7-1
俺はスマホを持ったまま、慌てて家の外に出た。
おそらく・・・いや間違いなく、この先、俺は冷静さを保てない。
そのときの自身の表情や仕草で、祖父母に心配をかけたくはない・・・それ故の配慮だった。
「飛田・・・」
「どうだ・・・?嵌められた気分は?」
「・・・最低だよ」
「ククッ・・・そうか!そりゃ最高だなっ!!!」
ヤツの本当の狙い・・・それは、やはり宇佐美だったのだ!
おそらく飛田が爺ちゃんのスマホを使って電話を掛け、俺が自宅に舞い戻るため宇佐美と別れた後・・・1人になった彼女を拉致したのだろう・・・。
だが・・・仮にそうだとすると、飛田は爺ちゃんからスマホを借りて俺に電話を掛け、スマホを返却した後・・・猛スピードで宇佐美の後を追いかけ、拘束したことになるのだが・・・そんなこと本当に可能だろうか?
「おい・・・言っとくが、お前のジジイの時と違って今回はマジだぜ。何なら声でも聞かせてやろうか?」
「・・・!聞かせてくれるのか!」
相手の要求に対して、むやみに自身の本心を晒す・・・。
本来そのような行為は、敵に足下を見られてしまうが故に、絶対にやってはいけないことだ。
しかし・・・今の俺に。そんな冷静さは無い。
あるのは只、彼女の声を聞きたい・・・その一心だった。
「ああ、聞かせてやるよ・・・おい・・・!」
スマホの向こう側では、飛田の呼びかけと、それに応える声・・・そして、大勢の男達による叫声と・・・その中に1つ、もはや聞き馴染んでいるといっても過言では無い女の声が聞こえる!
「宇佐美・・・愛しの相手から電話だぜ!」
自身が宇佐美の眼中に無い・・・それが分かったからだろうか。
飛田が彼女に声を掛ける際・・・そこにはもう「ちゃん」付けは無く・・・また見栄を張ろうとする意思も感じられない。
あるのは・・・只、憎しみだけのようだ。
「・・・っ!渡会君!?」
「宇佐美っ!!!」
つい先程まで、一緒にいた相手。
そんな彼女の声を、こんな状況で聞くことになるなんて・・・
(「何が、「守る」だ・・・俺は結局、何も出来なかったじゃ無いか!?」)
そう思った途端に、俺の胸中には申し訳なさが募り、それ故に、名前を呼んで以降・・・俺は暫く、何も言葉にすることが出来なかった。
すると、そんな俺の態度から察したのだろう・・・宇佐美の方から会話を進めてくる。
「渡会君・・・自分が悪いって思ってるでしょ」
「えっ?」
「違うよ・・・悪いのは私・・・元はといえば、私が飛田の好意に付け込もうとした・・・そしてその関係を自分の都合で解消しようとしたの。身から出た錆だね」
(「俺に対する口調が、黒髪に染める以前のものに戻ってる・・・」)
それが何となく気になったものの、この話の腰を折ってまで訪ねるようなことではないと思い、そこを追求はしなかった。
「宇佐美・・・今どこにいる?直ぐに行くから場所を教えてくれ!」
俺は、彼女に「守る」と言ったのだ!
痛恨のミスをしたばかりの俺だが、今度こそ油断はしない!
俺はそう心に誓いながら、宇佐美に現在地を尋ねる。
しかし・・・
「・・・来ないで」
「えっ?」
「来ないで欲しい」
俺の救援に対し、宇佐美からの返答は・・・まさかの拒絶であった。
「ど、どうして!?」
俺に愛想を尽かしたのか・・・?
肝心なときに役に立たなかったから・・・?
俺は一瞬、そんな不安に囚われる・・・。
しかし、宇佐美の返答は、俺の予想とは全く異なるものだった。
「私は・・・渡会君に怪我して欲しくない!」
「え・・・それはどういう・・・?」
意味だ?と彼女に尋ねようとした矢先・・・
「はい!終了!」
スマホを取り上げられたのだろう・・・再び飛田の淀んだ声が戻ってきた。
「おい・・・愛沢。今から場所伝えるから一人で来い。一応言っとくが誰かにチクんじゃねえぞ!分かってるな!」
「ああ・・・分かってる」
相手の土俵にむざむざ上がり込む・・・そんな愚かな行為は本来絶対に避けるべき。
それはたとえ、自らにとって大切な存在を人質に取られていてもだ。
(「取られた人質は既に助からない、そう思って行動しないと、被害が増える一方だからな」)
フィクションなんかでこんな状況が発生し、犯人相手に手をこまねいている時・・・俺はしょっちゅう、その物語の中の刑事や探偵に向かって言っていたものだ・・・。
「人質は無視して、さっさと犯人捕まえろよ!」・・・と。
(「でも、いざ自分にその役割が回ってくると・・・そんなこと、出来るわけが無い!」)
・・・もしそれで、宇佐美の身になにかあったら?
そう考え・・・そして、傷つく宇佐美の姿を想像するだけで・・・俺の心は激しく痛む!
俺には、そんな自身の感情を無視し、合理的で冷徹な判断を下すことなんてことは・・・到底無理だった。
「よーし。場所はな・・・」
その後、飛田から聞かされた場所は、繁華街から少し離れた空き倉庫・・・。
ここまでテンプレートで、尚且つ、宇佐美が「来ないで!」と言っていたことも考慮すると、そこに行った俺がどんな目に遭うのかは、何となく分かる。
(「でも・・・行かない理由は無いな」)
「分かった・・・直ぐ向かう」
「ハハハハハッ!・・・楽しみにしてるぜ、愛沢」
俺の愚かな決断を聞いた飛田が、高笑いして電話を切った直後・・・俺は家に駆け込んで、祖父母に今日の晩飯はいらないことを伝える。
「あら・・・どうしたの?何か用事?」
そう訪ねてきた祖母ちゃんに、俺はこれだけ伝え、家を出た。
「ちょっと、因縁にケリつけてくるよ」
ここまで読んでいただきありがとうございます!
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