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以前・・・クラスメイトでお調子者の飛田を、腰の入ったビンタで殴打していたとき・・・俺は暴言を吐き、祖父母に慌てて止められるまで、その行為を止めることは無かった。
しかし、そんな状態でも最低限の理性は働いていたし、事実、他の人間に対して危害を加えることはなかった。
祖父母を馬鹿にされ、頭が真っ白になってしまったあの時でさえ、俺は最低限自らを制御出来ていたのだ。
しかし・・・今回は違った!
ガシャーン!!!
トロフィそのものは金属製なので、その程度で破損することは無い。
しかし、その周りをゴテゴテと飾っていた煌びやかな装飾が、欠けたり、外れたりすることは避けられなかった。
「「「・・・っ!?」」」
周りの人達も俺の余りに常軌を逸した行動を目の前にして、正常な対処をするのが少し遅れる。
そしてその一瞬の猶予は、俺が自身の手の中にある『金色』に憎しみを吐き出すには十分だった。
精一杯の力で叩き付けたにも係わらず、未だ形状を保っていたトロフィ。
その台座を持ち何度も何度も床に打ちおろし、それでようやく出来た凹み。
しかし、まだ破壊には至らず、満足できない俺は、遂に自らの拳をぶつけ始めた。
何度も・・・何度も・・・何度も・・・。
やがて、その幼い手から血が滲み、それがトロフィを赤く染め始める・・・。
その鮮血の赤が周りの人間から正気を取り戻すと、その後の彼等の行動は素早かった。
「おい!止めろ!」
勝さんが俺を羽交い締めにし、トロフィから引き剥がそうとする。
他の人達も俺とトロフィの間に割って入り、奇行の終結を試みる。
今ここにいるのは、すべからく格闘技経験豊富な男達。
彼等にかかれば、たった1人の小学生を止めることなど造作も無い。
その筈だった・・・。
しかし・・・
「アアアアアアああっ!!!」
「んなアッ!?」
その時の俺はそんな大の男達ですら、手こずる程の力を見せた。
本来なら到底あり得ない事態を前に、流石の力自慢達も躊躇を余儀なくされる。
無理が通れば道理は引っ込む。
後から話を聞いたところによると、そこに居合わせた者達の中には、「こうなっては自分達も拳を解禁しなければならない」・・・そう考えた先輩達もいたそうだ。
だが・・・その事態は突如、終わりを迎えることになる。
「・・・アアッ」
ドスッ・・・
「お、おい・・・おい!しっかりしろ!?」
散々暴れ回った俺は、今まで複数の人間を圧倒していたとはとても思えないような、小さな呻きを1つ残すと膝から崩れ落ちた・・・らしい。
まるでスイッチが切れたロボットの様な自分を、目前にいた勝さんが瞬時の判断で受け止めてくれたそうだ。
急に終わった大惨事。
栄光の杯は紅く染まり、呼吸を整える者達の少し粗い息づかいが随所で聞こえる。
「ど、どうしたってんだ?コイツは?」
自らの祝い事をメチャクチャにされた挙げ句、トロフィを見るも無惨な姿にされた張本人である梅津さん。
しかし、そんな彼ですら、怒りや悲しみという感情はちっとも沸かず、ただただ困惑するばかりだった・・・。




