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『金色』嫌いな俺の青春  作者: えみお


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17/43

2-5

 自己紹介から2週間・・・。

 それだけの時間があれば、クラス内の人間関係が固まり、それと同時にカースト制度さながらの階級が出来上がるには十分である。

 影の薄い男子生徒という、最下層のランクに位置づけられた俺は、そんな評価糞食らえと言わんばかりに、日々の休み時間を読書に費やす日々を送っていた。

 髪を染髪した人間が平気で跋扈していたり、担任がやたら大雑把だったり・・・そんな現実に直面したときは、正直、この先の学校生活を不安を感じずにはいられなかった・・・。

 しかし、流石進学校を謳うだけのことはあり、自習も可能な図書室には大きなスペースがしっかりと確保されており、そこに行けば「これぞ学生のあるべき姿!」と言わんばかりに真面目に勉学に取り組んだり、本と戯れる者達が常に一定数存在する。

 俺は毎度その光景を見る度に・・・


(「よかった・・・まともな人間もちゃんといるんだ」)


 と安堵するのだった。

 ・・・俺は「別に遊ぶべきではない!」とか思っているわけではない。

 休み時間に何をしようが、それは個々の自由だということは百も承知だ。

 だが、今の自らのクラスには、そんな自由の中でも、最低限守るべき暗黙の了解すら失われている気がしてならない・・・。


「まさか、あんなふうになるとはな・・・」


 私語厳禁な場故に、小さな声で呟く俺。

 1年1組の現状は、半分は俺の想定通りになったものの、そうならなかった部分も多い。

 そして、その元凶は間違いなく、髪を染めた2人の『クラスの顔』の存在だった・・・。







 5時限目は科学の実験のため、教室を移動する必要がある。

 その為、教科書等必要な物を回収すべく、早めに教室に戻った俺は、わざわざ教室『前方』の扉を引く。 

 するとそこには、今や日常と化しつつある、我がクラスの『惨状』があった。

 宇佐美と同じ教室になったときからずっと、俺は視界に出来るかぎり彼女を入れないよう立ち回ってきた。

 自身の席がクラス最後方であるにも係わらず、前の扉から入室したのもその為だ。

 当然、最初はこんな回りくどい行いをしてまで、人気者の宇佐美から距離を置きたがる人間は俺しかいなかった。

 



 しかし・・・今や俺の様にあえて宇佐美から距離を取ろうとする人間は多い。

 そして、その原因となる者の声が、この休み時間も一際大きく響いていた。




「でさー宇佐美ちゃん、今日コイツらと一緒にカラオケ行くんだよ!一緒に来ねぇ?」




 他クラスの、これまた柄の悪そうな同級生を、半ば従えるように左右に配置しつつ、宇佐美の正面に陣取る男は・・・勿論、飛田に他ならない。

 宇佐美の前は当然コイツの席ではなく、比較的小柄な男子生徒・・・岩井君の場所である。

 しかし、飛田はというと、休み時間が始まるやいなや、特別な用事がない限り、ひっきりなしに宇佐美の席を訪れる。

 そして勿論許可無く岩井君の席を占拠すると、その無駄に大きな声を張り上げて、先日・・・時には先の休み時間にしていた話題を、さも新ネタと言わんばかりに、のべつ幕なし喋り続けるのだ。


(「そんなことを毎日至近距離でされたら、頭がおかしくなっちまうよ・・・」)


 ・・・結局、岩井君は飛田の来襲3日目にしてダウンすることとなる。

 4日目の木曜日には風邪を理由に欠席し、金曜からは、休み時間が始まると同時に席を立つようになっていた。

 時々、図書室で読書する姿を見かけることもあるから、実は「『心の同士』なのでは?」と思わなくもない。

 ・・・そんな苦肉の策でどうにか『飛田ループ(俺命名)』から抜け出し、心の平穏を手に入れた岩井君だが、それで、彼に平穏な日常が訪れることは無かった。


「・・・・・・・・・あのっ」


 絵に描いたような優等生の岩井君の声が、飛田の耳に届くことはない。

 岩井君の声が控えめなこともあろうが、それを抜きにしても飛田の叫声が大きすぎるのだ。 飛田本人は勿論、周囲の人間の将来の難聴が心配される程の大声にかき消され、岩井君は、自身の席を占領している飛田に、1言伝えることさえ出来ない。

 ・・・仮に呼びかけの声が聞こえたとしても、小柄な彼の口から・・・


「移動教室の準備をしたいから、そこをどいてくれ!」


 なんて強気な台詞が出てくるとは到底思えないが・・・。




(「イライラッ・・・」)




 その現状を把握し、何故か腹を立てた俺の行動は、後の自分にも理解できなかった。

 岩井君のことを勝手に『心の同士』だと思っているが故に、自らを彼に重ね合わせて同情していたというのはあるかもしれない・・・。



 

 だが、まさか自分が席を立ってまで、そちらに向かうことになろうとは!




「おいっ」


 かつて、コイツにやられた蛮行を思い出し、拳を振り上げそうになるのを堪えて、俺は飛田に話しかける。 

 どんな因縁があるにせよ、今、手を上げれば、悪いのは100%俺だ。

「自らにどんな罰が下ろうが望むところだ!」と言いたいところだが、未成年の起こした問題で責任を負うのは保護者・・・つまり祖父母だ。

 これ以上、あの2人に迷惑をかける訳にはいかない。

 あくまで冷静に・・・冷静に・・・と心を静めつつ、俺は飛田に声をかける。

 しかし、完全に沈静化させることは出来なかったようで、少しばかり語尾に怒気がこもってしまう。

 ・・・そして、岩井の声には一切の反応を返さなかった飛田も、何故か、そこに関しては敏感だった。


「ああっ!?」


 これが、曲がりなりも自己紹介で「1年間宜しく」と言っていた人間が、クラスメイトに対しかける言葉だろうか?


(「コイツ・・・何か裏で何か違法行為でもやってるのか?」)

 

 と不安になる・・・が、それはともかく、俺は早急に用件を済ませることにする。

 こんなヤツとは1秒たりとも話したくないのだから・・・。

 


 

 前方から突き刺さる飛田と取り巻きの視線・・・。

 後方からもちらほら飛んでくる、他のクラスメイトの視線・・・。

 そして、斜め前方から向けられているであろう、宇佐美からの視線・・・。




 これがリングの上ならな・・・と物騒なことを思いつつ、俺は話し始める。


「岩井君が科学の用意が出来なくて困ってる。どいてやってくれないか?」


「席を譲って」とか言えば良いものを「どいて」と乱暴な言い方になってしまう当たり、ここに来て未だに冷静とは程遠い俺である。


「っ!そんなもん岩井が言えば良いだろうがっ!?」


「言ってたよ。でも飛田君が無視するし、岩井君も困ってるように見えるしで、見捨てられなかったんだ」


「ああっ?無視してねえよっ!?」


 宇佐美と話しやすいよう、後ろに向けていた岩井君の座席から勢いよく立ち上がる飛田。

 ここで座席の間隔が決して広くなかったのが災いする。

 飛田の膝裏で叩かれた椅子は岩井君の机をも跳ね上げる。

 そして、ひっくり返り倒れる・・・大きな音と共に・・・。


 ガシャーン!!!


 この瞬間、俺は自身の失敗を悟った。

 この手の輩にとって、今のはゴングが鳴ったのと同じこと。

 もう、飛田達は、意地でも後には引かないだろう・・・。


(「せめて、最低限の目的だけは・・・」)


 そう思い・・・


「岩井君・・・ゴメンな」


 と言ってサッと机を直してやると・・・


「用件済ませな」


 とだけ伝える。

 岩井君は小さく頷き、そそくさと目的のブツを取り出す。

 そして、去り際に・・・


「ありがとう」


 それだけ言って教室を後にした。

 支払ったコスト・・・そしてこれから支払うことになるコストに比べ、余りにもささやかなお礼。

 こんなものの為に動いたのかもしれないと思うと、自らのことが本当に馬鹿馬鹿しく思える。

 しかし、それに反して自身の気分は、そんなに悪いものではなかった。


「おいっ!いつまで黄昏れてんだっ!?」


 前門の虎・・・こと飛田達一行はいよいよ臨戦態勢。

 一際肩を怒らせて、露骨な挑発をかましてくる。

 しかし大抵の人間からすれば、恐怖を感じる光景も、俺からすれば弱点丸出しの人間が、無防備な姿で射程圏内に入ってくるようにしか見えない。

 

「・・・ハッ」


 またも滲み出る俺の若さ。

 それもまた失敗だった。


「なっ!?テメエッ!!!」


 これに、飛田の堪忍袋が切れた。

 振り上げられる拳。

 回避は余裕。

 顔面を狙っての大ぶりのテレフォンパンチだ。

 なんならカウンターにアッパーまで食らわすことも出来る。

 事実・・・身体は自身が思考する遙か以前に、その準備を進めていた。




「・・・ッ!?」




 誰かの息をのむ声・・・。

 流石にその正体を確認するほどの余裕は無い。

 目線は飛田の拳を視界の端に捉えつつ、隙だらけの顎にターゲットされていた。

 後は、日頃の練習で培われた習慣という名のプログラムに身を任せるだけ。

 それだけで・・・飛田は・・・


 


(「祖父ちゃん・・・祖母ちゃん・・・」)




 バゴッ!!!

 



 ノーガードで右フックを食らったのは久方ぶりだった。




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