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半ば祖父母を人質に取られ、一方的に優位な立場にいる脅迫者・・・。
そんな相手からの連絡を一方的に切る・・・などという凶行には、フィクションの中でもお目に掛かったことが無い。
(「それをまさか・・・俺がやることになろうとは・・・」)
通話時間が表示された自身のスマホをポケットに収めた俺は、自らにそうさせた原因である彼女・・・宇佐美の方を向き、こう尋ねる。
「で・・・何でワザと邪魔したんだ?」
・・・もし、大切な電話を妨害した相手が彼女以外だったなら・・・きっと俺は「何で邪魔をするんだ!?」と、その声に怒気を含ませながら相手を糾弾していただろう。
(「だが・・・他でもない宇佐美が理由も無くそんなことをするわけが無い!」)
と思えるほどには、今の俺は彼女のことを信頼している!
故に、俺は彼女に対し『電話を妨害した目的』を問うたのだった。
「・・・怒っています?」
「いいや。全く。ソレよりも、何でああいうことをしたのか、俺は理由が知りたいんだ」
「・・・もし、「何となく、抱きつきたかったからです」って言ったら・・・?」
「・・・それは・・・チョット怒る」
「何ですか・・・それ・・・フフッ」
宇佐美はそう言って少しの間微笑むと、直ぐにその顔を真剣な表情に変えて、俺の問いに答えてくれる。
「まず確認しますけど、飛田君がアナタのお祖父さんとお祖母さんに害を加えようとしている、もしくは既に危害を加えた後かも知れない・・・そういう認識で良いですか?」
「ああ」
「で・・・それを聞いた渡会君は、どうにかして彼の行動を止めさせるため、謝罪をしようとしていた」
「ああ」
「そうですか・・・。渡会君、落ち着いて考えて下さい。もし、飛田君がそこまでリスクの高い行為に及んでいるのだとしたら、アナタが頭を下げた程度で彼が手を引くと思いますか?」
「・・・っ。そ・・・それは・・・」
思わない。
ヤツの俺に対する恨みが、電話越しの謝罪1つで収束するとは到底考えにくい。
「おそらくですけど、飛田君にはアナタにまだ伝えていない本当の要求があるんだと思います。あなたのお祖父さんに更に危害を加えようとしている云々というのは、自身の要求を通しやすくするための方便ではないでしょうか?」
方便・・・即ちウソだということか・・・。
確かに・・・爺ちゃんのスマホを飛田が持っているという事実と、既になにがしかの怪我を負わせたという発言だけで、俺は咄嗟に、最悪の状況だけを想定していた。
しかし、そもそもアイツの発言の全てが真実である根拠は何処にも無いのだ。
俺は、飛田が俺に対する復讐に手段を選ぶようなヤツだとは思っていない。
だが、学校の外で、明らかな違法行為に手を染めるほど、愚かではない・・・はずだ。
「お祖父さんの様子は確認する必要がありますが・・・渡会君、まずは一旦冷静になりましょう」
「もしかして、さっきのハグって・・・!」
「・・・人というのは「落ち着け!」と言われたからといって落ち着けるものではありません。ですから、荒療治を施しました」
「・・・もっと他の方法はあったと思うけど・・・」
「そうですね。あったかもしれません。ですが・・・」
「ですが?」
「この方法だと・・・その・・・私も得できますので・・・」
「・・・・・・・・・」
つまり「何となく抱きつきたかった」という先程の発言は、まんざらウソというわけでも無かったらしい。
「・・・宇佐美は本当に大したヤツだよ」
俺には勿体ないくらい・・・とは流石に続けられなかった。
「取り敢えず、一度家に帰ってみる。悪いけど、今日はここでお別れだ」
どうやら、飛田のターゲットは俺1人のようだ。
ならば、今日のところは宇佐美とはここで分かれて、全速力で家に帰ろう。
祖父母の安否をとにかく確認したい。
「分かりました。あーあ、折角、私の家までお送り下さると思っていたのに・・・」
「それはまた今度な!」
「!本当ですか!約束ですよ!」
「はいはい」
俺はそうおざなりに返事をすると、急ぎ家に帰るべく脚を速める。
日頃のランニングで鍛えた成果を、こういう形で発揮することになろうとは思ってもいなかったが・・・。
(「不思議だな・・・爺ちゃんの、祖母ちゃんの身を案じなきゃいけない状況は変わってない。なのに気持ちは凄く楽だ」)
きっとそれは彼女のお陰なのだろう・・・。
(「また後日・・・なんらかの形で礼をしよう」)
俺はそう心に決めると、更に速度を上げ、家路をひた走ったのだった・・・。
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