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『金色』嫌いな俺の青春  作者: えみお


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18/42

2-6

 忘れることは一生無いであろう、あの授業参観の日。

 その時に傷つけられた心を、これ以上ボロボロにされるわけにはいかない・・・という思いが、それ以降の、自らが『強さ』を求める理由の1つに加えられたのは言うまでもない。

 災いというものは、誰に求められずとも、知らぬ間にすり寄っているもの・・・。

 だからこそ、俺はその不幸と再び直面したときに、立ち向かえる為の『強さ』が欲しかったのだ。 

 



 その行き着く先に、まさかこのような出来事が待っていようとは・・・。




 ガシャーン!!!




 複数の座席をなぎ倒し、床に背を着けることになった俺・・・。

 偶然にも人を巻き込むことは無く、俺以外の怪我人は皆無だった。

 しかし・・・高みの見物を決め込んでいた他のクラスメイトも、この事態を看過することはしなかった。


「お、おい、大丈夫か!?」


「私・・・先生呼んでくる!」


 常識というラインを悠々と踏み越えた飛田の行動は、極々普通の高校生の脳内アラートを鳴らすには十分すぎたようだ。

 少数の者は俺を助け起こしたり、教師を呼びに行ったりと具体的な行動を起こし、それ以外の多数は、固唾を呑んでコトの成り行きを見守っている。

 もうそろそろ、授業開始のチャイムが鳴る頃だが、時計の針に目を向ける者はただの1人もいなかった。

 

「と・・・飛田、やり過ぎだって!」


「いくら何でも、殴ることはないだろ!」


 なぎ倒された机や椅子・・・周りの人間の自分達を見る目・・・そして、俺の口から滴る血液。

 それらが、悪ぶっていた取り巻き2人の目を覚ましたのだろうか・・・。

 まるで責任を押しつけるように飛田に物申す。

 しかし、肝心の加害者当人はと言えば・・・


「ふん、問題ねえよ、このくらいっ!」


 と、何処吹く風と言わんばかりだ。

 普通なら、リングの上でもなければ畳の上でもなく、当然審判もいないおおやけの場で、人間1人を殴り飛ばしたのだから、罰なり何なりを恐れて然るべきだと思うのだが・・・。

 

(「まるで、何かツテがあるみたいな・・・まさかな」)


 と、それこそフィクションによくあるご都合主義を一瞬予想するも、いささか非現実的すぎると考えを消去した。

 俺は頭を軽く振って視界等、感覚器官に問題が無いことを確かめると立ち上がる。

 そして、自身の周りでひっくり返っている座席を把握すると、近いものから順に起こし始めた。

「イジメは加害者も悪いが、見ているヤツも同罪だ!」という意見をたまに耳にする。

 仮にその理屈が正しいとして、岩井君が困っている時・・・そして今正に俺が殴られたにも係わらず傍観を決め込む者達に罪があったとしても、この事件を知らず、一足先に科学室に行っているヤツらは完全に無罪だ。


(「そんなヤツらの机がひっくり返っている現状を知って、それを被害者面して無視したら、流石に気分が悪い・・・」)


「そ、そんなこと、俺がやっとくから!」


 と、止めに入って、俺に休んでいるように促しつつ、自らすすんで座席を直し始めた彼は・・・


「ありがとう、遠藤君」


 自己紹介の際、宇佐美に名指しされ、天にも昇る表情を浮かべていた、あの遠藤君であった。

 その行為には感謝しつつも、やはりそれを眺めて身体を労る・・・というのは性に合わない。 結局、2人で散らかった座席を1つ1つ起こしていった。


「おい・・・!まだ終わってねえぞ!」


 そんな中、全力のパンチを同級生の顔面にクリーンヒットさせておきながら、飛田の怒りは未だ収まらないらしい・・・。


「そんなに殴られたいなら、もう一回そこに立てよ。今度は反対側に食らわせてやる」


 腕を振り回し、やる気十分な態度を見せる飛田に、将来に対する危惧など微塵も感じない。 ・・・もしかして、本当に自身の不利な立場をひっくり返すウルトラCがあるのか?。


(「なら・・・次は止めないぞ」)


 不用意に首を突っ込んだのは俺自身だが、手を上げたのはアチラが先。

 なら、正当防衛の大義名分は立つだろう。

 自らの実力を大衆に披露する気は全くないが、降りかかる火の粉は払わねばならない。

 次は・・・振り抜く!

 俺はまた、身体を半身に構え・・・


「こらっ!お前ら、何やってるっ!」


 ようとしたところで、タイムアップ・・・。

 我らがクラスの担任・・・上原が、いつもの脳天気な表情と打って変わった深刻な顔で入室してくる。

 座席はあらかた元通りになっていたし、そこだけ見ればもしかしたら誤魔化せたかも知れない。

 しかし、俺の左頬が赤・・・を通り越して青っぽく腫れてきている点を見逃すほど、彼女の目は節穴ではなかった。


「渡会・・・お前は保健室に行け、手当てして貰った後はそこに待機。飛田・・・お前は私と一緒に来い!」


「な・・・何でだよ!」


 扱いの違いに納得のいかない飛田・・・。

 そこでもまた腹を立てつつも、流石に担任教師を殴るまではいかない。


「事情聴取だ!ほら、早く来いっ!」


 飛田の腕を捕まえた上原は、背中まで下がるポニーテールを乱雑に振り回しながら、飛田と共に教室を後にする。

 退出する直後に・・・


「お前ら・・・よく考えたら移動教室じゃねえかっ!早く行けっ!」


 と真っ当な注意が飛ぶあたり、腐っても教師であった。

 先程までの殺伐とした空気も、乱入した大人の鶴の一声で霧消してしまったようで、未だここに残っていた生徒も、ようやく時計の存在を思い出したかのように、駆け足で教室を後にしていく。


「ふう・・・ありがとう、遠藤君」


「いいってことよ、気にすんな」


 俺の礼に対し、さっぱりとした返答を返す遠藤は、お調子者だが根は良いヤツなのだろう。 自らの席に向かいサッと教科書などを取り出すと・・・


「じゃ、俺行くわ。お大事に!」


 とだけ言って去って行った。


「さてと、俺は・・・保健室か」


 おそらく俺は被害者という扱いになっているのだろうが、一連の出来事の当事者である以上、ここでトンズラすることは許されないだろう・・・。


「正直・・・こんなこと慣れっこなんだが、背に腹は代えられないか」


 1人になった教室で、俺はそれだけ呟くと、その他大勢とは違う目的地に向かって歩きだそうと教室後方のドアへ向かう・・・




「・・・ねぇ」




 ・・・油断した。

 完全に気を抜いていたといってもいい。

 俺にとっては、茶髪の飛田なんかとは比べものにならないほど、常日頃から警戒していた人間に対するマークが疎かになっていた。

 



 直視することを意図的に避けてきた『あの色』が・・・。

『金色』の髪の持ち主・・・宇佐美が唐突に話しかけてきたのであった。


 

  

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