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その日は珍しく、飛田が学校を休んでいた。
意外に思われるかもしれないが、飛田は入学初日にして周囲から問題児と認識されていたような男だったにも係わらず、これまで一度も学校を休んだことが無かったのだ。
ナントカは風邪をひかない、と言う。
もし、そのことわざに幾らか信憑性があるというのなら、あの大馬鹿野郎が病気と無縁なのは納得できる。
しかし、飛田が自主的に学校を休む・・・いわゆるサボりを行ってこなかったことを俺は不思議に思った。
しかし、その理由を考える間、何となく横を・・・即ち黒髪の彼女を視野に入れたとき、その疑問は一瞬にして氷解する。
(「ああ・・・そうか。宇佐美がいたからか」)
簡単な話だ。
飛田は休まず登校しているからといって、勉学に対して真面目に取り組むようなヤツではなく、授業中にも係わらず、飛田が堂々と腕を枕に睡眠をとっている姿は、もはやこのクラスの風物詩といっても過言では無い。
となれば、そんな飛田が毎日登校している理由は、学校本来の目的とは異なるところにあり・・・そして日頃爆睡しているが故に有り余っているエネルギーが、どこに投下されていたかを思い返してみれば、答えは自明であった。
(「きっとアイツは・・・宇佐美と会うために毎日学校に来てたんだな・・・」)
だとすれば、飛田が真面目に登校する理由は無くなったも同然である。
故に、これからはクラスの中心やや後方に位置する彼の座席に、人の気配がない今日の様な日々が当たり前になるのかもしれず、今日がその最初の1日なのかもしれない・・・。
(「きっと、その可能性が高い。いや・・・そうに違いない!」)
だが・・・どれだけ論理的に仮定を導き出し、自らを安心させようとしても、俺の心の中には、依然として一抹の不安が巣くっていた。
『おい・・・渡会・・・絶対後悔させてやる』
宇佐美が飛田との決別を宣言したあの日に、ヤツが自らに対して言い放ったひと言・・・。
俺はアレが、只の脅しや負け犬の遠吠えにはどうしても聞こえなかった。
あれから2週間近くが過ぎ、その間・・・飛田はといえば、それはそれは大人しいものだった。
だが、だからこそ・・・ヤツのその不自然な態度が嵐の前の静けさなのではないかと疑っているのだ。
表立っては動かず・・・しかし着実に準備を進めていたのでは?
そして今日というXデーに行動するべく、学校を休んでいるのでは?
だとすると・・・俺は今日・・・アイツに復讐されるのか?
いや・・・もしかすると、もう・・・復讐は始まっているのか?
(「!!!」)
自身の想像がそこまで悪い方向に向かったとき、俺は危機感から再び宇佐美の方を振り向いていた。
自分とは机を4つほど隔てたその向こうには、先程見たときと同じように彼女の姿がちゃんとある。
黒板に書かれた文章をノートに写すその仕草にすら、流石芸能人と思わせるような気品が漂っている。
(「よかった・・・ちゃんといる」)
俺は彼女の存在をしっかり確認した後も、見とれたかのようにその姿を瞳に移し続ける。
すると・・・やがて俺の視線に気付いた彼女が、不意にこちらを向いた。
そして・・・
パチン
とウインクを1つこちらに残すと、不真面目な俺とは異なり、視線をちゃんと前方に戻した。
(「ウインクって・・・あんなに綺麗に出来るもんなんだな」)
と、俺は以前鏡に向かってやってみたときのことを思い出す。
自身の見るに堪えないソレと違い、今の宇佐美の咄嗟のウインクは、冗談抜きで金銭のやりとりが発生してもおかしくないクオリティーだった。
そんなものを、惜しげも無く披露してくれる・・・そんな堪らなく心地良い関係が、ある日突然奪われるようなことがあったら・・・
(「絶対に嫌だ!!!」)
その喪失感に今の俺は・・・耐えられそうに無かった。
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