6-4
「今日は一緒に帰ろう」
そう自分の口から宇佐美に伝えるのは、なんとも小っ恥ずかしい経験だった。
ここ最近はあちらから、共に下校することを提案されることがしばしばあるが、俺はその度に、適当な理由をこさえては、その申し出を断ることが多かった。
理由は単純・・・何となく恥ずかしかったからだ。
にも係わらず、秋麗直後のクラス内で、こちらから宇佐美に近づき、開口一番お誘いを掛けた俺のことを、宇佐美は一瞬キョトンとした表情で見つめていた。
「ど、どうしたんですか?何かあったんですか?」
「いや・・・何となく、今日は宇佐美と一緒に帰りたいと思って」
「一体どういう風の吹き回しです?いつもはこちらが幾らお誘いしても素気なく断られるというのに・・・」
「ああ・・・まあ・・・その・・・」
(「ここでサラッと「お前と一緒にいたいんだよ!」とか言えたらなぁ・・・」)
と一瞬思ったが、そんなことを顔色を一切変えず言えることが出来たとしたら、ソレはもう俺ではない・・・。
結局ここでも言い淀み、上手く言葉が口を突いて出てこない・・・そんな俺の様子を窺っていた宇佐美は・・・
「いいですよ!一緒に帰りましょうか」
と俺に対する質問の答えを聞かず、承諾の意を示してくれた。
「い、いいのか?」
「駄目なわけないじゃないですか?ですが一体どういう心境の変化です?」
「いや・・・特に理由は・・・」
「嘘」
俺の嘘はまたしてもあっさりと宇佐美に看破される。
自分はそんなに嘘が下手な人間なのだろうか?
「渡会君・・・人間っていうのは、余程のことが無い限り、行動は常に一貫しているものです。その習慣ともいえるものが、突然変化すれば、不審に思うに決まってます」
そういうものだろうか?
「宇佐美はなんていうか・・・楽観的に物事を考えたりしないよな」
「え・・・?いきなり何です?」
「だって、普通自分の都合の良いように物事が進んだら。少なからずラッキーとか思うじゃん。だけど、宇佐美はそうは考えない」
今だってそうだ。
いつも一緒に下校することから逃げている俺が、誘ってくれたことに対し、すぐ違和感を抱いた。
「どうでしょう?自分でも余り自覚は無いんですけど・・・。渡会さんはこんな性格の女の子はお嫌いですか?」
昔なら、嫌だと答えられたかもしれない。
でも、今はもう無理だ。
「いや・・・別に・・・」
少なくとも俺にとっては、自身の好みなんてものは、いざ恋をしてしまえば大したものじゃなくなるらしい。
「渡会君・・・もしかして、まだ飛田君のこと警戒してる?」
「・・・!」
嘘を吐くのも下手な上に、自身の考えをあっけなく読み取られてしまう俺。
(「もし・・・もしも一緒になる未来があるのなら、俺は確実に尻に敷かれる・・・」)
そんな将来が何となく想像ついた。
「やっぱり・・・私は正直、そこまで心配する必要ないと思うんですけど・・・」
「宇佐美・・・」
楽観的に物事を考えないからといって、俺ほどは神経質ではないようだ。
「いくらフラれたからといって、その相手や意中の人間に報復しようとするなんてのは、フィクションの中でくらいではないですか?」
「それを言うのであれば、アイツの存在そのものがフィクションみたいなもんだろう!俺、アイツに2発殴られたんだから!」
そんでもって、父親の権力をフル活用して、その事実を無かったことにされている。
パパの力も限度があるだろうから、あれほどの無茶がいつまでも続けられるとは到底思えないが、警戒するに越したことはないはずだ。
「・・・そう言われてしまうと返す言葉もありません」
「だろ?」
「・・・ということは、渡会君は今後・・・ずっと私と下校を共にしてくれるのですね?」
「・・・ウッ」
「なら、結果オーライです!」
図らずも、宇佐美にとって都合の良い方向に転がってしまった会話に、俺は「仕方ないなぁ・・・」と言わんばかりの表情をして、彼女の横を歩く。
夢に見た学校生活。
・・・いや、夢にすら見ることが無かった高校生活がここにある。
自らが求める以上のものが、何故か向こうから転がり込んできて、ソレは今では、自分の中で掛け替えのないものにまで昇華している。
ずっと・・・こんな生活が続けばなぁ・・・。
そう思った矢先のことだった。
prrr・・・prrr・・・
自らの携帯の着信音がポケットの中で木霊する。
宇佐美に了解を取った俺は、『祖父』の画面表示を見てから電話を取る。
すると、本来そこから絶対に聞こえてくるはずのない音が・・・
「よぉ・・・渡会・・・」
飛田の粘ついた声が聞こえた。
俺の手から・・・スマホが滑り落ちた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
これからも、鋭意作成し続けたいと思いますので、応援の程、宜しくお願いいたします!
また、感想・レビュー・ブクマ・評価・コメントなどもらえると、作者は本当に喜びます!(ガチ!!!)
ぜひ…清き一票を!!!




