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『金色』嫌いな俺の青春  作者: えみお


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21/45

2-9

「飛田は厳重注意だそうだ」


 職員室に設置されている小型のブースにて、ポニーテールの担任上原から、件の不良生徒に対する余りにも甘い制裁とその経緯を聞かされたとき、俺は初めて『権力』というものを身近に感じた。


「厳重注意って・・・それ殆どお咎め無しってコトですよね」


「そうだな」


 暗に自らをはじめとした教師に対し、クレームを付けているわけだが、当の本人はというと、それをあっさり認める。

 そこに、悪びれる素振りは皆無だった。


「一応お聞きしたいんですけど、先生は一連の経緯をしっかり知っておられるんですか?」


 この質問は飛田からだけでなく、他の目撃者からの証言もきちんと聞いたのかと言う意味だ。

 飛田は勿論、被害者である俺の発言も、主観が混じり客観性には大いに欠ける・・・殴られた身からすれば腹立たしいことこの上ないが、それでもこの理屈は理解できる。

 だから、第三者から客観的な意見を聞き、ヤツが無防備な(実際は反撃する気満々だったが・・・)クラスメイトを殴った事実を、学校側は認知していて、にも係わらず、今回の件を不問にする気なのかを知りたいのだ。


「ああ。岩井の席でふんぞり返っていた飛田に、お前が声をかけた。そして言葉を交わしていたところ、飛田がいきなり殴りかかり、お前は吹っ飛ばされた・・・まあこんなところだろう」


 大分端折られた説明だが、大筋はあっている。

 つまり・・・そういうことなのだ。


「人が殴られて注意で終わるなら、警察はいらないでしょ」


 苛立ちが自身から敬語を省かせる。


「事実終わったんだよ。飛田にそれ以外の処分は無い」


「俺も注意は受けました・・・つまり、この学校では不当に殴りかかると、殴られた方も悪くなるんですか?」


 なるほど・・・それなら、明日からこの学校は俺の天下だ。

 今日の不運も水に流せる。


「アホか」


 パンッ

 

 暴力を肯定するのか尋ねたら、「否!」と言われながら、筒状の教科書で頭を叩かれた俺・・・。

 いつからこの世は世紀末になったのだろうか・・・。


「殴ったら悪いに決まってるだろうが」


「今殴ったじゃないですか!?」


 次はカウンターかますぞ!?


「いいんだよ、私は教師だ。それに・・・」


「それに・・・?」


 上原は、ちらっちらっと左右を確認するジェスチャーをし、そして・・・


「誰にも見られていない。だからセーフだ」


 ・・・平和への道のりはまだまだ遠いな。

 と俺は思う一方で、担任上原の軽快なトークに親近感を抱きつつあることに気付く。

 やはり、この手の輩のコミュ力は異常だ。


「で、先生、実際何でなんですか。被害者がいて、目撃者もいる。こんな状態放置するなんて百害あって一利なしでしょ?」


「有り体に言えば・・・権力だな」


『権力』という言葉と真っ正面から向き合う必要に迫られる高校1年生が、この世に一体どれだけいるのだろう・・・?

 上原の言葉を聞いて、俺は何となく考えた。


「権力・・・ですか」


「ああ、権力だ」


「・・・俺、入学した高校間違えましたかね?ここ、県立高でしょ?唯の一般的な進学校ですよね?」


 自身に沸いた当然の疑問を、出来るだけそのままの形で担任にぶつける。


「そうだな」


 よかった・・・これで俺がボケた可能性は消えた。


「なら、なんで・・・」


「私立じゃないから権力と無縁なんて発想がそもそも甘いんだよ。県立や公立だからこそのしがらみもあるってことだ」


 甘いと言われても・・・俺はただの高校生なのだが・・・。


「そもそも、飛田の親?は何で権力持ってるんですか?」


「・・・だからお子様だって言うんだよ」


 上原はそれだけ言うと、ポケットからスマホを取り出し何やら検索・・・。

 そして、動画サイトに投稿されていた映像を見せてくれた。

 タイトルは・・・『衆議院議員、飛田誠のご挨拶』


「・・・ハッ」


 音量を絞り、再生ボタンを押す。

 飛田を一回握りつぶしてから手で伸ばし、茶髪を黒髪に変えれば8割方出来上がりそうな顔をしたオッサンが、折り目正しく高級感溢れるスーツに身を包み、感謝の言葉をひたすら並べ立てる。

 ・・・上原の言いたいことは十二分以上に分かったので、俺は動画を停止して、彼女に返した。

 今、俺が求めているのは謝罪であってお礼ではない。


「・・・わかりました」


「ん?何が分かったんだ?」


「大人は碌でもないってことが」


「・・・それだけ分かれば十分だ」


 ・・・俺は段々この先生を好きになり始めていた。


「で、飛田からは謝罪も無しですか?」


「いや、あくまで喧嘩だったということにし、それ以上学校側は関与しないし警察沙汰にもするつもりはないだけだ。謝りには来るそうだぞ」


「・・・パパに言われたからですか?」


「おそらくな」


 要は、謝罪を受け入れさせることで、この件をさっさと手打ちにして、後顧の憂いを経とうということなのだろう。

 後々、「あの件は終わっている」という大義名分を作ってこいということなのだ。

 仮に、俺が殴られた瞬間を動画に収めている人間がいようとも、当事者間で解決がされ、そこに教師も立ち会っていたという事実さえあれば、後はどうにでもなる・・・そういうことなのだろう。


「・・・腐っても議員ですね」


「そういうことだ」


「否定してくださいよ・・・」







 ・・・その後、職員室に現れた飛田は、俺の方に向くと、「いや、これは頭を下げてるんじゃなくて顎を引いてるだけでは?」と思えるような動作と共に、隣ブースで話している女子生徒の声にかき消されてしまう程のボリュームで謝罪した・・・らしい(事実聞こえなかった)。

 



 俺はその謝罪を受け入れた。

 



 そして・・・この件は、いつか自分で片を付けると決めた。

 

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