2-1
「新入生代表・・・宇佐美茜!」
「はい!」
高校入学初日・・・我ら新1年生の総代として壇上に上がった彼女・・・宇佐美の髪色を視認したと同時に、俺は反射的に顔を下に向けていた。
俺以外の者からすれば、神々しささえ感じそうなキューティクルの輝く金髪は・・・
「「「おおっ!!!」」」
と、多くの生徒・・・特に女に免疫の無さそうな男子共の間にどよめきを生じさせるには十分な破壊力を持っていた。
しかし・・・勿論その中に俺の声が含まれるはずも無い・・・。
「・・・オエッ」
周囲の人間が歓喜に包まれている中、俺はといえば、急速にこみ上げてきた吐き気に対処するのにただ必死だった・・・。
(「な、なんだ、アイツは?」)
日常で目にする『金色』にはある程度耐性の付いた俺であったが、そこに『女』という属性まで添付されれば、流石にキツいものがある。
しかも、こんな不意打ちのような形で視界に入れてしまうことになろうとは思わなかったが故に、俺の心はその衝撃をどうにか受け止めるので精一杯だった。
(「俺は入学する高校を間違えたのか?ここは県立安田高校だよな?」)
この学校で受験し、ここに合格発表まで見に来たことも記憶に新しい。
そして、この会場に俺の席が存在し、「あの・・・すいません。そこ私の座席なんですけど・・・」とか言われることもなかった。
つまり、ここは間違いなく県立安田高校であるということだ。
(「くそっ!なんであんなヤツがここにいるんだ!?」)
何故、俺がこんなに動揺しているのかといえば・・・それはここが『規律の厳しい進学校』という評判を得ていたからである。
俺はその評判を鵜呑みにすること無く、中学在籍時に高校見学もきちんと行い、在学生の質も確認し(失礼は百も承知)、授業のレベルや進学の際のサポート、そして家やジムとの距離の兼ね合いも考慮した上で、この学校への入学を決めたのだ。
距離云々はともかく、それ以外を重視した理由・・・それはひとえに、あんな容姿のヤツ・・・即ち金髪の人間に会いたくなかったからなのは言うまでも無い。
俺は、決して真正面を向かないように首を少し持ち上げると、恐る恐る周囲を見渡す。
(「もしや、リサーチが足りなかったか?」)
俺はふと心配になり、まさかアイツ以外にもそんなヤツがいないだろうなと、確認したくなったのだ。
すると・・・
「うわっ、まじで・・・!?あの宇佐美茜!?うっひょーっ!」
視線を向けるまでも無く、そんなヤカラの存在を察知できた。
入学式という厳粛な場で、こんなことを平気でのたまう様な人間は、概して碌なヤツじゃ無い。
視線をそっと斜め後方に向ける。
・・・何故、こういう場で空気も読まずはしゃぎたがるヤツは髪を染めているのだろう?
『金色』・・・ではなかったが、およそ地毛とは思えない茶色く染めた頭髪が右往左往しながら、まだ何か喋っている。
隣席の人間が迷惑そうにしているのが、この距離でもはっきり分かった。
しかし、茶髪の動きと発言はより大きく激しくなるばかり・・・。
(「これは流石に教師が黙ってないだろう・・・」)
俺はそう思っていたのだが、自身の予想に反し、結局、茶髪の狂喜乱舞は金髪女の話が終わり壇上を後にするまで続き、その間に教員がヤツの蛮行を止めることは一切無かったのだった。
(「これは・・・誤ったか?」)
高校に入学してまだ1時間弱。
自身の目算が外れたことを知った俺は、せめてコイツら2人が同じクラスでないことだけを祈り・・・
そして・・・案の定、その願いは届かなかったのであった。




