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『金色』嫌いな俺の青春  作者: えみお


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26/43

3-5




「おい!いいかげんにしろよ!」




 飛田の我慢が限界に達し、突如として俺の前に立ちはだかったのは、いつも通り宇佐美からの交流を躱して教室を抜けだそうとしていたときだった。

 耳まで真っ赤に紅潮した顔と、その口から発せられた言葉の語気の強さが、今の彼の怒りのボルテージのほどを如実に表している。

 ・・・平時でさえ、気に入らない人間に躊躇無く殴りかかるようなヤツだ。

 そんな男の、激高した姿に気付いたクラスメイトはといえば、まるで突如室内に暴漢が入り込んだかのように、皆大なり小なり声を上げつつ教室を後にする。

 がらんとした室内・・・そこにきちんと配列されている各机には、それぞれが昼時に食べた弁当や鞄・・・中には財布とおぼしきものまでも置き去りにされていた。


(「まるで避難訓練だな・・・」)


 と思う一方・・・その後すぐに、俺は訓練の手順には絶対存在していないクラスメイトの行動を見て取った。

 

(「はあ・・・また、見せものになってしまう・・・」)


 ・・・安全圏にまで無事逃げおおせた者達・・・彼等は教室と廊下を行き来するための2つの扉の間にある窓を、音を立てないように慎重に開けると、そして余りにも露骨に聞き耳を立て始めた。

 どうやら、余程この行く末が気になるらしい・・・。

 

(「・・・窓を開ける際の擦過音にすら気を配らなければならないほどの異常事態なら、さっさとこの近辺から離れるなり、もしくは教師を呼んでくるなりと、理性的な行動を取ってほしいもんだ」)


 と思うのだが、どうやらそんな常識的な人間は皆無のようで・・・

 以前の一件では机を直すのを手伝ってくれた遠藤君も、今回は見物に徹するようだ。

 

(「・・・仕方ない。彼は熱狂的な宇佐美ファンだったからな」)


 自己紹介の際に宇佐美に名指しされ、天にも昇る表情を浮かべた彼のことだ。

 直接的な行動で怒りをぶつけてきた飛田ほどではないにしろ、彼もまた俺の宇佐美に対する無礼な反応に思うところがあったのだろう。

 



 高校に入学してたった一月余りで、クラスメイトから完全に目の敵にされた俺は今・・・教室という名のリング再び、飛田と相対することになってしまったのだった。




 ・・・客の入りはそこそこ。

 規模の小さい練習試合では存在しないことすらザラにある審判も、曲がりなりに存在している。

 まあもっとも・・・そのポジションを強制的に任されることになった宇佐美はといえば、まさか自身の行動が諍いの種になろうとは思っていなかったのであろう。

「えっ・・・えっ・・・?」という声を漏らしながら、未だ動揺を隠せずにオロオロするばかりだ。

(「でも一番の問題は・・・結局、今回も俺にだけは拳を握る権利が無いってことなんだよな・・・)」


 この一件の決着がどうなるのかは分からない。

 だが最早観客も同然となってしまったクラスメイトからは勿論、教師による救いの手が差し伸べられるなんてことも期待は出来ないだろう・・・。


(「もう一発食らうことになるだろうな・・・」)


 目立つ傷や腫れがようやくひいてきた所に、再度拳を食らうことは避けたいと思ってはいたのだが・・・


(「あの後、家に帰ってきた俺を見た祖母ちゃん。ひっくり返ってたからなぁ」)


 自分で言うのもなんだが、目に入れても痛くないほど愛してくれている祖母にとって、孫の生傷というものは、刺激が強すぎるらしい。

 なので、出来れば、見えないところに2、3発程度で済ましてもらいたいものだ・・・。


「おい、渡会・・・お前やっぱり調子乗ってるよな!?」


「・・・?何のことだ?」


「とぼけんなよ!宇佐美ちゃんのこと無視してんじゃねえか!?」


「・・・それが?」


「・・・っ!てめぇ・・・分かってんだろうな!?」


「分かる?何を?」


「これからどうなるかだよ。また吹っ飛ばされてえか・・・ああっ!?」


 それは困る。

 俺は一応、弁解を試みるべく、飛田に対し、比較的丁寧な言葉遣いでもって、説得を試みる。




「俺、飛田君に何か悪いことしたかな?100歩譲って宇佐美自身に批難されるならまだしも、飛田君に何かした覚えが無いんだけど?」




「・・・っ!」


 頭に血が上っていたからか、それとも常時そのスペックなのかは知らないが、対峙する俺に説得された飛田は、ここにきてようやく、自身の大義名分がハリボテであることに気付いたようだ。

 以前の件では、パパに力を借りることで事なきを得ている訳だが、そのパパだって自身の子供による不祥事に何も感じないわけがない。

 まともな親なら(子供の姿を見るに、その可能性は殆ど無いであろうが・・・)説教の1つや2つはあるだろうし、想像通りの駄目親であろうとも、自らの面子に泥を塗るような行為に対して、釘を打つことくらいはする筈だ。

 要するに、俺は飛田にこう言っているわけである・・・「お前は既にイエローカード貰ってるんだぞ、分かってるのか?」と。

 その真意を欠片ほどでも理解してくれたのか・・・飛田は挙動と言動を完全に停止させた。


(「恐らく、今・・・飛田の中では、碌でもない計算がなされているんだろうな・・・」)


 ここで俺を殴るべきか、引くべきか・・・?

 天秤の片方には、目の前の憎いヤツを殴り倒して得るストレスの発散と快感が・・・。

 もう一方には、2枚目のイエローカードが載っているこの状況。

 この様子だと、飛田がパパから1枚目を貰っていることは確定で、しかも割とキツめのお灸を据えられたと見える。

 

(「あ・・・心なしか、飛田の顔色が戻ってきたぞ」)


 最早、「身体の他の部位はどうなっているんだ?」と思えるほど、真っ赤になっていた顔色・・・その様子が、少しずつ元の色を取り戻しているように見える。


(「よし・・・勝った!」)


 自らの目的を達し、心の内でガッツポーズを決めた俺・・・。

 勿論、現実世界の方は未だ静けさを保ったままだが、内なる自分は大衆からの歓喜の声を受けながら小躍りしている。

 休み時間もあと僅か・・・チャイムの音は即ちゲーム終了の合図だ!

 後は何事も無く時が過ぎるのを待てば・・・




「・・・飛田君」




 おい・・・審判!

 最後の最後に敵へのアシストは止めろ!

 お前に対して好意丸出しの飛田には、ちょっとした声掛けすら、何を引き起こすか・・・。




「・・・はっ、宇佐美ちゃん!?」


 


 コトの始めから、俺の斜め後方にずっと居座っていたにも係わらず、怒りの余りその存在を失念していた飛田は、自身の名前を呼ぶ声に、ようやく彼女を視認するに至ったようだ。

 



 飛田の顔色の変化は劇的だった。

 



(「油断した・・・」)


 9回裏に押さえの切り札を投入したからといって、組んだ腕を解き安心する監督などいない。

 2アウトフルカウントからの逆転劇は存在する。

 だからこそ、3アウト目を取るその時まで、決して身体を弛緩させてはならないのだ。




 俺はそれを盛大に怠り、結果、逆転サヨナラ満塁ホームランを打たれたのだ・・・主審である宇佐見によって・・・。




 飛田の心の天秤に載っていた2枚目のイエローカード。

 ソレが『目の前の宇佐美』の存在によって皿から勢いよく吹き飛んだのが俺には見えた。

 おそらく彼にとっては、『宇佐見の目の前でかっこ悪いところを見せる』ことよりも恐れるものなど存在しないのだろう・・・。

 自らの目前に愛しの女がいることを意識した飛田に、拳を引くという選択肢が残るわけが無い。

 ・・・何故ならソレは即ち、好きな女の前で喧嘩を売ったにも係わらず腰が引けたと思われてしまう可能性があるからだ!


(「宇佐美・・・余計なことを!」)


 勝手に審判に見立てておいて、文句を言う筋合いも無いのかもしれない。

 しかしその一方で、何故彼女はここに来て声を発し、飛田を鼓舞したのだろうか・・・?

 鼓舞・・・というよりはむしろ呟きに該当しそうな声のボリュームではあった。


(「だが、宇佐美は芸能活動にも足をツッコんでいたんだよな・・・」)


 その遍歴が俺にとある可能性を示唆する。

 



(「もしかして・・・ワザとか!?」)




 直前の飛田の心理・・・即ち、暴力に歯止めをかけようとしていた彼の気持ちに対し、さりげなく、しかし的確に発破をかけることで奮起させた?

 何故?

 

(「まさか・・・宇佐美のヤツ、意趣返しに飛田を使うつもりか!?」)


 つい先程も俺に対し、最早恒例となった友交の誘い・・・。

 それに対し、いつも通りつれない対応をとった俺に対する復讐に、この諍いを利用したのか?


(「いや、流石に考えすぎか?・・・でも、それ以外に理由が思いつかない」)


 ・・・自らが思考の海に身を浸していたのは、現実では僅かな時間だったように思う。

 しかし、飛田の顔色が元に戻る・・・即ち再び表情を真っ赤に染め上げるには十分すぎたようだ。

 彼の手は硬く握られており、おそらくそれは目的を終えるまで解かれることは無いだろう。



 目的・・・即ち、あの日の再現である。




 客席と化した廊下側の窓や扉からは、もはや隠す気の無い同級生達の視線が一身に向けられている。

 ここは正規のリングでは無い・・・そして少なくとも俺には対戦の意思がない。

 しかし、今のクラスメイト達の目に恐怖などの負の感情は浮かんでいない。

 今から一体何が行われるのかは、皆なんとなく想像は付いているだろう。

 そして冷静に考えればそれは犯罪であり、教師をはじめとした周りの人間の手を借りて阻止しなければならないのも理解できるはずだ。


(「それでも・・・誰も止める気は無しか・・・」)


 もし、ここに立っているのが俺以外の誰かだったら?

 向かいで顔を変色させているのが飛田でなかったら?

 宇佐見というイレギュラーが無ければどうなっていた?

 ・・・疑問は頭を埋め尽くし、それに対しての回答を俺の頭は勝手に検討し始める。

 しかし、自身にそれを終えるだけの時間が無いことは、目前の飛田が歩を進め、俺に近づいてきたことから分かり切っていた。


「渡会・・・覚悟しろ!」


「覚悟しろ!」なんて言葉をフィクション以外で耳にする日が来ようとは・・・ましてや、その発言が自身に向かって投げかけられることになろうとは思わなかった。

 常時なら「痛いヤツだ」と一蹴して終わりなのだが、ここに実際に行動が伴うことを知っている身からすれば、笑ってお終いとはいかない。

 やがて射程圏内に入る飛田。

 引き絞られる右腕を見た俺は、ソレが前回と全く同じ場所を狙っていることを瞬時に見抜く。

 避けること・・・そして反撃を決めることは造作も無い。

 だが、その後に待つ不条理な対応を思えば、賢い選択だとは言えない。

 結局、飛田のバックには依然として彼の父親が控え、権威にモノを言わせたマウントプレイでこの事態を乗り切ることは分かりきっている。 

 一方・・・自身が殴られることを半ば心待ちにしているクラスメイト達が俺を擁護してくれるとはとても思えない。

 



 元はと言えば身から出た錆・・・クラスのアイドルに手を上げて、その後も無礼千万な行いをしてきた自身の所為なのかもしれない。

 



 だけどな・・・




 たとえ、誰に理解されることが無いとしても・・・。

 共感されることが無いとしても・・・。

 誰も守ってくれない弱い俺を・・・。

 俺は強くなって守ってやらなくちゃいけないんだ!

 


 

「オラアッ!」

 

 飛田のかけ声と共に、十分に引き絞られた拳が、音さえ聞こえそうな勢いで飛んでくる。

 再び怪我を負ったとき・・・祖母はまた気を失うだろうか?

 反撃したとき・・・今度こそ学校に居場所はあるのだろうか?

 宇佐美は一体何を考えている?


 


 分からないことだらけの中・・・今回の俺は、前回とは違った答えを出した。




 バシィッ!!!




「んなあっ!?」



 振るわれた拳は俺の頬を的確に捉え・・・打ち抜くことは無かった!

 



 勢いを失い、自身の顔に接着したかのように動かない拳。

 前回以上のダメージを受けることが分かっていながら、俺は受けて立つことを選んだ!

 俺は、俺のやり方で・・・今の俺の出来る精一杯の方法で反撃したのだ。

 咄嗟に足を開き、飛田の拳に足の踏ん張りを効かせると、衝撃に一切怯むこと無く耐えきった。

 その結果・・・




「いっ・・・痛ってえええええええええええ!!!!!!!!!!」」




 俺は飛田にとって一番大切なもの・・・即ちプライドを奪ってやることに成功したのだった!

 



 ここまで読んでいただきありがとうございます!

 これからも、鋭意作成し続けたいと思いますので、応援の程、宜しくお願いいたします!

 

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