5-1
「渡会君・・・私と付き合って欲しい」
「・・・・・・・・・は?」
一夜明けた月曜日、いつも通りの時間に登校し、いつも通りクラスメイトからの冷たい眼差しを一身に浴び、それをいつも通り受け流して着席した・・・そんな俺の机の引き出しに入っていた、1通の手紙・・・。
要約すると「話があるから放課後に教室に残ってくれ」という文言に、昨日彼女を置いて帰ったことによる罪悪感から従った俺・・・。
文句の1つでも言われるのか、はたまた脅されるのかと戦々恐々しつつ、静まりかえった教室の窓の外を見ていた俺の後ろから声を掛けてきた宇佐美から発せられた言葉。
それは・・・紛う事なき告白であった!
「あれ?聞こえなかった?」
「・・・いや、聞こえたけど」
この距離の会話が成立しないほど、俺の聴力は衰えてはいない。
ただ、この状況の異常性に脳が追いついていないだけである。
「・・・ちなみに渡会君、今、付き合ってる人とかいるの?」
「いや、いないけど・・・」
「なら・・・駄目?」
・・・世間一般では、付き合っていない人間が告白されると、交際が始まるのが普通なのだろうか?
今の聞き方は、恋愛を避けてきた節さえある俺にはそんな風に聞こえた。
「・・・聞きたいんだけど、何で俺なんだ?」
・・・正直、自身のこの問いに対しどんな返答が帰ってこようとも、告白の返事は決まっていた。
両親との別れが俺の心に残した傷・・・。
その発端ともいえる『男女の仲』というものを、俺は毛嫌いしている。
ましてや今、自身の背後で交際を申し出ている相手の容姿はといえば、それこそ憎き母を思わせる『金色』の髪を持つ女の子。
彼女がどの程度の覚悟を持って、俺なんぞに告白しているのかは分からない。
だが少なくとも、彼氏彼女の関係になる為に、無くてはならない重要な儀式・・・それを背中で受けることしか出来ない俺が、その申し出を受けることが出来るわけが無い。
俺である理由を聞こうが聞くまいが、返答を変えるつもりがないのだ。
なら、そんなことを問わずに否を突きつけてやるべき・・・。
そう思うも、好奇心に逆らえず聞いてしまった俺はきっと卑怯者なのだろう・・・。
そんなズルい俺の問い・・・それに対する彼女の答えはこうだった。
「昔・・・助けてくれた人に似てるから・・・かな?」
「?」
予想外の返答。
昨日の今日なので、てっきり繁華街での一件が、俗に言う『吊り橋効果』的なものを引き起こしたのかもしれない・・・と思っていたのだが。
「その助けてくれた人っていうのは、宇佐美にとってそんなに大切な人なのか?」
「うーん、勿論恩人ではあるよ。でも名前は勿論、パーソナルな情報は殆ど知らないの」
「・・・それじゃ、何をもって俺に似てるって判断してるんだ?」
そもそも宇佐美が俺について知っている情報といえば、自己紹介時に話した程度の事くらいの筈・・・。
それだけで俺とその恩人との間に、どのような相似を見出したというのか?
「それはね・・・『強い』ところ」
「『強い』?」
「そう・・・私は渡会君の強さに惹かれたの」
それを聞いて、そういえば彼女がやたら俺の実力を知りたがっていたことを思い出す。
(「まあ、身長が高かったり、スポーツやってるヤツの方がモテるんだろうし、その類いのことなのか?」)
「一般的な女子が、男子の体格の良さや日常的な運動の有無を良いパートナーの選定基準にするのは、ソイツの強さを間接的に測りたいからというのもあるのでは?」と思っている俺からすると、そんな迂遠な手段をとらず、純粋な『強さ』で相手を見出したいと言う宇佐美の気持ちは理解出来なくもない。
強い者の遺伝子を求めるのは生き物として当然だし、そこには人間も含まれる筈・・・。
宇佐美はそんな生物の性に従って、俺を選んだ・・・ということなのだろうか?
「そうか・・・俺の強さに」
・・・だとすると彼女は思い違いをしている。
確かに、俺は『強く』なりたい。
その為に日々努力を欠かしていない自負はある。
だから、人から受けた『暴力』に膝を屈することは無いかもしれない。
だけど、それほどの強さが俺に必要なのは、俺のそれ以外の部分がどうしようもないくらい『弱い』からだ。
両親との決別で受けた精神的ダメージ・・・『金色』に対する嫌悪・・・友達を作ったりする等、他人とのコミュニケーション能力の欠如・・・。
そういった『弱さ』を隠すために、俺は必要以上に肉体的な『強さ』を求めているに過ぎない。
俺の本質は『弱さ』だ。
全く『強く』なんてない・・・。
「宇佐美・・・俺はお前と付き合いたくない」
宇佐美の求めている男性像を知った俺は、幾分軽くなった気持ちでそう答えることが出来た。
それは、いくら自身にとって重要なことであるとはいえ、「お前の『金髪』が嫌いだから付き合いたくない」と言わずに済んだからである。
・・・それ以外にちゃんと断る理由が出来たことが、振ることに対する罪悪感を減らしてくれたのだ。
俺は脳内でそれなりに言葉をこねくり回し、丁寧な説明を心がけた。
「宇佐美は俺を『強い』と言ってくれるけど、それは間違いだ。確かに俺は喧嘩で負けることは少ないかもしれない。でも俺がそんなに『強い』のは、他の部分が余りにも弱すぎるからで、そんな俺の『弱い』部分を守ってやらなきゃいけ・・・」
「嘘」
「ない・・・えっ?」
「嘘だよね」
「嘘って・・・いや、そんなこと・・・」
嘘なんて吐いてない。
今、言っていることは紛う事なき真実。
俺が頭をフル回転させて考えた・・・嘘偽り無い本心だ。
だが、その後に続く宇佐美の言葉は、俺の本心がひた隠しにしようとしている核心を捉えていた。
「私・・・今日、振られること事態は仕方ないと思ってた。そりゃそうでしょ・・・渡会君、入学当時からずっと私のこと露骨に避けてるんだもん。そんな人間から告白されて「はい、喜んで!」って飛びついてくる男の人なら、私・・・信用できない。そういう意味では、今回断ってくれたことは嬉しかったの。だってそれは下心を抜きにして考えてくれてるってことだから」
「・・・・・・・・・」
「私は、今日仮に断られたとしても、渡会君のこと諦める気は無かった。振られた理由が直せるなら直して、何度でもアタックするつもりだった。でも・・・だからこそ・・・嘘で誤魔化されたら、それすら出来ない。だから渡会君にはどんな理由でも構わないから、正直なことを教えて欲しいの。本当のところ・・・渡会君は私の何が・・・ううん、私の『容姿』の何処が気に入らないの?」
「・・・っ!」
一瞬震えた自身の背中。
図星を突かれ、ここまでハッキリと動揺を表に出すなんて、何時以来だろうか?
「やっぱりそうなんだ・・・」
「・・・っ!」
「何?顔?身体?服装?何処が気に入らないの?渡会君はあんまりソッチ方面興味無いんだろうけど私、これでも結構容姿端麗で通ってるんだよ。でも、もし気に入らないところがあるんだったら・・・私、出来る限り直す!いざとなれば事務所だって説得するし、ソレが出来ないなら最悪芸能活動止める!そのくらいの覚悟はしてるんだから!」
「・・・・・・・・・」
宇佐美が今上げたそれらの行為が、どれほどリスキーなことなのか・・・正直俺には分からない。
だが、彼女の声にこもった・・・熱の大きさが、俺の背中の向こう側にいる1人の女の子の真剣さを物語っている・・・俺にはそんな気がした。
そして、その熱はしっかりと俺の本音を引きずり出した。
「俺は・・・『金色』が駄目なんだ」
強さに執着する俺にとって、『弱点』を曝け出すなんてのは暴挙以外の何物でも無い。
しかし、口からそう言葉を出したとき、俺の心の中で重しとなっていたものが、ポンッ!と出てきたのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
これからも、鋭意作成し続けたいと思いますので、応援の程、宜しくお願いいたします!




