7-2
「ったく・・・!余計なこと言うんじゃねえよ!」
渡会君との通話を終えた飛田は、半ば拘束され両手の自由が奪われた状態の私・・・宇佐美茜を叱責する。
その口調にはもう・・・以前のような媚びた雰囲気は一切感じられない。
今の彼にとって・・・私はもう、恋愛対象では無く、只の『人質』。
それ以上でも以下でも無いのだろう・・・。
(「でも・・・このまま何もせずにいたら、渡会君が来ちゃう!」)
そうなれば、たとえ規格外の『強さ』を持っているであろう彼であっても、怪我だけでは済まないのは必至だ・・・。
だって、こうしている間にも、アイツが人を集めているはずだから・・・!
(「彼が私のせいで怪我をする・・・それは・・・それだけは絶対嫌!」)
自身の目の前で・・・自らの好きな人が・・・自らのせいで暴力の餌食になる。
そんな最悪な未来を、少しでも軌道修正できたら・・・!
私はそんな思いから、未だ近くにいる飛田に交渉を持ちかけた。
「飛田君・・・私を人質に渡会君を呼び出して、一体何がしたいの?何が目的なの?」
「ああっ?目的ぃ?」
そう言った飛田は私を小馬鹿にするように「ハッ!」と笑う。
「さっきも言ったろ!アイツをボコボコにすることだよ!」
「何で!?飛田君を振ったのは私よ!復讐したいんだったら、私にすればいいじゃない!」
「するさ、勿論な!でもな・・・だからといってアイツを許すつもりはねえんだよ!」
「・・・許すも何も、渡会君はアナタに何も悪いことしてないじゃない」
「したさ!アイツはお前を奪った!それが悪いことじゃなくて何だって言うんだ!?」
「何よ『奪う』って・・・私、アナタの彼女だったこともなければ、所有物だったことも無いけど・・・?」
「何言ってんだ?学校のヤツらは、もう、とっくにそう思ってたぜ!俺とお前がそういう仲だってな!」
・・・私は、そうは思わない。
が、周囲の人間からも「そう思われていない!」とハッキリ断言できるほどの自信も・・・正直無い。
教室では畏怖の対象として、皆から煙たがられる存在である飛田・・・。
そんな彼と、私的な理由や打算ありきとはいえ、殆ど毎日会話を交わしていた私達のことを、もしかしたら男女の仲だと誤解していた人間はいたかもしれないからだ・・・。
「・・・仮に周囲の人達がそう思ってたとしても、私とアナタの間にそういった約束はなかったじゃない」
「はぁ?教室内であれだけ一緒に居て、学校外でも遊んで・・・それを見たヤツらに『付き合ってる』と思われてる・・・理由がそれだけあれば、俺がお前は彼女になってくれたって勘違いしてもしょうがねえじゃねえか!?」
「・・・ッ!」
飛田の持論・・・私はそれを、即座に一蹴することが出来なかった。
私の感覚からすれば、『男女の仲』になる・・・とは『付き合って下さい!』から始まる一種の儀式を経て、双方の合意が得られることで、始めて成り立つ関係である。
故に、私にとっては、それら手順を踏んでいない飛田と自分が、そういう関係にある可能性など、皆無だったのだ。
しかし・・・そんな考えを持つ私であっても、今の飛田の発言は・・・正直一理ある、と思ってしまった。
『男女の仲』という概念に対する飛田の考え・・・それは多分、『友達』の延長線上にあるものなのだ。
普通、誰かと友達になる際に、「友達になって下さい!」と申し込むことはしない・・・少なくとも私は・・・。
何となく一緒にいる・・・その期間が長く続けば、いつの間にか自身や周りの中で『友達』という関係が既成事実化しているものだ。
決して『友達』同士で「私達・・・友達だよね?」と確認し合うことなど無い。
飛田にとって『恋人』とはそういう類いのものだったのだろう・・・。
「・・・・・・・・・」
「どうした?何か言えよ!?」
「・・・なら悪いのは、やっぱり私じゃない」
「・・・あ?」
『恋人』という関係に対する、私と飛田の考えが違うこと・・・それ自体は悪いことでは無い。
だが、彼の考え方を知り、何よりその意見に対して「一理ある」と思ってしまった今では、もう、飛田の行動を一方的に糾弾することは出来なかった。
(「人間関係なんて十人十色・・・私はそれを忘れて調子に乗った・・・そしてその結果・・・今、渡会君が危険な目に遭おうとしてる・・・!」)
そんなこと・・・絶対に耐えられない!
私は・・・覚悟を決め、そしてこう提案したのだった。
「飛田君・・・私と付き合いましょう」
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