第四話-鏡の中-
———あぁ、また、守れなかった。
上半身のみとなり、地面に倒れるクレープスが、誰にも聞こえない声で呟いた。
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僕は、地面に崩れ落ちたスカーを見て、クレープスになる前はどんな人だっんだろう。と思った。
「ニフタ君!お疲れ様!あ、結構……傷ついてるね。」
リンダさんが森の奥から出てくる。どうやってやったのかはわからないが、さっきの爆破は本当に助かった。
そして傷ついた、と言われたので自分の体を見てみると、切り傷がそこそこあった。最後のスカーとの戦闘でついたのだろうけど、どれも致命傷ではなさそうだ。よかった。
「それで………これはどうします?」
目の前には、聳え立つ影鏡。不気味だ。
「まぁ……取り敢えずレオンちゃんと合流が先かな。向こうの事も心配だし……」
その時、ガサガサと草を掻き分ける音が聞こえてくる。
僕とリンダさんが咄嗟に音の方向に向けて構える。
「ん?リンダじゃないか。何だ?これは。」
師匠だった。
「何だ…レオンちゃんか……あ、これは———」
リンダさんと師匠が今までに何があったかを話しあう。そして師匠が言うには、もう一体、意識持ちのクレープスがいたらしい。
「そうか…よく頑張ったな。」
師匠が僕を褒めてくれた。嬉しい。
「それにしても……何でこんなところに意識持ちのクレープスなんかが……それに……」
影鏡の方を見る。
やはり、異質だ。
「ここに住んでたって事も、無いだろうしな。」
結局、この影鏡は破壊し、学園へ報告することとなった。
「ふっ!!」
師匠の一閃で鏡が割れ、崩れる。
「まぁ、ひとまずはこれでいいだろう。帰るぞ。」
「はい!」
静かな湿原をゆっくりと歩く。
今日は、僕が修行で強くなっていたという事実が知れて、良かったと思う。
けど、ナイフが掠った頬が痛い。
どうやら、思ったよりも深かったらしい。村に帰ったら治療をしよう。
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村に帰ってきた頃には、もう朝となっていた。
だが、まだ朝が早すぎるのか、村は静けさで三人を出迎えた。
三人は、まず村長の家へと向かった。
ニフタがノックをする。だが、誰も出てこなかった。
「……あれ?空いてますよ?」
ニフタが扉に手をかけると、鍵がかかっていなかったらしく、すんなりと扉は開いた。
村長の家の中にあった時計の針は朝七時を示している。
とっくに、起きているはずの時間だ。
嫌な、予感がした。
「リンダ。他の家を、見に行け。」
「う、うん。」
リンダが走る。
ニフタとレオンはそのまま村長の家の中に入る。
一見すると、普通の家だ。荒らされていたりなどもしなかった。
その時、
「……ひぐ、……ぃ………ぁ……」
階段の上から誰かの泣く声が聞こえた。
二人は顔を見合わせて、直ぐに階段を登る。
泣く声が聞こえるのは、三人が泊まっていた部屋の隣であった。
「開けるぞ。」
レオンの合図と共に扉が開かれる。
「…ぇ?」
中には…少女がいた、ソーラだ。
いや、ソーラだったものだ。
瞳が、黒くひび割れている。
「おっと、取り残しが………………おや?——————もしかして、あなた達が私の影鏡を破壊した者たちですか?」
突然。実に突然、声が聞こえた。
「逃げろッニフタ!!!」
レオンにそう終われる前から、ニフタは体を動かしていた。生存本能だろうか。
直ぐ近くの窓を割り外へ脱出する。レオンも一緒だ。
だが、目の前に突然鏡が出現する。
それは湿原で見た物と同じく、影に覆われている。
影鏡だ。
「———影鏡が破壊された、ということは……あの子達は死んだんでしょうね………」
その影鏡の中から謎の男が出てくる。
薄手のコートで身を包んだ、優しい眼光を持つ男。だがその奥には狂気が潜んでいる。
言わずもがな、クレープスだ。
「———ぐぇ。」
ニフタの腹に強烈な圧力がかかる。拳だ。拳だけが影鏡を通って転移してきたのだ。
「ニフタ!」
「他人の心配をしてる暇があるのですか?」
クレープスが影鏡の中から剣を取り出す。
「存分に、いたぶってあげましょう。」
クレープスによる蹂躙が始まる。
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(転移……単純だが、だからこそ厄介…!)
レオンは焦燥感を感じていた。
もう恐らく、村民達は全滅だろう。
それに、こいつは何か格が違う。この三人で倒せるかどうか……
「行きますよ。」
クレープスが影鏡の中に飛び込む。
(何処に行った———)
「後ろ、ですよ。」
「ぐっ!」
背後からの攻撃に何とか反応しきったレオンが剣を防ぐ。
だが次の瞬間にはクレープスは視界にいない。
防いでも防いでも、流れるように次の攻撃が来る。
「弱い、ですね。」
影鏡を通ってきた足がレオンを蹴る。
レオンは近くの民家の壁に激突し、地面へと倒れ込む。
「さあ、まだまだここからですよ———おや?もう一人いたのですか。」
レオンの近くへ寄って来たクレープスにリンダの矢が放たれたが、その矢は出現した影鏡を通って通り抜けてしまう。
リンダの存在に気がついたクレープスが矢が飛んできた方向を睨んだ。
(さて、どうするか……)
レオンがニフタの方向を見る。ニフタは最初の一撃でダウンしていた。
(あんな攻撃で倒れるように修行したつもりはないんだが……いや、そうか。そういうことか。ニフタ。)
レオンは気がついた。
(それなら!)
「待て、クレープス。」
リンダを始末しようと、影鏡で転移する寸前のクレープスを呼び止める。
「お前の相手は私だ。」
クレープスを睨みつけたレオンが瞬時にクレープスに向かって斬りかかった。
「蛮勇といいますか、無謀といいますか………まあいいでしょう。付き合って差し上げます。」
レオンの刀を防いだクレープスがつまらなそうな顔をする。
「おぉぉらぁ!!」
レオンが猛獣のように刀を振う。それは一般的に刀を扱う者の姿とは真逆であった。
対して、クレープスはそれを冷静に一つずつ対処する。至極正しい、剣士の姿だ。
段々と、レオンがクレープスをおしていく。クレープスの影鏡の攻撃にも対処し、広場の中央へと追いやっていく。
「その攻撃には、慣れた。」
そう、レオンは天才だ。学習能力は人の何倍も上である。
そして、この場にはもう一人の天才がいた。
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「ふぅ………………」
レオンとクレープスが戦っている所から80メートルほど離れた家。
その中で、リンダはクレープスを狙っていた。
リンダの技巧は、実に単純。
目が良い。否、ただ良いだけではない。むしろ、視力としては、常人よりも悪い。
彼女は、色々なものが見えるのだ。
空気の流れ、圧力の変化、熱。
様々なものが、見える。
そして、何度も言ったが、彼女は天才である。
空気の流れが見えるという事は則ち、道具によって計測せずに演算ができるという事。
つまり、弓使いとしては、最高の相性である。
(…まだ…まだ…………ここだ!!)
レオンが攻撃を仕掛けると同時に、矢を放った。
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「!」
リンダの矢によって、レオンの攻撃を防ごうとしたクレープスの剣が弾かれる。
レオンはその隙を見逃さない。
「うぉぉらぁぁぁぁっ!」
クレープスの左肩から右腰までを狙った一閃が放たれる。
だが、一瞬、ほんの一瞬早ければクレープスを両断していたであろう刀は影鏡に吸い込まれるようにして防がれた。
「いくらやったとしても、当たらなきゃ意味がないでしょう。」
そこにクレープスが蹴りを加え、レオンが吹き飛ばされ、地面に伏す。
「さて、もう終わりとしま———」
ふと気配を感じたクレープスはすぐさま振り向く。
そこにはニフタが一閃を放つ瞬間があった。
そう、そこは、ニフタが倒れていた位置だ。
クレープスはレオンに誘導されていたのだ。
「っ!」
だが、クレープスはギリギリで防いでしまった。
奇襲失敗———
// ◼︎◼︎ //
———トス。
「いや?そうでもない。」
声が、聞こえた。
クレープスの体から、血が垂れる。
胸部には、クレープスを貫いた、レオンの刀。
だがレオンと私の間には距離があった。
今の一瞬では近づく事すら出来なかっただろう。
一体どうやって。
クレープスはそう考えていた。
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「ふふ、あなた達を見くびっていましたよ。」
師匠の刀で心臓を貫かれたクレープスが語る。
クレープスと人間の構造は、同じだ。心臓を突けば、死ぬ。筈だ。
だがそのクレープスは余裕の表情をしている。
「そろそろ限界なので、一度帰らせてもらいます。」
途端、クレープスの体が影に包まれた。
「師匠!」
「あぁ!!」
師匠が刀を引き抜き、クレープスの体を両断しようとした。
そして、リンダさんの矢も飛んできた。
でも、間に合わなかった。
「申し遅れましたが、私の名前はミラーと申します……また会いましょう。」
「待てッ!!」
レオンの叫びも虚しく、影の中にミラーが消えていく。
「…次は殺します。」
その場には三人の人間と、誰もいない村だけが残されていた。
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「くそっ!!!」
静かな村の中に、師匠の声が響いた。
「レオンちゃん!何があったの?」
遠くからリンダさんが走ってくる。
「…逃げられた。」
「え………」
「取り敢えず……村の被害を調査するぞ。話すのは後だ。」
「う、うん。そうだね…」
その後、僕らは他の村にも行ったが、全ての村から人が居なくなっていた。死体がなかったから、理由はわからないけどミラーが何処かへ連れ去ったんだろう。
そして、王都へ帰った。
その道中、僕の頭の中は村民への危惧と、ミラーへの憎しみがぐるぐると渦巻いていた。
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三人は王都に帰り、一晩を宿で過ごした後、学園へ報告をしに行った。
そして、騎士団が帰って来た頃にまた会議を行う事となった。
そして数日が経ち、騎士団が帰って来た。
会議室に入ると、そこには鎧を血だらけにした騎士団団長、フォートがいた。
何でも、帰還してからすぐに来たらしい。
「それでは、会議を始めます。」
学園長の挨拶によって、二度目の会議が始まる。
だが以前よりも元気がない。
恐らく、寝ていないのだろう。
「まずは、被害報告から始めましょう。
我々が出向いたドリエスタ南部の村の一つにて、意識持ちのクレープス達と交戦し、数人の怪我人は出ましたが、勝利することができました。しかし、時すでに遅く。村の住民達は姿形もなく全員消え去っていました。」
「次は私が。私たちが調査したエクスロ湿原でも、同じく意識持ちのクレープスたちと交戦し、勝利。村の住民は………全滅でした。」
重苦しい雰囲気が会議室内に漂う。最後は騎士団の報告だ。
「最後に我々騎士団からの報告だ。イリューシステラ国境付近では明らかな被害は無かったものの、国境から離れた村でクレープスと応戦。苦戦するも、宗教国家イリューシステラのイリューシス兵団の協力もあり勝利。応戦した村の住民は守る事が出来たが、その他複数の村で被害が発見された。」
後に具体的な数値を纏めると、その被害総数は一万四千人にのぼった。
更に、不可解な事が判明する。
各地域でそれぞれ意識持ちのクレープスが発見されたが、その中にミラーという名前のクレープスが複数存在していたのである。それも、特徴は全て同じだった。
つまり、この世界には同時に複数のミラーが居たと考えられる。
「……技巧を複数持っている可能性は、あるな。」
レオンはそう呟いた。
「そのような事が存在しうるのですか!?」
教師の一部がざわめき始める。
「あぁ、理論上はな。だが、それでも二つまでだ。宗教国家イリューシステラでは教徒全員が同じ技巧を使用可能だったり、複数の技巧を使用できるらしいが……あれは例外だろうな。」
もし複数持ちだとすると、転移と増殖……実に厄介である。
「それより、これからどうするんだ?」
レオンが学園長に聞く。
「実は———」
その時、
「会議中に失礼します!宗教国家イリューシステラから重要なお手紙が………」
勢いよく扉を開け放った教師らしき人物が学園長へと手紙を渡す。
「ふむ……これは………成程……。」
学園長が、じっくりと手紙を睨み、読む。
「皆様、朗報です。こちらは、イリューシステラの『予言姫』からの手紙です。内容を簡潔にまとめますと…ミラーと名乗るクレープスは三ヶ月後に、我らが国ドリエスタの王都。つまりここを襲撃する……との事です。」
宗教国家イリューシステラの、『予言姫』。彼女の正体は不明であまり表社会には出てこないが、有名である。
何故なら、その予言は総数が少ないながらも、外れた事が無いからだ。
そしてそれは、世界的に大きな出来事が起きる予言が多い。
「あの『予言姫』の予言ですから、事実となるのでしょう。私達も予見はしていましたが、確証がなく、中途半端な防衛しか出来なかったでしょう。ですが、この情報があれば、確証がある状態で万全な準備をもってミラーを迎え撃つ事が出来ます。」
学園長が一呼吸置いてから再び、
「今こそ、国全体で協力する時でしょう。なので私は、傭兵団に依頼を要請しようと考えております。」
そこで一人の教師らしき男が突然立ち上がり、叫び出した。
「学園長!彼らに依頼しては、我らハイレピア学園の格が下がります!!それに、彼らは今遠征に出ており、あまり戦力を期待する事は出来ません!!どうかご再考を——————」
学園長が男教師を睨みつける。その視線に怖がったのか、男教師はへなへなと椅子に座り込んでしまった。
「……ルィッツ君。私は君に言いたい事が三つほどあります。
一つ。今はミラーという危険人物を最大戦力で迎え撃つ事が第一でしょう。使える戦力は、一人でも多くいた方がいい。
二つ。君は先程、格が下がると言いましたが、彼らもこの国の者達です。人としての格の違いは我らにありません。
最後に。君のような差別意識を持った教師は私の学園に必要ありません。
ですが今は非常時。処罰は事が終わった後です。そして、以後このような事は二度と無いように。いいですね?」
学園長が男教師を威圧する。
「あ、いえ、あの。申し訳ございませんでした……」
男教師が弱々しく返事をする。
「はぁ……という事で、皆様各自、ミラーを迎え撃つ準備を進めていただきたいのです。また新しい情報などがありましたら、私のところまでご連絡お願いします。それでは本日の会議を終了いたします。皆様、ありがとうございました。」
そうして、二度目の会議が終わった。
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「三ヶ月後、か…」
レオンは考え込んでいる。
そこに、あの人が近づいて来た。
「レオンさん。お手合わせの件、本日中に行っても宜しいでしょうか。」
騎士団団長。フォートであった。
「…お前も忙しいんじゃないのか?」
「いえ、手合わせは修練として絶好の機会ですので、問題はありません。」
「そうか……だが、今日はもう遅い。明日の朝にやろう。」
窓の外を見ると、日は落ちかかっていた。
「わかりました。場所は我々騎士団の修練場を使用しましょう。そこなら、安全に、公平に出来ます。」
「了解した。ニフタもそれでいいか?」
「はい。僕は大丈夫です。」
「それでは、明日を楽しみにしていますよ。」
フォートがニフタの方を見て、微笑んだ。
少し、不気味な笑顔であった。
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◼︎王都の宿
「おいニフタ、作戦会議をするぞ。」
宿に帰って来た途端、師匠が僕に話しかけて来た。
「えっと……ミラーと戦う作戦…ですか?」
「違う。明日のフォートとの手合わせだ。」
「あ、そっちですか……でも、ただの手合わせですし、本気でやる事はないんじゃないですか?」
「いや、あいつは戦闘狂だ。本気でお前を叩き潰しにくるだろう。」
そう聞くと、フォートさんは騎士団団長としては危険な性格なような気がするけど…大丈夫だろうか。
「まぁ、取り敢えず作戦会議だ。恐らくあいつは———」
そこそこな時間、作戦会議は続く。
そして日が完全に落ちた頃、作戦会議は終わり、眠りについた。
そして………明日が来た。
鏡って、ちょっと怖いよね。




