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視界に入れたくもないが故に、リング内での真っ当な試合すら拒絶していた俺が、まさかこんな路上でコイツと立ち会うことになるとは・・・。
「ああっ?誰だてめえ・・・」
前方を歩いていた金田が、自身の後ろから付いてくるはずの足音が止んだことに気付いて振り返り、俺を視界に収めるや否や放ってきた第一声がこれだ。
(「・・・どうやら帽子と眼鏡で、俺の正体に気付いてないみたいだな。それは重畳。なんだけど・・・」)
路上で見知らぬ人間にかける言葉として「誰だてめえ?」とは穏やかじゃない。
唯でさえ眼光鋭く、暴力的なオーラを醸し出すコイツに、こんなケンカ腰に言葉をぶつけられれば、並みの人間は怖じ気付いてしまうだろう。
「ウッ・・・」
自身の直ぐ後ろに控える宇佐美の声にも、依然として怯えの色が覗える。
(「曲がりなりにも女を口説きたいなら、その対象を怯えさせちゃいかんだろ・・・」)
まあ・・・もしかしたら、これがコイツの常套手段なのかも知れないが・・・。
「すいません・・・何だかこの子が嫌がっているように見えたので・・・つかぬ事をお伺いしますが、あなたは彼女のお知り合いですか?」
俺はこのまま通りすがりの一般人を装うことに決め、とりあえず丁寧口調でやんわりと説得を開始する。
(「これで引き下がってくれれば・・・」)
そう淡い期待を持っての頼みだったのだが、しかしそれに対し金田は・・・俺の敬語を用いた発言を・・・
「はあ?お前になんか関係あんの?」
と依然、上から目線で打ち返してくるあたり、極めて望み薄である。
「いや・・・僕は通りすがりの者なので、関係はないです。しかし、彼女の方があなたに怯えている様に覗えたので、もしかして同意のない女性を無理矢理どうにかしようとしているのかと勘ぐってしまって・・・」
「つまり・・・関係ないんだな!?」
一刀両断。
いや・・・俺が言いたいのは「公共の場所で諍いを起きていれば、仲介せざるを得ないでしょ!それが当然ですよね、人として!」ということなのだが、今の金田にとって何より大切なのは「お前は彼女の男なのか?」であり、「NOであるなら邪魔すんな!」ということのようである・・・。
(「こいつ・・・こんな横暴なヤツだったんだな」)
と眼鏡とキャップの鍔越しにコイツと接して、俺は少し残念に思った。
(「俺の事情で、最近めっきりコイツの試合を見てなかったから、今どれだけの実力を持ってるのかは知らない。けど・・・純粋な強さを追い求める姿勢、そこだけは嫌いじゃなかったんだけどな・・・」)
決して俺から近づくことはしなかったが、影ながら一目置いていたヤツが、リングの外でこれ程横柄に振る舞っている姿は正直見たくなかった・・・。
「なら、その女から離れて消え失せろ!」
俺達2人の・・・味方によっては女をかけた闘いに、緩く人の輪が出来上がりつつある。
しかし、ここまで人の目があろうとも、金田の暴力も止む無しという考えは変わることは無さそうである。
(「まずいな・・・あんまりこんなことしてたら、ソレこそ警察なんかに目を付けられかねない!」)
今回に関しては別に俺が何か悪いことをしたわけでもない。
しかし、最悪、祖父母や勝さんに心配や迷惑をかけるような事態は避けたいのだ。
(「特に最近は祖母ちゃんの心労を増やしてばっかりだからな・・・」)
これ以上、出来の悪い孫の尻拭いをさせるわけにはいかない!
(「仕方ない・・・使うか・・・」)
目には目を、歯には歯を。
俺は顔を俯かせ口元を手で隠しながら、後ろの宇佐美にこう呟く。
「怖い思いするかもしれない・・・だから、目を瞑ってろ」
「・・・えっ?」
俺からの意味深なお願いを、彼女はしっかりと聞いてくれるだろうか・・・?
その確認を行うこともなく、俺は再び金田に向き直る。
そして、今までまともに合わせようとしなかった自身の眼を、金田のソレとピタリと合わせると・・・俺も放った。
ビリッ!!!!!!
「!!!!!!!!!」
金田の驚愕の表情・・・それは俺からのメッセージがきちんと伝わったということだ。
目を大きく見開き、黒々とした肌から滲み出る汗が彼の顔を濡らす。
(「これでひとまず手を引いてくれるだろう・・・」)
金田の身体にかすかな震えを見て取り、この事態の決着を悟った俺は振り返る。
そして、なるべく顔を見ないよう注意しながら、後ろで立っていた宇佐美の手を握ると、俺達2人は足早にその場を離れた。
先程までの金田なら、それこそ追いかけてきてパンチの一発くらい見舞ってきそうなもの・・・。
しかし、今の彼にそんな余裕は無いはずだ。
相手の殺気に怖じ気づく・・・それは即ち圧倒的な実力差を、自らの本能が感じ取ったということなのだから。
(「とりあえず人目の付かないところまで・・・」)
と思い、飛田達が繁華街方向へ逃走を図ったことを見ていた俺は、未だ一度も通ったことのない細い路地をひたすら曲がり続けた。
その間・・・繋がれ続けた手からは一切の抵抗を感じず、その腕の持ち主が何を考えていたのかなど、当然分からなかった。
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