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自らのプライドを守るため・・・捨て身の覚悟で挑んできた金田が地に沈んだ結果、この場で意識のある人間は現在3人。
その内の1人であり、この下らない会合の首謀者でもあった飛田は、頼みの綱だった金田が、もう動ける状態ではないと悟ると、崩れ落ちるように膝を付き、そして呟いた。
「もう・・・終わりだ」
「そうだな」
覚悟がある・・・とアレだけ大見得切ったとはいえ、実際のところ、自分達の計画が破綻するとは思っていなかったのだろう。
目的も果たせず、罰を受けるのみ・・・。
その事実に直面した飛田の顔は今や蒼白である。
今回の1件が公になれば、流石の飛田パパも庇いきれないはずだ。
未成年とはいえ、今回のコレは立派な刑事事件。
代議士の権力とやらが、世間でどの程度通用するのかは知らない・・・が公権力に表立って盾突き、何のダメージも受けないとは考えにくい。
飛田は良くて退学・・・悪ければ最悪、親子の縁を切られるかも知れない・・・といったところだろう。
(「ざまあみろ!・・・そんな気持ちが無いと言ったら嘘になる」)
かつて自身の心に深い傷を付け、祖父母を罵倒し・・・そして今回、宇佐美を危険にさらした。
持ち前の暴力と、父親の権力を笠に着て、散々好き勝手やりまくった男が、ようやく自らのしでかしたコトの重大さを知り、裁きを受ける時が来たのだ。
俺にとって因縁の相手でもある男、飛田心。
これは、ヤツに罰を下すことが出来る絶好の機会なのだ!
なのに・・・不思議と俺の中に、それに対する幸福感や達成感は無い。
あるのはただ、「本当にこれで良いのか?」と思う不完全燃焼な気持ちだけだった。
「渡会君・・・」
このタイミングで宇佐美は声を掛けてきた。
本来なら、金田と決着を付けたその足で、まっ先に赴かなければならない相手。
にも係わらず、目的の彼女そっちのけで全く別のコトを考えていた俺には、やはり男として大事なモノが幾つか足りないのかも知れない・・・と思う。
「宇佐美・・・大丈夫だったか?」
「うん!ありがとう・・・助けに来てくれて!」
「いや・・・結局俺は最後まで爪が甘かった。俺の・・・俺のせいで宇佐美に辛い目に遭わせちまった。ゴメン・・・本当に、ゴメン」
「・・・渡会君、ちゃんと私のこと守ってくれたじゃん」
「でも・・・!」
「すっごい嬉しかったよ。まるでドラマのワンシーンみたいだった」
「ホントに何か変なことされたりしてないか?」
「うん!大丈夫!」
本当だろうか・・・俺は宇佐美の言葉に懐疑的にならざるを得ない。
彼女を拘束した金田達が、絶世の美少女である彼女に、何もしてないなど、あり得るのだろうか?
(「だが・・・そんな事実よりも、宇佐美がそう言ってる、そういうことにしておきたいって気持ちの方が大事だな・・・」)
結局、俺は宇佐美の発言を鵜呑みにしておくことにする。
「で・・・宇佐美、いまから通報するけど、問題ないか?」
俺が彼女にこう聞いたのは、通報する際・・・場合によって宇佐美の芸能活動に影響してしまう可能性を危惧したからである。
今回・・・宇佐美は紛うこと無く被害者であり、逃げ隠れしなければならない立場では無い。
しかし・・・どんな出来事にも尾ひれが付いて回るのが芸能人というものだろうと俺は思っている。
だから、そこらへんの事情は大丈夫かという確認の意味を込めて、俺は尋ねたつもりだった。
しかし・・・彼女からの返答は、俺の予想の斜め上をいくものだった。
「渡会君・・・どうしても通報しなきゃいけないかな?」
「それって・・・宇佐美はこの件を無かったことにしたいのか?」
「・・・うん」
「芸能界ってそんなに融通の利かない場所なのか?」
「芸能界?ああ、違うよ。スキャンダルが恐くて有耶無耶にしようと思ってるんじゃないの」
「そうなのか?なら、何で?」
「私・・・私も悪いと思ってるから」
「悪い?宇佐美が?」
「そう・・・元はといえば、私が飛田をその気にさせたのが全ての原因。その気にさせるだけさせて、利用しようとした。暴力が恐くて・・・暴力を利用しようとして・・・結果、こんな事態を引き起こした。だから、ここで被害者面して終わりにしたくないの・・・」
これを1つの教訓にしたい・・・宇佐美の言わんとするところはそういうことだろう。
宇佐美からの提案・・・ソレを聞いた俺の中に、モヤッとするものが無いわけでは無い。
彼女の提案を受け入れる・・・それは即ち、飛田との因縁にケリを付ける絶好のタイミングを失うことに他ならないのだ。
しかし・・・
「ああ・・・分かった」
宇佐美の提案を肯定する言葉は思ったよりもずっと簡単に出た。
それこそ、自身にとって、飛田に対する恨みや憎しみはそんなに軽いものだったのだろうか?と疑問に思うくらいには・・・
(「俺にとって飛田に対する負の感情はそんなに軽いものだったのか?いや・・・違う。そうじゃない」)
幼少時から、自身を悩ませてきた『金色』に対するトラウマ。
両親から愛情を受けることが出来なかった・・・という事実に苦悶した日々。
それらが軽いわけ無い。
ただ・・・ただ・・・
それが大したことじゃない・・・そう思えるほどに、宇佐美に対する気持ちが大きい。
そういうことなのだ。
俺はスマホをポケットにしまう。
そして、そこで呆然とする飛田・・・その頬を軽く叩く。
(「この程度で十分だ」)
俺はそう思った。
「・・・!な、何だ!?」
これから自身に起きるであろう不吉な未来でも想像していたのかもしれない。
どことなく、やつれたようにすら見える飛田に対し俺は問う。
「おい、今出て行ったヤツ全員集められるか?」
「?で、出来るが・・・何で?」
「何でって・・・決まってるじゃねえか」
口裏合わせとかねえと、後々問題になるかもしれないだろ。
俺の因縁はこうして決着を見たのであった・・・。
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