した。


チャンはそれを見た瞬間、子供に対するような笑顔ではなく、

大人のVIPを迎えるときと全く同じ、深く洗練された最敬礼でお辞儀をした。


「ようこそ、ブルートーン号へ。本日の主催者であらせられますケンタ・キャプテン。

お呼び出しを、メンバー一同、心よりお待ち申し上げておりました」


「え……っ」

子供扱いされず、「キャプテン」と呼ばれたケンタくんの目が驚きに丸くなる。

隣のお父さんも、ホテルのプロたちの徹底した態度に息を呑んだ。


そこへ、白い制服をまとった村田船長がゆっくりと腰を落とし、ケンタくんと目線を合わせた。

船長は自分の頭に乗せていた、金色に輝く立派な船長帽子を、

ケンタくんの小さな頭にポンと被せた。帽子はケンタくんの目に深く下がったが、

船長は優しく微笑み、その小さな肩を叩いた。


「今日のこの船の主役(キャプテン)は君だ。

お父さんをエスコートする大仕事、よろしく頼んだぞ。――これは、男の約束だ」


「……! うんっ、僕、がんばる!」

村田船長の「男の約束」に、ケンタくんの瞳から緊張が消え、一人の頼もしい紳士の輝きが宿った。

◇

乗船したケンタくんは、船長帽子を誇らしげに気にしながら、

「お父さん、こっちだよ」とお父さんの手を引き、

Bデッキ後方のシーサイドバーへとエスコートした。

ディナーまでの特別な時間を楽しむ、大人の空間だ。


バーカウンターで静かに待っていたのは、バーテンダーの須賀だった。

「いらっしゃいませ、ジェントルマン」


須賀はお父さんには琥珀色に輝く極上のウイスキーを。

そして、ケンタくんの前には、小さなカクテルグラスを置いた。

須賀が長いシェイカーを鮮やかに振り、グラスに注いだのは――赤、黄色、青の、

まるでお酒のように美しく3層に分かれた、幻想的な特製ノンアルコール・カクテルだった。


「キャプテンケンタに捧げる、世界一カッコいいカクテルでございます」

「わあ……! すごい! お父さん、これ、お酒みたい!」


ケンタくんが声を弾ませる。その絶妙なタイミングで、バーのステージにスポットライトが当たった。

カイト、ジョージ、ベンの3人組が、サックスとフルートを構えて立っている。

彼らが吹き始めたのは、子供なら誰もが知っているアニメ映画の名曲だった。

しかし、その音色はどこまでも渋く、優しく、最高にスウィングする

本格的な大人ジャズへとアレンジされていた。


お父さんはカクテルを口にし、息子の成長と、自分を包み込んでくれる極上の音楽に、

いつの間にか日々の疲れが消えていくような、優しい笑顔を浮かべていた。

それを見たケンタくんは、とても嬉しそうに胸を張った。

◇

インカムを通じてバーの盛況を聞いていた厨房では、

いよいよディナータイムの幕が上がろうとしていた。

Bデッキ前方のメインダイニング。


慎太郎に案内され、テーブルについた2人の前に、美しく盛り付けられた

本格フレンチのコース料理が運ばれてくる。

ケンタくんの前に出された一皿は、お父さんのものと全く同じ見た目の、美しい肉料理だった。


「キャプテン、どうぞお召し上がりください」

ケンタくんは慣れないナイフとフォークを一生懸命に動かそうとする。

子供には難しいかと思われたが、ナイフを当てた瞬間、お肉は驚くほどすんなりと、

柔らかく切り分けることができた。


厨房の亮太の「いい仕事」だった。

見た目は大人と全く同じ高級フレンチ。

しかし、小さな子供の手でも簡単に切れるよう、お肉にはあらかじめ繊細な隠し包丁が

無数に入れられていた。さらに、子供が苦手な野菜の苦味を徹底的に抑え、

素材本来の旨味を最大限に引き出した「本物のキッズ・本格フレンチ」に仕上げられていたのだ。


「美味しい……! お父さん、これ、僕でも上手に食べられるよ!」

「ああ、本当だな。ものすごく美味いな、ケンタ」


その時、横からバロンがフランスの宮廷さながらの完璧なエレガンスで、

一番最初にケンタくんのグラスへジュースを注ぎ、深く一礼した。

「ウィ、ムッシュー(はい、旦那様)。

本日の主役はキャプテンでございますので、すべてのご奉仕はキャプテンから始めさせていただきます」


お父さんの前で徹底的に「大人の紳士」として扱われ、ケンタくんの誇らしさは最高潮に達していた。

◇

ディナーを終え、チャンの案内で2人が向かったのは、最上層の「Aデッキ」だった。

階段を上がると、そこには天井のない、満天の星空と神戸の夜景が360度広がっていた。

開閉式のチーク材フロアーの中央には、パティシエの成人が用意した、

キラキラと光る飴細工とお菓子、フルーツがまるで宝箱のように散りばめられた、

特製のデザートブッフェが並んでいる。


「キャプテンケンタ、デザートの準備が整いました」成人が優しく微笑む。


ケンタくんはお父さんの顔を見上げると、ジャケットの内ポケットから、

何度も折られてクシャクシャになった一通のノートの切れ端を取り出した。

そして、一生懸命に声を張り上げた。


「お父さん! いつも、お仕事がんばってくれてありがとう! お母さんの病院のことも、

僕のご飯のことも、いっぱいがんばってくれてありがとう!

僕は、世界一カッコいいお父さんが、だーーい好きです!」


小さな紳士の、心の底からの叫びだった。

お父さんはもう、溢れる涙を止めることができず、

大きな袖のジャケットを着た小さな息子を、壊れそうなくらい強く、強く抱きしめた。


「ありがとう、ケンタ……ありがとう……! お父さん、明日からまた、いくらでもがんばれるよ……!」


その瞬間、カイト、ジョージ、ベンの3人が、2人を祝福するように

世界一ハッピーなデキシーランド・ミュージックを響かせた。

クルー全員が集まり、鳴り止まない拍手が星空の下に響き渡る。


人混みを割って出てきたのは、佐々木支配人と、村田船長だった。

佐々木の手には、金色に輝く、船の形の立派な特製ピンバッジが2つあった。


「キャプテンケンタ、そしてお父様。お互いを想い合うお2人の素晴らしい心に、

ブルートーン号より『本日の最優秀クルー賞』の勲章を授与いたします」


佐々木支配人がケンタくんの大きなジャケットの胸元に、そしてお父さんの胸元に、

お揃いの勲章をパチンと留めた。

夜風が優しく吹き抜ける中、星空の一番近くで、小さな紳士とお父さんは、

最高の笑顔でいつまでも抱き合っていた。


夜風が心地よく吹く神戸の港。楽しかったディナークルーズが終わり、

ブルートーン号のタラップからは、満ち足りた表情のお客様たちが次々と下船していった。


その中に、お揃いの金色の船のバッジを胸に光らせた、ケンタくんとお父さんの姿があった。

ケンタくんの頭には、まだ村田船長から借りた大きな船長帽子が乗ったままだ。


「あ、船長さん! 帽子、お返しします!」

ケンタくんが慌てて帽子を取ろうとすると、タラップの横でそれを見守っていた村田船長が、

大きな手でそれを優しく遮った。


「いや、キャプテンケンタ。それは君が立派に大仕事をやり遂げた証だ。

その帽子は、未来のキャプテンに私からプレゼントしよう」

「えっ……! いいの!?」

「ああ。次にこの船に乗るときは、その帽子がぴったり似合うくらい、

大きくて格好いい男になっておいで」


村田船長がニカッと笑って敬礼すると、ケンタくんも小さな体をピシッと伸ばして、

最高に格好いい敬礼を振り返した。


「チャンさん、皆さん、本当にありがとうございました!」

お父さんが何度も何度も深く頭を下げる。その横で、チャンは胸の前で大きく手を振りながら、

最高の笑顔を咲かせていた。


「ケンタくん、また絶対、お船に遊びにきてくださいね! チャン、ずーっと待ってますから!」


カイト、ジョージ、ベンの3人が奏でる陽気なデキシーランド・ミュージックが、

夜の港に小さく響き渡る中、2人は何度も振り返り、手を振りながら、

幸せそうに夜の街へと歩いていった。お父さんに手を引かれるケンタくんの背中は、

乗船したときよりも、どこか少し大きく、頼もしく見えた。

◇

すべてのお客様を見送り、営業が終了したブルートーン号。

Bデッキ後方のシーサイドバーには、片付けを終えたメンバーたちが集まり、

お互いの「いい仕事」を労う、ささやかな打ち上げの時間が始まっていた。


カウンターの中では、須賀がメンバー全員に向けて、冷えたドリンクをテキパキと用意していく。


「いやぁ、それにしてもチャンの『キャプテンケンタ』って呼びかけ、

最高だったぜ。あの瞬間、ガキの目が完全に男の目に変わったもんな」

カイトが冷たいコーラを喉に流し込みながら、隣のチャンを小突いた。


「へへ、チャンのフロントクラークとしての直感です!

でも、カイトさんたちのジブリのジャズアレンジも最高でした!

お父さん、すっごくリラックスして笑顔になってましたもん!」

「だろ? ベンのフルートがまた泣かせる音出すんだよなぁ」

ジョージがベンの肩を組むと、ベンは照れくさそうにグラスで顔を隠した。


そこへ、厨房の片付けを終えた亮太と慎太郎がやってきた。

チャンはすかさず亮太の元へ駆け寄る。


「亮太シェフ! お肉の隠し包丁、あれ凄すぎます!

ケンタくん、自分で綺麗に切れて、すっごく嬉しそうに自慢してたんですよ!」

亮太は「フン」と鼻を鳴らし、須賀から差し出されたビールを受け取った。


「当たり前だ。せっかくガキが貯金箱ひっくり返して親父を招待したんだ。

不器用な手つきで肉と格好悪く戦わせるわけにいかねぇだろ。

最後まで『スマートな紳士』でいさせてやるのが、厨房の仕事だ」

ぶっきらぼうに、しかし確かな優しさを宿して語る亮太の言葉に、成人やバロンも深く頷いていた。


「成人のデザートも、飴細工がキラキラしてまるで星空のようだったよ。

ロンドンの風がしっかり吹いていたね」

佐々木支配人が優しく声をかけると、成人は「ありがとうございます。

ケンタくんの笑顔が見られて、僕も職人として救われました」と誇らしげに微笑んだ。

◇

賑やかな笑い声が響く中、佐々木支配人はそっとバーを抜け出し、静かなデッキへと出た。

スマートフォンを取り出し、大島の明日香へとメッセージを送る。


『明日香さん。ケンタキャプテンのおもてなし、メンバー全員の素晴らしいチームワークにより、

無事に大成功で幕を閉じました。お父様もケンタくんも、これ以上ない最高の笑顔で帰られましたよ。

バトンを繋いでくれて、ありがとう』


送信ボタンを押して夜空を見上げると、神戸の海の向こう、

大島の夜空とも繋がっているような満天の星が優しく輝いていた。


「おや、支配人。こんなところでサボりですか?」

後ろから、トレイを持ったバロンと、ワイングラスを持った須賀が歩いてきた。


「いえ、大島の明日香さんに、素晴らしい夜の報告をね」

佐々木が振り返ると、須賀が静かにグラスを掲げた。


「新生ブルートーン号、素晴らしいクルーたちに」

「ええ。そして、未来の小さなキャプテンに」


佐々木支配人、須賀、バロンの3人が、静かにグラスを合わせる。


神戸の港で、佐々木支配人たちが静かにグラスを合わせ、

新生ブルートーン号の未来を祝っていた、まさにその翌々日のこと。


舞台は変わり、瀬戸内海に浮かぶ緑豊かな大島。

かつて亮太や成人が修行し、多くの絆を紡いだその島で、今日も元気に働いていた明日香のもとに、

一通の手紙が届いた。

郵便受けから取り出したその白い封筒には、丁寧に、

しかし少し震えるような手つきで書かれた文字で、明日香の宛名と、

あのケンタくんのお父さんの名前が記されていた。


「あ……! ケンタくんのお父さんからだ……!」


明日香は胸を高鳴らせながら、丁寧に封を切り、中に折られていた便箋を広げた。

そこには、お父さんからの溢れんばかりの感謝の言葉と、

船上での素晴らしい奇跡のような時間の思い出、

そして、家に帰ってからのケンタくんの「驚くべき変化」が、温かい筆致で綴られていた。


『明日香様

前略、先日は息子ケンタの不器用な手紙を、ブルートーン号の皆様へ繋いでいただき、

本当にありがとうございました。

あの夜、私たちは生まれて初めて、あんなにも温かくて素晴らしい世界を経験いたしました。

私の疲れをすべて吹き飛ばしてくれるような最高の音楽と、

息子のために信じられないほどの工夫をしてくださった亮太シェフの素晴らしいお料理。

そして、息子を子供扱いせず、一人の立派な「紳士」として、

この船の「キャプテン」として迎えてくださった村田船長やチャン様をはじめとする

スタッフの皆様の優しさに、私は涙が止まりませんでした。


ですが、物語にはまだ、続きがあったのです。

神戸から自宅に帰ってからというもの、ケンタは村田船長からいただいたあの大きな船長帽子を、

毎日大切そうに机に飾り、毎日、何度も何度もピシッと敬礼の練習をしています。


そして昨日の夜、ケンタが私の手を握り、真剣な目でこう言ったのです。


「お父さん。僕、決めたよ。大人になったら、僕が一生懸命お勉強して、

本物のブルートーン号のキャプテン(船長)になるんだ。

そしたら、毎日がんばってくれたお父さんを僕の船に招待して、

今度は最高の席で、ずーーっとゆっくりお酒を飲んで休んでもらうんだ」と。


あんなに小さかった息子が、誰かを幸せにするための、

こんなにも大きくて立派な夢を持つようになってくれました。

ブルートーン号の皆様は、私たち親子の心に灯りを灯してくれただけでなく、

息子の未来の『羅針盤』をプレゼントしてくださったのです。

この御恩は、一生忘れません。いつか必ず、大きくなったケンタと共にまたあの純白の船へ帰ります。

皆様の航海が、これからも素晴らしいものでありますよう、心よりお祈り申し上げます。 草々』


手紙を読み終えた明日香の視界は、大粒の涙で完全に遮られていた。

胸がいっぱいになり、手紙をそっと抱きしめながら、明日香は島の高い丘から、

はるか遠く、彼らがいる神戸の海を見つめた。


「ありがとう、ケンタくん……。そして、やっぱり凄いです、ブルートーンの皆さん……!」


明日香の流した優しい涙は、島を吹き抜ける温かい潮風に誘われるように、

次の奇跡を乗せて走るブルートーン号の待つ海へと、真っ直ぐに駆けていくのだった。


【第24話:小さな紳士と星空の約束  完】

第24話を最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!


最後の最後、明日香さんのもとに届いたお父さんからの

「お礼の手紙」のシーンは、もう涙が溢れて画面が見えなくなってしまいました。


ケンタくんが家に帰ってから、村田船長の帽子を大切に飾って毎日敬礼の練習をしている姿。

そしてお父さんに伝えた、「大人になったら僕がブルートーン号のキャプテンになって、

今度はお父さんを船でゆっくりさせてあげるんだ」という新しい大きな夢。


「今日の主役(キャプテン)は君だ」「未来のキャプテンにプレゼントしよう」という言葉が、

単なるその場限りの優しいおもてなしではなく、一人の少年の人生を導く『未来の羅針盤(夢)』

になったわけです。『ブルートーン号』は、美味しい料理や音楽だけでなく、

お客様のこれからの人生の希望まで運ぶ船なんだと、胸が熱くなりました。


これぞ『ホテル・ブルートーン』の真骨頂であり、過去最高に泣ける神回になったと確信しています!

また次回の物語を楽しみにお待ちください。


野内(マサ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。