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『金色』嫌いな俺の青春  作者: えみお


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2-3

「じゃ、サクッと自己紹介よろしく!」


 俺たちを1年間世話することになった女教師・・・上原みやびは、自身の名前と年齢(25)、そして国語の教師であることを手短に述べると、次はお前らの番だと言わんばかりに、こちらにバトンを渡し、自身は安っぽいパイプ椅子に腰を下ろした。

 長い髪をポニーテールにし、パンツスーツを着こなす新担任は、竹を割ったような性格も相まって、学生時代はさぞモテたに違いない。

 



 ・・・だが、この手の人種は得てして、自身の作り出した空気を、周りが読んで当たり前という認識でいることが多い。

 



 勿論、現実はそう甘くないし、ましてやその理解を新1年生に求めるのは無理がある・・・。

 おそらく上原先生は特定のクラスを受け持つということが初めてなのではないだろうか・・・?

「自己紹介しろ!」と言えば、それだけで出席番号順に生徒達が喋り出すとでも思っているのかもしれないが、そもそも大半のクラスメイトは、この高校という場にすらまだ適応できていないのが実情だ。

 ・・・先程の宇佐美を中心に出来上がっていた人の輪は特殊な事例であって、それはひとえに、彼女という希有な存在によるものに他ならない・・・。

 



 10秒にも満たない僅かな時間ではあるが、クラス内に流れる沈黙・・・。

 



 着席後、腕を組む担任上原の目線の先には、1人の少女姿がある。

 小柄で眼鏡でおかっぱで・・・何となく垢抜けないクラスメイト・・・不運にも名字が『あ』から始まるのであろうその子は、どこかおどおどしながら一向に話し始める気配がない。

 俺にはその子の心情が分からなくもなかった。

 きっと見た目通り、大人しく人見知りの強い性格なのだろう・・・。

 そんな子が、ハッキリと指定されたわけでもないのに、自ら先陣切って自己紹介しようなんて思うはずがなかった。

 



「はいっ!私から良いですか?」




 だから、彼女・・・宇佐美茜が自らに割り当てられた出席番号を無視し、挙手して立ち上がったのは、件のおかっぱの女の子にとっては、渡りに船だったに違いない!


「おっ!お前か、宇佐美ってのは!職員室でも話題になってたぞ!」


「ありがとうございます!早速自己紹介させて頂いてもよろしいでしょうか?」


「おう、まあ順番は好きにすればいいよ」


「分かりました」


 宇佐美は上原との会話を終えると、その場で自己紹介を開始する。


「皆さん初めまして、宇佐美茜と言います。趣味や特技といったものが特にあるわけではないんですけど、お仕事として芸能活動を少し行っています。その為、もしかすると御迷惑を掛けることがあったり、欠席や早退することがあるかもしれません。そんな私ですが皆さんに仲良くしてもらえたらなと思っています。1年間宜しくお願いします!」


 先程、多数の人の中心で話していたときとは打って変わっての丁寧な言葉遣いは、TPOを弁えているということなのだろう。

 なるほど・・・流石は芸能人ということか。

 

「おーっ!よろしくっ、宇佐美ちゃん!」


 空気の読めない茶髪の飛田は声を張り上げ歓待を示し、その他のクラスメイトも大小あれど拍手で応えた。

 俺も流石にこの場で1人浮いた行動を取るわけにはいかないので、密やかな拍手を数度送っておく。

 

「じゃあ、次からは出席番号順で良いかな?えーと次は・・・遠藤君だよね!?」


「えっ!」


 名字を呼ばれ、驚きながら振り向いた廊下から2列目、最前席の遠藤某。

 おそらく、先程彼女を中心にして集まっていた際に名乗っていたんだろうが、まさかその1回で覚えてもらっているとは、彼も思ってもいなかった筈だ。

 きっと今、遠藤は内心・・・


(「俺の名前、もう覚えてくれたの!?嬉しい!」)


 と狂喜乱舞しているに違いない。

「高校では野球一筋!」・・・と言わんばかりのいがぐり頭が、真っ赤っかになっているのを見れば、自らの想像が的はずれでないことは一目瞭然だった。

 



 俺はこの一連の流れの中で、細やかに施された宇佐美茜の気遣いを見る。




 ・・・まず、最初におかっぱ頭の女の子が困っているのを雰囲気で感じ取った宇佐美は、自らが先陣を切ることで解消。

 また、名前、趣味、特技、挨拶という自己紹介のテンプレートを作り、尚且つ、自らの趣味や特技を語らないことで、言わなくてもOK!という大義名分を取り付けた。

「あの宇佐美が言わなかったのだから、私も言わなくても・・・」という建前は、特に言うことの思いつかない者にとって、まさに天恵にも等しい筈だ。

 そして今後、自己紹介は出席番号順であるということを宣言し、遠藤にバトンを繋げた先程の行為・・・。

 あくまで推測だが、もし宇佐美の後ろが彼のようなファンではない可能性があった場合、彼女はこんな指名の仕方はしなかったのでは無いだろうか?

 きっと彼女は自身に対する遠藤の好意を利用したのだろう・・・。


(「これで、このクラスは宇佐美のクラスになっちゃったな・・・」)


 その事実は、俺をますます億劫な気持ちにした。

 芸能人で、ルックス良し。

 そして社交性のあるクラスの顔。

 そんな人間を1年間無視して生活することなど、不可能に等しい。


「はぁ」


 隣席の人間に聞こえないよう、こっそり溜息を吐く俺。

 



 しかし、俺の悲劇はまだ終わらなかった。

 



「どうもーっ!飛田心と言いまーす!よろしくっ!」




「えっ・・・」


 飛田・・・まさか・・・!

 そう思い、声の出所を見る。

 自らの空想に浸っている間に紹介は進んでいたようで、自己紹介は全体の3分の1を消化していた。

 そこで飛び出す『飛田』の名。

 自分の斜め前方で元気溌剌、声を上げるあの茶髪。

 



 改めて見た『飛田』・・・その後ろ姿に、俺の胸はキュッと締め付けられたのであった。

      



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