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『金色』嫌いな俺の青春  作者: えみお


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2-8

「・・・逃げられた」


 私・・・宇佐美茜は八方美人だ。

 SNSで認知度を得、今や芸能界に片足突っ込んだ生活をしている私にとって、『人気』や『知名度』・・・そして何より『スキャンダルを起こさない』ことは、自身とそして母親にとって生命線と言っても過言ではない。

 高校入学後・・・『飛田と愉快な仲間達(茜が心中で命名)』にやたらと構われ、それ故に他のクラスメイトとは疎遠となってしまっている・・・しかし、それは決して私が嫌われているわけではないと思っていたし、事実、『馬鹿共(命名その2)』がいない時に、こちらから話しかけると、鼻の下を伸ばして露骨に喜ぶ男子生徒は勿論、女子生徒も大抵は愛想良く振る舞ってくれる。

 



 だから、こうハッキリと避けられる・・・という事態に直面したのは初めてだった。




「・・・あの時の動き、あの人にそっくりだった」


 そう呟きつつ、記憶からたぐり寄せた思い出。

 それは幼き頃・・・母と2人、実の父に半ば襲われていたところを助けられた時のこと。

 私の手を引く母を背中に庇い、目の前で暴力を当てにお金をせびろうと企む実の父に相対する1人の男性。

 



 出来るビジネスマンといった様相に温和な顔立ちのその男は、同じマンションに住むご近所さんだった。

 



 まるで暴力とは縁の無い人生を送ってきた・・・そんな風に思えたその男性は、まるでフィクションに描かれる王子様の様に颯爽と私達を庇い、父の前に立つ。

 

「あぶないです!・・・さん!」


 母の叫ぶ声が響き渡るも、今や名前さえ忘れたその男性が、父に背を向けることはない。

 

「なんだぁ!?引っ込んでろっ!お前に関係ねえだろう!」


 アルコールも入っていると思われる父の言葉と、右手に持つ金属バットに、他者に対する敬意など微塵も感じられず、あるのは唯、暴力も辞さないという原始的な思考のみ。

 それに対し男性は早々に説得を諦めると、持っていた鞄を脇に置いた。

 その手に武器はない・・・。

 無謀だと子供ながらに思った。


「助けて!」


 今まさに庇われている状況において、その言葉は暗に「こんな人じゃ頼りない!」と言っているに等しい。

 いかにも失礼千万な発言。

 しかし・・・


「大丈夫だよ・・・大丈夫」


 細い背中から聞こえてきた低い声は、本当に父と同じ男なのかと疑いたくなるほどに、落ち着きと・・・そして優しさがあった。


「何が大丈夫だ!?ふざけんなぁ!!!」


 男性の発言を挑発と取った父。

 ついに彼のバットが高く持ち上げられ、そして距離を詰めてくる。

 男性は1歩前に進み出た。


「「危ない!」」


 母とユニゾンした私の声。

 振り下ろされる凶器・・・。

 



 そして・・・

 






「重なった。あの男性の姿に・・・」


 渡会君の行動に特に気を配っていたわけではない。

 見ていた角度も、あの時とは違う。

 だが・・・まるで過去の記憶が目の前で具現化している・・・と思えるような体験をしたのは、後にも先にもこれが初めてで・・・。


「だからこそ、彼と話してみたかったんだけどな・・・」


 久方ぶりに自身の素を晒すような、テンションの低い声で話しかけた結果・・・彼に露骨に嘘を吐かれた挙げ句、逃げられてしまった。

 

「・・・おかしな人」


 そう独り言を呟く私の口には、きっとうっすらと笑みが浮かんでいることだろう。

 あからさまに縁を拒絶されたのに、嬉しいと思えるのは何故だろうか?

 その答えを考えるより先に、私にはやらなければいけないことがある。


「科学室・・・行かなくちゃ!」


 この髪色はともかく・・・それ以外が特別扱いされる道理は無い。

 そして科学の教師である年嵩のおばさん先生は、私のことを露骨に嫌っている節がある。

 勿論、直接態度に出されたことはない・・・そんなことがあれば教師として問題だ。

 しかし、人の目に常に気を配る必要に迫られる生活をしていれば、他者からの悪意には敏感になるもの。

 1回目の科学の授業で、私に向けたあの視線。

 細められた目付き・・・それだけで、彼女が私をどう思っているかよく分かった。

 学校公認のこの金髪・・・とはいえ、それは個々の教師が許しているわけではない。

 だからこそ、悪感情を持たれていると分かっている教師に、隙を見せてはいけないのだ。


 キーンコーンカーンキーン


 チャイムが鳴る。

 私は走る。

 あ、筆箱を忘れた。

 取りに戻る。

 今度は駆ける。

 私は若い。

 クラスメイトに逃げられはした・・・。

 けど、腰の曲がった年増との一騎打ちに負ける気はしなかった。

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