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皆さんは河西勝という名前をご記憶だろうか?
『河西ボクシングジム』を経営し、数多くの名ボクサーを誕生させてきた男であり、俺の恩人であるオッサンだ。
禿頭に黒ジャージ、広い肩幅に低い背丈。
まさに、「何処のボクシング漫画から出てきたんだよ!?」と言わせんばかりの様相をしている男だ。
しかし、だからこそ、勝さんはよく勘違いされる。
何をか・・・それは、彼は別にボクシングだけが出来るわけでは無いということだ!
「な・・・何だ?あの動きは?」
俺が目の前に立ち塞がる男達を次々とのしている最中、金田の戦慄した表情と共に声が聞こえた。
「どうした・・・金田?」
金田の呟きが耳に入った飛田が尋ねる。
しかし、金田は俺の行動を目で追うことに精一杯で、まともな返答を返そうとはしない。
(「まあ・・・金田の驚きも無理はない」)
何故なら、今の俺の動きは、ボクシングだけでは到底説明がつかないからな。
俺は別にボクシングという競技に殊更拘りは無い。
もう何度も言っていることだが、俺の求めるものは『強さ』であり、『ボクシング』の腕ではないのだ。
だから、勝さんがボクシング以外の格闘技にも熟達していることを知った幼き頃の俺は、再び土下座を行使。
・・・結果、彼からあらゆる格闘技を教わることが出来たのだった。
(「流石にボクシングの動き一辺倒だと、動きを読まれやすい」)
そうなれば、複数の相手に囲まれ、四方八方から攻撃される確率が高まってしまう。
(「こちらは1人・・・故に何としても囲まれるわけにはいかない!」)
それ故のことだった。
「渡会君・・・凄い」
人質として拘束され、囚われの姫となっている宇佐美。
そんな彼女の唖然とした声も聞こえる。
(「自分の実力をおおやけにする・・・そんなことするヤツは頭が悪いと思ってた。けど・・・」)
自分の好きな人に見て貰える・・・この感覚は悪くない。
俺はそんな馬鹿なコトを考えながら、次々と男達を倒していった。
「グヘッ!?」
「ゴハッ」
「オエッ・・・」
思った以上に見かけ倒しなコイツらは、想像以上に打たれ弱い。
(「きっと・・・今まで、弱いヤツらを虐めて楽しんでたんだろう・・・」)
故に、自分達が返り討ちに遭う覚悟が、そもそもコイツらには欠けているのだ・・・。
やがて残りの人数が20人を下回った頃・・・男達はようやく俺を『適わない敵』だと認知したらしい。
「にっ・・・逃げろお!」
「こんなの無理だあ!」
十人十色な負け犬の遠吠えを残すと、次々に倉庫から姿を消していく。
「ま、待て!テメエら!」
恐怖でこの集団を率いていた金田だったが、彼の命令もこの状況では、誰も聞く耳は貸さない。
そして遂に・・・あれだけ大勢の人間が悪意を迸らせていた空間から、俺、宇佐美、飛田、金田以外の存在が消え失せたのだった。
(「いや・・・正確には気絶して転がってる人間もいるにはいるが・・・」)
そんな存在は、倉庫内の至る所を転がっているドラム缶と大差ない・・・。
よってカウントする必要は無いだろう。
「おい・・・金田、まだやるか?」
俺はヤツに問いかける。
「あ?まだやるかだと?俺は何もされてねえんだよ!こっからじゃねえか!俺がお前をボコボコにすれば、それで終わりだ!」
依然強がっている金田・・・しかし、俺はヤツの本心に気付いていた。
何故ヤツが、大量の部下を用意したのか・・・その理由を。
「金田・・・俺が弱ってるように見えるか?」
「・・・ッ、どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ。俺が弱ってて欲しかったんだろ。だからお前はアイツらを呼んだんだ。ボロボロになった俺になら楽に勝てると思ってな!違うか?」
「!!!」
「金田・・・お前は繁華街で俺と会ったとき、悟ったんだろ?『自分じゃ俺には勝てねえ』って。だからお前は何とかして俺を倒そうと、山ほど部下を連れてきたんだ!幾ら1人1人は大したことなくても、100人で叩けば怪我くらいはさせられる。そしたら後は傷を負った俺をタイマンで下す・・・そういう算段だったんだよな」
「そ、そんなわけ・・・」
誤魔化したいなら、どもるなよ。
それはもう・・・認めてるようなもんだぞ。
「金田・・・俺はとある私的な理由でお前と試合をするのを避けてた。だけどな、お前の強さを追い求める姿勢は、正直・・・嫌いじゃなかったんだ。だけどな・・・」
今日・・・俺はハッキリとお前のことが嫌いになったよ。
「!」
俺は唖然としている金田に対し、ファインティングポーズをとる。
「金田・・・もう一度聞くぞ。まだやるか?」
「クッ・・・クッソオ!!!」
金田は腕に抱えた宇佐美を突き飛ばすと、俺に向かって走ってくる。
ヤツは・・・捨て身で俺に挑むつもりだった!
(「正直・・・逃げ出すと思ってた」)
金田の作戦は失敗し、俺は五体満足の状態・・・。
そんな自分と戦ったところで勝負の行方は目に見えている。
なのに・・・それでも・・・ヤツは俺に向かってくる!
つまり金田は、自らのプライドを優先したのだ!
自身の身の安全よりも・・・宇佐美よりも・・・俺に敵として扱って貰うことを望んだ!
(「そういう姿勢は・・・やっぱり嫌いじゃないな」)
俺は拳を握りしめ・・・そして、放った。
ゴチュ!!!
走ってきた勢いで俺にパンチを繰り出そうとしてきた金田・・・その左頬に入った俺の右ストレートは手応え十分。
「グ・・・グゾォ・・・」
そう呟いて、倒れた金田。
その表情は、心なしか晴れやかなものに見えたのだった・・・。
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