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『金色』嫌いな俺の青春  作者: えみお


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14/42

2-2

「悪夢だ・・・」


 自身の安寧が脆くも崩れ去ったことを知った俺は、自らの席で小さく呟いた。

 100歩・・・いや1000歩譲って、あの茶髪と同じクラスなのは、まだ我慢できる。

 所詮うるさいだけだと腹をくくればそれまでなのだから・・・。

 問題は・・・


「えーっ、私のこと知ってくれてるの!?ありがとー!」


 この良く通る声の持ち主・・・宇佐美茜の方だった。

 ・・・当たり前のことではあるが、教室内の座席というものは規則正しく配列されており、本来ならば、窓際最後方の席を手に入れた俺が前を向けば、そこに大半のクラスメイトが収まっていなければならない。

 しかし現在・・・本来ならそうなっているはずのクラスメイトの殆どは、唯一自らの死角になっている廊下側最後方の席に集まり、入学初日にして早くも同窓会のような盛り上がりを見せている。

 そして、その中心に座すのは勿論・・・彼女だった。


「ず、ずっとファンだったんだ!まさか同級生になれるなんて・・・あの、サインください!」


「ありがとー!これから1年間よろしくねー!」


「は、はいぃ!こちらこそ!」


 ・・・これと似たようなやりとりが、もう何度繰り返されたであろう?

 当然数えているわけもないが、彼女の周りにたむろするクラスメイトの半分ほどだろうか・・・。

 ということは、これがまだまだ続くわけで・・・


(「はやく来てくれよ・・・担任」)


 と、思わざるを得なかった。

 坊主憎けりゃ袈裟まで憎いという。

 現状、宇佐美と俺の間には何の接点も無い。

 そんな彼女からすれば、他のクラスメイトに応対しているだけで、『憎い』とまで思われたら、正直、たまったものじゃないだろう・・・。

 また、どうやら宇佐美はSNSだかTVだかで有名な人間らしく、彼女からすれば、同級生とのこうした語らいも、半分以上は仕事なのかもしれない。

 彼女を中心とした人混みが、もともと意を決した1人のクラスメイトの蛮行に、宇佐美が快く応じたことから発生したのを、俺は知っている。

 



 だから、彼女は本当に何も悪くない。

 だが・・・俺はそんな彼女の声すら聞きたくなかった。

 



 かつて俺を捨て、家族を崩壊させたアイツと同じ『金髪』の女だと意識する度に、俺の心は揺り動かされる。

 暇つぶし用の本を片手に、必死で気を反らせようとしつつ、俺は藁にも縋る気持ちで、この騒ぎの終焉を願った。

 すると・・・その藁は思わぬ所から投げ込まれた。




「うーさみちゃーん!」




 ゾクッ!!!

 

 ・・・男の猫なで声がここまで気持ち悪いとは!

 自らに本能的な身震いを起こさせた者の正体・・・それは、何故かこのクラスからいなくなっていた問題児・・・あの茶髪だった。

 ちなみに、アイツがこのクラスだというのを知っていたのは、別に張り出されていたクラスの割り振りを一々確認したわけではなく、当人が自ら大声で「やっほーっ!宇佐美茜と同クラだわ!ついてるぅー!」と喧伝していたからである。

 その為、現時点で俺は彼の名前すら知らない。

 

「「「・・・ッ!!!」」」


 今まで宇佐美を取り巻いていた人間も、きっと俺と同じように気味の悪さを感じた筈だ・・・。

 しかし、いざそちらに目を向けると、そこに立っているのはやたらと上背があり、髪を染めて肌を焼き、制服をだらしなく着崩した件の問題児だ。

 ソレを知るやいなや、宇佐美の周りをたむろしていたクラスメイト達は蜘蛛の子を散らすように散開を始め、結果的は俺の望み通り事態は収束したのであった。

 しかし・・・事態はより悪い方向へ転がりつつある。

 

「こんにちは・・・あなたはえっと・・・」




「あ、俺?クラスメイト。よろしく!でさ、宇佐美ちゃん・・・俺と付きあわね!?」




 ・・・俺を含め、自らの席に収まりつつも、ことの成り行きを聞いていた者達は唖然とし、そして、不安を感じた。

 



 こんなヤツと、一緒のクラスで1年間、やっていけるのか・・・?

 



 結局、担任の女教師が「おーい、お前ら席に着け、ホームルーム始めるぞ」と言いながら教壇に立つまで、茶髪の空気の読めないアプローチを宇佐美がうやむやにし続ける茶番は続き・・・


(「悪夢だ・・・」)


 俺は再びそう思ったのだった。

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