7-4
「邪魔しねえでやろうと思ったが、あんまり長いんでな」
「ああ、悪い」
そう言うと、飛田は軽く頭を下げる。
年齢は私達とかわらないらしいが、どうやら上下関係はハッキリとしているようなのは、飛田のアイツに対する腰の低さから覗えた。
「話は済んだか?」
「ああ、もういい」
「よし、なら・・・もう集めたヤツらを中に入れるぜ!皆、待ちくたびれちまってんだよ!おい!入ってこい!」
アイツは自身が入ってきた扉の向こうに声を掛ける。
すると・・・
ガリガリガリガリッ!!!
重い扉の縁から現れた何本もの腕・・・。
それらがあの重厚な扉を勢いよく引いた!
そして・・・
「嘘・・・」
そこから現れた男の数・・・それは10人や20人という規模では無かった。
お世辞にも柄が良いとは言いがたい、人相、及び容姿の男達・・・おおよそ100人。
そいつらが、数にモノを言わせて、こじ開けた扉から一斉に入ってきたのだ!
「ウッヒョー!生宇佐美じゃん!」
「メッチャ可愛ええ!」
「触って良いっすか!?飛田さん!?」
ゲスい下心を隠そうともせず、屍肉を見つけたハイエナのように私に群がってくる男達。
しかし、その内1人の手が、私の顔に触れそうになった瞬間・・・すかさずアイツの声が飛んだ!
「触るな!」
「「「!!!」」」
私に対する接触禁止を指示する声。
そこには、いつしか経験した、あの『殺気』が含まれていた。
私に触れようとしていた件の男は勿論、無遠慮に近づいてきていた大勢の者達も、ボスである彼の一喝に、行動を止める。
群がる男共全員の停止・・・それを確認したアイツは、ツカツカと足音を響かせ、こちらへとやって来る。
そして、その視線は私・・・ではなく、私に触れようとした男に、完全にロックオンされていた。
「あ・・・あぁ・・・」
男は自らが一線を越えてしまったことに気付いたようだ。
決して小柄でも無く、むしろ屈強と言って差し支えない肉体が小刻みに震え始める・・・。
彼は・・・恐怖していたのだ。
この後、自らに降りかかるであろう『裁き』に!
「まあ?お前の気持ちも分かるぜ!コイツは極上の女だ!触れたいと思うのは当然だ!だけどな・・・?」
そこまで言ったアイツは・・・私に触れようとした男の横まで辿り着くと、その耳元に口を寄せて呟くように言葉を続ける。
「「コイツはあくまで俺の女。俺が味わうまでは触るな」そう言ってあったよな、小林?」
「す・・・すいませんっ!以後気をつけます!」
「んー、なるほど。気をつけるか・・・」
「もう遅えよ」
ドスッ!!!
その瞬間、私の目前で行われた一連の行為・・・即ち、アイツによる部下への制裁を、私は全く視認することが出来なかった。
恐らくアイツが、小林という男の腹部にパンチを見舞ったのであろう。
それは今、殴られた男が眼光を見開きながら、腹を押さえて藻掻き苦しんでいる姿から分かる。
問題は・・・その拳が、私には全く視認できなかったことだ。
見えない拳・・・それと対照的とも言える強烈な打撃音・・・。
(「こんなものが、今から渡会君に・・・」)
それを思うと、私はいてもたってもいられなくなった!
「お願い!何でもするから、渡会君に酷いことはしないで!」
「おっ!何でも!?」
アイツは「何でも」という言葉の響きに目を血走らせる。
「・・・そう、何でもよ」
私は、その言葉の意味をキチンと理解し、その上で返答した。
「とはいっても、後で『何でも』してもらうつもりだから、こっちからすれば取引する必要は無いんだよなあー」
「・・・そ、そんな」
両腕を拘束され身動きが出来ない私など、後で力ずくでどうにでもさせられる・・・。
だから、態々こちらの提示する条件を呑んでやる必要は無い・・・そういうことなのだろう。
「あ、でも・・・良いこと考えた!」
しかし、少し考える素振りを見せたアイツは、何か良案を思いついたらしい。
彼は私にこう提案をしてきた。
「じゃあ、今、ここで、「愛してる」って言ってから、俺にキスしてよ。そしたら渡会をボコボコにするの止めてやる」
私の心は絶望に染まった・・・。
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