7-5
キス
それは『金髪』のアイツが、その後に求めようとしているコトを考えれば、決して大したことでは無いのかも知れない。
だが・・・いざヤレと言われた時、私は、自分が本当の意味での覚悟ができていなかったのだということを思い知らされた。
自らの中から湧き出るアイツに対する嫌悪感・・・そして、渡会君への気持ちを裏切る申し訳なさ・・・。
それらの感情と折り合いを付けるには、時間が足りず・・・そして、目の前で舌なめずりするアイツは、決してそんな猶予を与えてはくれなかった・・・。
「おい、どうした?「愛してる」からのキスだよ!まさか出来ねえのか?」
「・・・そ、それは・・・」
「おいおい・・・まさか始めてって訳じゃねえだろう!?キスくらい?」
「・・・・・・・・・」
「・・・まさか、始めてか?」
私は目を点にしてこちらを見るアイツの視線から、目を背ける。
当然、私がそんな質問に答えることは無い。
だが、『金髪』のアイツは、そんな私の仕草から、自身の問いに対する答えを確信したらしい。
「ほう、ますますソソるじゃねえか!あの宇佐美茜のファーストキスを頂けるなんてな!」
(「・・・こんな男に唇を許すくらいなら、目の前でうずくまっている小林とかいう男と強引にした方が100倍マシ!」)
アイツの下品な言葉を聞いた私は、正直にそう思った。
(「もし、私の両腕が自由になったら、ほとんどうつ伏せ状態でいる小林を、強引に仰向けにして、ディープキスでもしてやろうかしら?あ、そうすれば、もしかしたらアイツと、小林の間で乱闘が起きて、その隙に逃げ出すことも出来るかもしれないわ」)
次第に、この突拍子も無い思いつきが良案な気がしてきた私は、自分の腕を拘束がそこまでキツくないコトを確認すると、何とか解くことは出来ないかとアイツの死角で手を尽くす。
しかし、四方八方を男共に囲まれたこの状況では、そんな小細工は到底通用しなかった。
「あっ!こいつ!縄を解こうとしてやがる!」
男の1人がそう叫ぶと、別の1人が私の手首を掴んだ!
その際、縛られている縄の部分を持ったのは、先程のアイツの制裁を鑑みたからだろう・・・。
「おいおい・・・今更逃げようってか、宇佐美!?」
「嫌っ・・・近寄らないで!」
「近寄らないで?近寄らなくて、どうやってキスするっていうんだよ?」
(「まさか・・・今ここで強引にスル気!?」)
私は抵抗を試みる・・・が後ろ手に縛られた女子が男の腕力に勝てるわけが無い。
やがて、直ぐ側まできたアイツは、片腕で私の肩を抱くと、もう片方の手を私の顎に持ってきた。
俗に言う顎クイ状態である。
(「コレが渡会君ならどんなに嬉しいか・・・」)
しかし、相手が違えば、生じる感情も180度異なる。
私はこみ上げる不快感と嫌悪感を隠すことなくアイツにぶつけた!
「アンタ・・・本当に最低よ!こんなことして、タダで済むと思ってるの?」
「そこら辺は問題ねえんだよ!ここで起きたことが外部に漏れることは無え。そうだな。飛田!?」
「ああ、安心してくれ」
そうか・・・きっと、ここは飛田の親が1枚噛んでいる場所なのだろう。
一体どういう経緯で、敵対していた彼等が徒党を組んだのかは知らない。
が、飛田にとってはともかく、アイツにとっては『違法行為がおおやけにならない場所』を得られるというのは、これ以上ないメリットだったはずだ。
「どうした?渡会を助けたいんだろ?幾らアイツでも、これだけの人数相手じゃ手も足も出ねえぞ!お前・・・自分のせいでボコボコにされるアイツを見てえのか?」
「駄目ッ!・・・それだけは・・・!」
「なら、愛してるって言えよ!キスしろよ!アイツへの気持ちに踏ん切り付けて、俺の女になれ!」
・・・言いたくない。
私の言葉も・・・想いも・・・全部あの人に届けたい。
でも・・・やるしか・・・ない。
「あ・・・あ・・・あい・・・」
「お、お!言うか!ほら言ってみろ!俺のことを愛してるって言え!そしてキスしろ!」
あの人の嫌いな『金色』が私も嫌いになりそうだ。
頬を涙が伝う。
それを見たアイツの口角が、よりつり上がる。
そのゆがんだ笑みを見た瞬間・・・私の口は助けを求めていた!
「助けて・・・渡会君・・・」
ガシャーン!
扉が吹き飛ぶ。
「な、何だ!?」
私は扉の方を向く。
逆光が強く・・・故にシルエットしか窺い知れない。
しかし、こんな時・・・颯爽と現れるのはヒーローと決まっている。
そして、私の・・・宇佐美茜のヒーローは・・・
「わ・・・渡会君!」
彼をおいて、他にいようはずも無かった!
ここまで読んでいただきありがとうございます!
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