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ようやく登校してきた問題児・・・飛田の怒声によって、場の空気は一気に冷え込んだ。
俺と飛田による最早3度目の喧嘩が勃発するかもしれない・・・そう考えたのであろうクラスメイトが、一斉に廊下に避難を開始する。
(「あの時の『避難訓練』の成果・・・確実に出てるなぁ」)
と渦中の俺に思わせるほど、今日の彼等の行動は迅速で、先日の一件の時に比べ、約半分ほどの時間で撤退は完了したのであった。
そうして、再び相対する俺と飛田・・・。
ただし、以前と異なる点が明確に1つ存在する。
それは・・・
「何ですか?飛田君」
あの時は騒動の発端でありつつも、表立って喧嘩に介入してこなかった宇佐美が、今や明確に、こちらサイドに付いていることだった。
「う・・・うさみちゃん。髪型変えたんだね。似合ってるよ」
飛田は、俺に対し怒りを募らせつつも、容姿を一変させた宇佐美を褒めることは欠かさない。
(「こんな時、以前の宇佐美なら「ありがとー!」くらい言ったんだろうな。けど・・・」)
今回はあの時と状況が違う。
俺が金田から宇佐美を助けたあの日・・・飛田達3人はあろうことか、彼女を置いて逃げ出した。
「(あの時、俺が割って入ることが無ければ、宇佐美は今頃・・・心身共に一生消えない傷を負っていたかもしれない」)
ましてや、彼女は幼少時の過去の出来事から、尚更そういった状況で自らを守ってくれる男を求めているのだ。
よって・・・宇佐美の返答も・・・
「・・・ありがとうございます」
と、自身の想像通り、なんともおざなりなものになったのであった。
「えっ・・・ちょっと・・・どうしたん、うさみちゃん?いつもの元気は?」
飛田はきっと、以前までの明るい反応を心待ちにしていたのであろう。
それが一転・・・消え入りそうな声で、しかも敬語を用いたものに変わったのだ。
飛田の動揺は如何ばかりだっただろう・・・?
「飛田さん・・・私、あなたに伝えておくことがあります」
「えっ・・・何々?」
その声色から明らかに気力が抜け落ちている飛田に対し、宇佐美はさらに追い打ちとなるひと言を浴びせる。
「私・・・もうアナタと仲良くするつもりはありませんから」
これ以上無いくらいハッキリとした、友交の断絶宣言である!
「えっ・・・うさみちゃん?」
「あと・・・私、異性として好きな人がいるんです。ですから、これ以上の接触は止めて下さい」
「・・・・・・・・・」
この時ばかりは、流石にもうちょっとオブラートに包んだ言い方をしてやっても良かったのでは?と俺は飛田に同情してしまった・・・。
「・・・・・・・・・」
誤魔化しの一切無い断絶を、入学当初からずっと好意を持ち続け、アタックし続けてきた相手から宣言される・・・もし自分にそんなイベントが起こったとしたら、その時、一体どんな気持ちになるのだろう・・・?
「・・・・・・・・・」
今の飛田の様な・・・放心し、言葉も碌に紡げない状態になるのだろうか?
(「恋愛って、やっぱり怖いな・・・」)
俺は改めてそう思う。
本気になればなるほど、それが実らなかった時に、自らが受ける精神的ダメージはより大きいものになる。
そして仮に運良く相思相愛の関係になったとしても、それが永久に続くという保障は何処にも無い。
(「まさに自分の親がそうだったからな・・・」)
そう考えたとき・・・今、目の前で打ちひしがれている飛田の姿は・・・いつかの自身なのかもしれない・・・と思えた。
俺はふと横を見る。
そこには未だ俺の腕を放す気配の無い宇佐美の姿がある。
(「この手が離れた時・・・俺は耐えられるのか?」)
それとも、俺もあの時の親父の様になってしまうのだろうか・・・?
その問いに、少なくとも今の俺は「勿論、大丈夫だ!」と胸を張って答えることは出来なかった。
「・・・・・・・・・クソッ」
幾分時が経ち、ようやく言葉を発した飛田・・・その第一声は、聞こえるか聞こえないか程度の音量で呟かれた罵倒だった。
しかし・・・その囁きほどのか細い声には・・・きっとあらん限りの負の感情が込められていたのだろう・・・!
ギロッ!!!
(「!!!!!!!!!」)
飛田の視線・・・それはもう宇佐美を見ていない。
その焦点は間違いなく俺に合わせられており・・・そして、彼から発せられた『殺気』に、俺は一瞬、肝を冷やした。
「おい・・・渡会・・・絶対後悔させてやる」
その時の飛田の声は、何時ものように不必要に大きいものでもなく、低く呻くようなもの。 しかし、おおよそ聞き取りやすいとも言えないそのひと言は、これ以上無いほどにハッキリと俺の耳に届いたのだった・・・。
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