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『金色』嫌いな俺の青春  作者: えみお


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24/42

3-3

 あの時・・・人として『やるべきコト』、また『やってはいけないコト』があったのは分かっている。 

 友交を育もうとしていたクラスメイトの女の子に向かって拳を振り下ろし、断絶宣言を行うのは『やってはいけないコト』。

 きちんと謝罪をし、自身に出来るかぎりの誠意を見せることこそ『やるべきコト』。

 しかし、俺は『やるべきコト』は行わず、『やってはいけないコト』を断行した。

 しかも、クラスメイトの視線が集まる教室内で・・・だ。

 



 その日以降、俺の存在そのものがタブーとして扱われるようになったのは言うまでも無い。



 ガラガラガラ・・・


 週明けの月曜日。

 今日も今日とて、教室の扉を開けた先・・・。

 視線を向け、俺の存在を認識したクラスメイトは、もう俺という存在から目を背けようとすらしなかった。

 無視は当然・・・中には露骨に睨み返してくるような者までいる始末である。


(「完全に村八分だな」)


 と思うが、全ては自身が起こした行為の結果であり、飛田とのイザコザとは違って、今回は誰が見ても俺が非がある。

 なので、こればっかりは仕方ない・・・と割り切り、俺は自身の席に腰を下ろした。


(「こんな時は読書に限る」)


 と思い立ち、鞄の中から取りだしたのは、『銃・病原菌・鉄』という名の文庫本。

 生理学者、進化生物学者など、あらゆる分野の学問を収めた筆者が、ニューギニアでのフィールドワーク中、現地の知人から尋ねられた問い・・・『なぜ、白人はたくさんの物を生み出し、ニューギニアに持ち込んでいるにも係わらず、ニューギニアにはそのようなものが無いのか?』に答えるために研究し、答えを出すまでの過程が書かれた本である。

 ここは進学校であり、比較的偏差値の高い者達(飛田などは除く)が集まる場所だ。

 しかし、そんな秀才達の中においても、こんな小難しい本を通学鞄に入れて持ち歩くヤツは俺くらいだろう・・・。

 

(「・・・これでまた普通から遠ざかっちゃうな」)


 という気持ちが一瞬頭をよぎるも、もう後戻りできないところまで来てしまっているのだ。 ならもう考えるだけ無駄と気持ちを割り切った方が、メンタル的にもいくらかマシである。 俺は栞を目当てにページを開き思考の海へと・・・




「ねえ・・・」




 舵を切ろうとしていた途端、自身に向かって話しかける声が1つ。

 

(「嘘だろ」)


 ・・・と思ってしまうのも無理も無いだろう。

 何せ、もう2度とその声を間近で聞くことなど無いと決めつけていたのだから・・・。

 先日、あちらからの友交の申し入れは、自身が拳1つで破談にしたのだ。

 あの時の彼女の瞳は間違いなく潤んでいた。

 その原因である俺に、もう1度アクセスしてくるなんて一体誰が予想できるだろう!?




 ちらと横目で視認する。

 間違いない・・・宇佐美だった。




 気がつけば、クラス内をあの時のような静寂が支配している。

 

「う、宇佐美ちゃん・・・?」


 飛田の反応までも先日と変わらず、まるでデジャブの様なこの空間で、誰もが俺たちの一挙手一投足、そして会話を見逃すまいと、また聞き逃すまいとしている。

 そんな中、またしても望まぬ当事者となってしまった俺の心中はといえば・・・


(「もう、この学校止めようかな・・・」)


 と、割と真剣に転校の検討に入っていた。

 とはいえ、取りあえず今は、喫緊の課題・・・即ち、この状況を打開に力を注ぐことにする。

「な、何?宇佐美さん」


 俺の視線が宇佐美の方を向くことはない。

 以前と変わらずニキビの目立つ吉村の顔を凝視しながら俺は言葉を返す。

 彼女が何故、再び俺に接近してきたのかは分からない。

 しかし、自身のこの態度を見れば、こちらに宇佐美との友好を育む気が一切無いことは理解できる筈・・・。

 俺としては、ここで宇佐美が「・・・ううん、何でも無いの。ゴメン」とでも言って、この場を離れくれれば御の字である。

 しかし、俺のぶしつけな態度を見た上でなお、彼女は会話を止めようとはしなかった。

 次に彼女の口から出てきたのは・・・


「その本・・・面白いの?」

 

 という、まるで友人同士でするような、たわいない話題である。

 

「ああ、面白いよ」


 と、こちらも淡泊に返答。

 

「へえ、どんなところが?」


 ・・・余談だが、ノンフィクションの書籍の面白さを、それに関する基礎知識を全く持ってない人間に理解できるように伝えるというのは、とてつもなく難しいことだ。

 ましてや、衆目の集まるこの状況下で、演説ぶった講釈を垂れる気は無い。

 とはいえ、あまり否定的な感情を表に出すような仕草は、落ちるとこまで落ちた自身の立場を、更に下げこそすれ上げることは無いだろう。

 ・・・なので、苦肉の策ではあったが、




「じゃあ、これ貸してあげるから、読んでみて」




 と、今、手元にあったそれを、そのまま宇佐美に手渡したのだった。

 ・・・もっとも、手渡す瞬間でさえ俺は彼女を見ておらず、彼女の胸元付近まで件の書籍を持ち上げたことを手渡したというのかは疑問の残るところではあるが・・・。


「・・・・・・・・・」


 宇佐美・・・無言。


(「あれ、もしかして対応を誤ったか?」)


 


 Q.書籍の内容を通して、交流を深めたいと望む相手に、「そんなに知りたきゃその本読めよ!」という返答は正しい?




「「「ふ、ふざけんなぁ!!!」」」




 A.どうやら大間違いだったようだ!

 



 クラス内からの怒気すら籠もった声が、一斉に今の態度を非難する!

 ・・・今後、文化祭やら運動会やら、クラスで一致団結する必要性に迫られる機会は多々有るだろう。

 しかし、おそらくここまでの協調性をみせることはないのではなかろうか?

 そう思えるほどに息ピッタリ・・・まるで事前に打ち合わせしていたかのように寸分の狂いもなく判定は下された。

 

(「ああ・・・やってしまった・・・」)

 

 ・・・幼少時に起きた数々の惨事以降、同級生は勿論、周囲との交友関係に大した価値を見いだせなくなってしまった俺。

 日常的に行う必要最低限のコミュニケーションならいざ知らず、こんな状況でボロを出してしまうとは・・・。

 未だ続く喧々囂々の批難は、いったいいつ収まるのかと思っていたとき、俺は違和感に築く。




 自身の右手に持っていた、あの書籍の感触がない。




 ・・・いつのまにか宇佐美の手に渡っていた俺の本。

 私物であるそれを、彼女は後生大事そうに胸に抱えるようにして持っている。

 そして・・・


「ありがと・・・」


 とそれだけ言うと、自らの席に戻っていった。

 

(「これはつまり、対応は間違ってなかったのでは?」)


 俺はそう思うものの、視線が俺に集中している中、書籍を持って立ち去る宇佐美を気にする者はいない。

 ・・・よって、俺に対する野次が沈下することも無く、担任大原がいつも通りポニーテールをフリフリやってくるまで批難は続くことになったのであった。



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