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曲がれる所はひたすら曲がり、最早、自身の地理感が頼りにならない所まで来た俺は、ようやく宇佐美の手を離す。
「はぁっ、はぁっ・・・」
俺が引っ張っていたとはいえ、日頃から鍛えている男との併走は辛かったに違いない。
自身の斜め後方から聞こえる粗い息づかいが、彼女が疲労していることを示していた。
(「叶うなら、ここで霧のように消えたい・・・」)
・・・彼女を助ける義理なんて無かった。
にも係わらずあの時・・・何かが俺を背中を押して、ただでさえ苦手な知人(しかも2人)の前に立たせたのだ。
自身を突き動かしたその感情が一体何なのか・・・今の俺には分からなかった。
(「宇佐美だって、何で助けに入ったのかは気になるだろうし、このまま会話の流れになればきっと聞いてくるに違いない・・・」)
そうなったときに生じる、何か真っ当な回答をするまで解放されない空気・・・そんな中を過ごすのが、俺はたまらなく嫌だ。
だからこそ俺は自らの霧散霧消を願っていたのだが、何処かに御座す神様が俺の願いを聞き入れてくれるよりも、やはり宇佐美の呼吸が整う方が速かった。
「ねえ・・・渡会君」
来た・・・!
答えられることなぞ無い。
しかし、何か言わねばならない・・・。
さてどう答えるか・・・?
そう悶々と考えていた俺に、後方の彼女が投げかけた言葉は予想外のものだった。
「渡会君は、優しいね・・・」
「へっ?」
教室内でのハイテンションな時とは違う、落ち着いた声色で放たれた想定外のひと言に、俺は思わず振り返り・・・金色の輝きが視界に入った瞬間目を伏せた。
無駄な肉の無い、しなやかな足を中心に捉えながら、俺は宇佐美に問い返す。
「優しい?俺が?」
「うん・・・だって助けてくれたでしょ」
「成り行きだよ。偶々通りかかったところにお前がいて、困ってた。だから助けた、それだけだ」
結局、彼女が助けた理由を成り行き・・・と誤魔化す俺。
しかし彼女は、俺が意図的にはぐらかした部分を追求してくることは無く・・・
「・・・それって中々出来るようなことじゃないよ。事実、私は連れの男に見捨てられちゃったわけだし。それに、野次馬も含めて止めようとする人もいなかったでしょ。なのに渡会君はそうじゃなかった。それは少なくともあの場にいた誰よりも優しいってことにならない?」
揃っていた足を交差させながら、俺への賛辞を送る宇佐見。
きっと大抵の男共は、一際美人な同級生にここまで持ち上げられれば、天にも昇る気持ちになるのだろう・・・。
仮に自身のように特殊な理由があろうとも、決して悪い気はしない筈だ。
だが、俺・・・渡会優は、そんな賞賛を諸手を挙げて歓迎は出来なかった。
「違うよ」
「えっ?」
黙って受け入れられると思っていた褒め言葉に対し、唐突に突きつけられる『否』。
それに、今度は宇佐美が戸惑いの声を上げる。
俺は構わず続けた。
「俺が他の人達と違ってお前を助けに出て行けたのは、俺がお前を困らせてたヤツに勝てる自信があったから・・・つまり俺がアイツより強かったからだ。別に俺が優しいわけでも、周りの人達が薄情な訳でもない」
仮に、もしも金田が低身長で痩せぎすの男だったとしたら、飛田達3人はお得意の高圧的な態度で返り討ちにしていただろう。
彼等がそうしなかったのは、優しさが足りなかったからではなく・・・ただ弱かったからだ。 周りで観戦していた人達もきっとそう・・・。
人並み外れた容姿を持つヒロインに恩を売れる絶好の機会・・・。
しかしそんなチャンスが目の前にあるにも係わらず、誰もが観客の立場を貫いたのは、唯々彼等が金田に敵わないことを理解していたからだ。
結果・・・何かに気持ちを突き動かされた俺が、仕方なく腕まくりして出て行かなければならなくなったのだ。
(「断じて・・・優しさの有無ではない」)
何となく、それだけはハッキリ言っておきたかった。
「・・・・・・・・・渡会君って、変だね」
俺の意見を傾聴した上で、そのような感想を呟いた宇佐見。
そんな彼女は一体どんな表情をしているのか・・・
先程まで交差されていた足が、いつの間にか直立に戻っている・・・そこにはどんな意味があるのか・・・。
それらの問いに対する答えは、その後、細い路地裏に女の子を1人置き去りにして帰宅した優しくない俺が、少し考えた程度で分かるものではなかった・・・。
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