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『金色』嫌いな俺の青春  作者: えみお


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3-6

 突然だが・・・幾ら自分の腕力に自信があるからといって、邪魔な障壁をパンチで破壊しよう・・・などと考える人間は、少なくとも現実には存在しない。

 仮にそいつが常識外のパワーを兼ね備えていて、目の前の壁を無事破壊出来るのならともかく・・・人類の枠に収まる程度の力しか持ち得ないのであれば、自らが振るった力が反射して、自身の拳を傷つけてしまうことくらい、誰だって分かるからだ。

 おそらく今までも幾度となく振るってきた飛田の拳は、その対象を無事吹き飛ばすことが出来ていたが故に、怪我することを免れてきていたのだろう。

 隙だらけのテレフォンパンチを、遠慮無く見舞ってきたことからもソレは明らかだった。

 



 だから・・・俺はそれを逆手に取ったのだ!




「痛ってええ!!ああっ、痛え。何だ、畜生!?」


 未だに情けない叫声を上げながら、うずくまる飛田。

 その姿こそ、好いた女子に見せてはいけないもの類いのものだと思うのだが、今の彼にそんなことを考える余裕は無い。

 

(「・・・痛ってえ」)


 一方の俺も無事とはいかない。

 自分もまた、飛田と同じだけの衝撃をクらっているのである。

 しかも飛田の拳に対して俺は顔面といっていい部分・・・。

 受けたショックの威力は同じ・・・でも、よりダメージの大きいのは無論自分の方だ。

 だが、それでも俺は・・・


(「口の中・・・血の味しかしねぇ・・・こんなん何時以来だよ・・・」)


 と、過去の記憶に検索をかけながら、表向きはあくまでも平静を貫き、なんてこと無いかのように振る舞った。

 



 前回は、ふと浮かんだ祖父母の顔、迷ってしまった自身の心。

 それが選んだ回答は、非暴力に徹し、弱者を装っての防衛だった。

 だが、今回は違う。

 今日の俺は・・・祖父母を守りながら、同時に自分も・・・自分の心も守る選択肢を選んだのだ。



(「俺にもまだ、こんな気持ちがあったんだな」)


 日頃から親身になって助けてくれる祖父母以外の人間が、自身にどういう評価を下しているかなんて、正直どうでも良い・・・俺は自らがそんな風に考えていると思っていた。

 しかし、半ば闘鶏のように見世物にされ、無抵抗の内に再び殴られる・・・しかもソレはもしかすると、未だ自身の後ろに控えているであろう少女の企みによって・・・とそう考えたとき、俺はなんとなく・・・


 


 やられっぱなしは嫌だ!




 と思ったのだ。

 そうして咄嗟に行った反撃は、まさに肉を切らせて骨を断つと言わんばかりの捨て身の戦法だった。

 そんな行為はおおよそ賢い人間のやることとは言えない。

 だが、口内を鮮血で真っ赤に染め、痛みは依然として続き、脳もおおよそ正常とは言えない今の自分は、決して悪い気分では無く・・・


(「ああ、なんか清々しいな・・・」)


 とさえ感じていた。


「ぁぁっ・・・痛ぇ・・・」


 依然、ダンゴムシのように這いつくばっている飛田を見て、俺は更に胸がすく。

 俺の中に堪り続け、半ば強くなるための原動力とさえなっていた、怒りや憎しみといった負の感情・・・。

 そういったものの多くが、流れ出ていくのを感じた。

 本当に想像だにしない出来事に対する、瞬時の行動・・・。

 しかし、結果的に俺の中では復讐が完了したようであった。


「・・・・・・・・・」


 もうここにいる意味も無い。

 それに、口内に溜まった血もどうにかしたい・・・。

 口に溜まった血液を少しずつ嚥下しながら、俺は廊下に続く扉に向かう。

 それに焦ったのは、観客となっていたクラスメイト達だ。


「「「!!!」」」


 その反応ときたら、今まで柵の向こう側で見世物をしていた猛牛が、手違いで檻の外に飛びだして来たかのようである。

 丸くなって抵抗の意思が全く無い飛田の横を、堂々と通過し扉に向かってくる俺の姿を見て、その当たりを陣取っていた一団は早々に場所を空けた。

 負っている外傷に反して気分が良い俺は、礼の1つも言ってやっても良いかなという気持ちですらあったが、もしここで少しでも口を開こうものなら、溜まった唾液と多量の血液が飛散するのは目に見えている・・・。 

 なので結局、扉を抜けた後、注目するクラスメイトに対しては一切の無視を決め込むも同然にお手洗いに直行したのだが、その姿は同級生の目には一体どう映ったのであろう?

 

(「殴られたにも係わらず、殴ってきた相手をノックアウトして、無言でその場を立ち去る同級生か・・・)」


 これがフィクションの世界なら、その立役者は一躍人気者に違いない。

 しかし、ここは現実・・・ノンフィクションである。

 きっとまた、尾ひれ背びれがついて、最早何処が本質かも分からない噂だけが跋扈し、結果的に俺の学内評価が下がることになるのだろう。

 



 客観的に見て、今回の出来事において、俺が失ったものは多少あれど、得たものは無い。

 だが、それを理解しても尚・・・


(「ああ、ホント気分が良いな・・・」)


 と思えた俺は、腫れた頬を抑えつつ、軽快なリズムを小走りに付与したのだった・・・。


 


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