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『そして世界が終わるまで 〜繰り返される恋の、その先へ〜』  作者: 白雛
織姫リフレイン編

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3. 『エイリアン』




 あーあー、そうだった。あのことについても、話しておかなければいけないだろうか。


 徹頭徹尾、それは私の好奇心によるものだったと、私は赤裸々に告白せねばならない。


 つまり——。


 木の公園と私たちは呼んでいた、丸太のトンネルやジャングルジムが所狭しと置かれた近所にある小さな公園で、いつものように遊んでいた時である。


「織姫、ちょっとまってて!」


 結斗はそう言うと、何やら慌てた様子で端の茂みに駆けていったのだ。


 まってて、とは言われたものの、私の好奇心はそれを秒も経たずに忘れさせ、私はにやりとうすく微笑むと、家来が私に隠れて何をしているのか、ステキな期待に胸を躍らせつつ、ひそかに後をついていった。


 しかし、予想の遥か(そと)の光景に、私は目を丸くして、それを目撃することになる。


 結斗は公園の茂みに隠れて、立ちションなるものをしていたのだった。


 次第にその目が私を捉える。


「あのさ、なにみてるの?」


 結斗は多少なりとも怒っているようだったが、私の目は、そこに釘付けだった。


 小水の流れが次第に力を失っていくのを見届けてから、私はその手をとると、ちょっと来てと腕をひき、そのままの格好で水場に彼を連れ出した。


 私は蛇口を捻って水を出すと、指して言う。


「あらって」

「え……」

「おしっこついてたらきたないでしょ」


 そう言って、ちんちんを洗わせると、私は改めて膝を折ってその場にかがみ込み、キスを目撃した時のように具にそれを観察した。


「なに? これ」

「は?」

「なんでこんなのついてるの、へんなの」

「ちんちん。しらないの?」

「しらない。わたし、ついてないよ?」


 結斗は一丁前に辺りを気にしながら、そそくさとそれをズボンにしまってしまい、私はいたくがっかりして憤慨した。


「あー、なんでー。まだみてたいのに」

「そとでだしたらだめなんだよ。つかまるって」

「結斗からだしたくせに」

「おしっこするときはいいんだよ」

「じゃあ、もういっかいして」

「でねぇよ」

「うーんー……あ!」


 突如、私の脳裏に天啓が舞い降りる。私はこの時、自分で自分を天才だとさえ思った。そんな閃きに、にまっと再び意地悪く微笑むと、結斗に提案する。


「いいこと、おもいついた!」


 数分後、私たちは私の家の玄関先にずぶ濡れで立ち尽くしていた。そして、私は結斗に実しやかに囁くのだ。


「いい? かわであそんでて、すべってころんだっていうんだよ?」

「わかった」


 結斗が頷いたのを確認して、私はドアを開けて、母を呼ぶ。母はベルを鳴らすと現れる召使か何かのように飛んできて、私たちのその様を見るや、エプロンで手を拭きながら、慌てふためいた。


「あらー!! あらあら、なにやってるのー?! あなたたち!! ずぶ濡れじゃない!!」

「かわであそんでて、すべってころんだー」

「川ってどこの? あーあー、とにかく、どうしましょう。とりあえず、お風呂いってて、服は出しとくから、風邪ひいちゃう」


 企みはうまくいった。私はちょろいもんだと再三口元を歪めて、結斗を連れ、風呂場に直行する。


「結斗、ぬいで」

「え、でも」

「はやく。おかあさんがくるまえに。だいじょうぶだからだいじょうぶ、だから」

「わかったから」


 言うが早いか、私がズボンに手をかけると、結斗は観念したみたいに自分ですっぽんぽんになった。一方、結斗は私のキャミソールドレスが気になるようだった。


「これすき?」

「なんかするするしてる。織姫、おひめさまみたい」

「そうよ。しらなかったの? なまえにもついてるじゃない」


 私は先んじて風呂場に入ると、適当にシャワーを出しておいて、ご満悦でちんちんを観察し、そのとたんにまた目を丸くした。


「え! まって。かたちがさっきとちがうんだけど! それにかたいし」

「え」

「あははは、へんなの。これはいきものなんじゃない?」

「おとこだからだよ」

「じゃあ、わたしは?」

「おんな」

「なんでちがうんだろうね」


 しかし、間もなく母がやってきて、私のその日の研究は瞬く間に終わってしまった。


 まったく不服だった。もっと見ていたいし、違いを見比べたいまである。


 二人して、母に身体を洗われながら、私はあまり期待せずに尋ねてみる。


「ちーんちんちーんちん。あはははへんなのー。ねぇ、なんで結斗にはちんちんがついてるの?」

「え……え! それは……」

「それは?」


 結斗も興味津々のようだった。

 母は間もなくして答える。


「男の子にはついてるものなの」

「おとこのこには、かたくなってかたちがかわる、いきものがおまたについている。そういうこと?」

「そうです」

「じゃあ、なんでわたしにはないの」

「それは、貴方が女の子だから」

「もしかして、とれちゃったの?」

「そうです」

「え、もともとはついてたけど、とれちゃったのがおんなってこと?」

「そう……かも?」


 私は何もかもおかしくて、結斗のすっぽんぽんの背中をばしばし叩きながら大笑いした。


「あははは、結斗、わたしとれちゃったんだって。どうしてとっちゃうのよ。あははは」

「ねぇねぇ、織姫織姫、みて」


 さらに結斗は、ちんちんを足の間に挟んで隠し、私と同じようにして見せて言う。


「俺もおんな」


 私は息も切れ切れになりながら、結斗のそれを指差して笑った。


 この時既に私の好奇心は頭の中で別のプランを思いついて、にまにまとほくそ笑んでいた。


 それが楽しみすぎて、夜までの時間が永遠のように長く感じた。適当にソファに突っ伏し、テレビを見ながら、なんの興味もないおえかきをして、ぐしゃぐしゃにクレヨンを紙に押し付けていると、玄関の戸が開く。


「パパ!! おかえりなさい!!」


 私が天使の微笑みを浮かべて、お出迎えすると、父は喜んで、私を抱き抱える。


 私はべったりとそのつぶつぶした顎に触れ、顔を押し付けるサービスまでしてやると、それで父が上機嫌になることをもう知っていたのだ。


「おお、織姫、ただいまー!!」

「ねぇ、パパ? きょうはパパとおふろ、はいりたい!!」

「な、なんだって……!! 聞いた? ママ!! ママーーーー!!」


 父はリビングにいた母にそう告げると、大急ぎで支度する。そうして風呂場に着くと、私はすぐに父のそれを確認した。


 やはり形が違う。それに黒々とした毛がイバラのように生え広がっていて、結斗のそれと比べるとあまりにグロテスクだと思い、普通に引いていた。


 例えるなら、私がその時ほわほわほわと頭上に思い浮かべたのは、父のが映画で見た恐ろしいエイリアンのようだとすると、結斗のは……そう、アリクイの頭か、チンアナゴに等しい。可愛げがあって、結斗のやつの方が好きだと思った。


「なんで、けがはえてるの?」

「あははは、気になる? お母さんにもあるだろー? 皆、大人になったら生えてくるんだよ」

「パパのは、かたちがちがうのはなんで?」

「……織姫。誰のと比べてるんだい?」


 父は普段こそ私のわがままをよく聞いてくれたり、甘やかしてくれる家来その二のようであったが、時々非常に勘が冴え渡る瞬間があった。


 その点で私は、母の()にもつかない子供騙しの回答よりも遥かに信頼を置いているが、この時もそうだ。


 父は穏やかな表情の中に、獣のような殺気を覗かせ、私の脳内にアラームが鳴り響いた。


「このまえいった、どうぶつえんのチンパンジー。ドリルみたいだった」

「ドリル笑。うーん、人と類人猿の違いかなぁ。あー類人猿ってのは、猿の仲間のことだよ」

(結斗はるいじんえん……と)


 とっさに機転を効かせて誤魔化した。


 それが成功していたかどうかはさておき、私の興味は留まらない。


 明くる日もそうしてまた結斗とお風呂に入った。口実は……なんだったっけ。きっと適当に作り上げたと思う。何ならこの頃はそれが習慣化していた記憶もあって、母一人なら、どうとでも言いくるめられる自信はあったし、その時は更に、二人でできるからと、母を追い出して時間も確保した。


 私は結斗のそれを弄くり回して、終いに皮をめくると、飛び上がりたいくらいの歓喜に胸が躍って、また上機嫌になった。


「みつけた! みつけた! そっか、なかにあったんだ!!」

「なにが?!」


 結斗は飛び上がるくらい驚いていた。

 私は訳知り顔で、結斗の肩を叩くと、目を細めてコソコソ囁いた。


「だいじょうぶ。結斗にもちゃんとあったから。結斗はひとだった。けっしてさるのなかまなどではない」

「え、俺、そんなうたがいかけられてたの? そこになにがあるかで、それがわかるの? まじで?」

「おとなになったら、でてくるんだってパパがいってたから。だいじょうぶだいじょうぶ」

「え? なんかでてくんの? ……うそだろ。なにがでてくるんだよ……?」

「おとこのこは、おとなになったら、ここからエイリアンがでてくる。ほんとうだよ、わたしみたもん」

「エイリアンが?! ここから?!」

「ほらみて。こうすると、もう、かお、みえるでしょ?」


 結斗は大口を開けて、目元を手で覆いながら、衝撃の事実に恐れ、嘆いていた。


「まじじゃん……おわった……おれのからだ、どうなってんだよ……」

「みたかんじ、ようせいなんだとおもう、たぶんまだ。ようせいはえほんのようせいじゃないよ? こどものことだよ」


 手で額を抑えて頭を抱える結斗の一方で、私はしみじみと言った。


「でも、このままのがいいなぁ。なんでエイリアンになるんだろ……」

「うそだろ……俺、エイリアンになるのかよ……なりたくねぇよ……」

「おとこでしょ。なかないの」

「だってさ、織姫……エイリアンだぜ?」

「エイリアンになっても、私がいっしょにいてあげるから」

「……ほんとう?」

「うん、いいよ? やくそくしたじゃん。」


 記憶から抹消してしまうくらいのトラウマを植え付けてしまったのは、ほんっとうに申し訳ない気持ちで一杯になるけれど、あの時の絶望した結斗の表情は、未だに思い返すだに、私は笑ってしまう。




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