第五話-準備期間-
ちょいちょい文章力が変化する。
これが、かなークオリティ
騎士団団長フォート・アグリンドとの手合わせの日がやって来た。
師匠によると、フォートさんは本気で戦おうとしているらしい。
不安…だけど、負けたくはない。
「こちらが修練場です。」
騎士に案内されて、修練場へと着く。円状のステージの中央には、騎士団の甲冑を脱いだフォートさんが、堂々と立っていた。そしてステージの周囲には、何人かの騎士がいる。観客らしい。
「待っていたぞ、ニフタ君。さぁ、やろうじゃないか。」
フォートさんがニコニコとした表情でこちらに言ってくる。少し、不気味だった。
「えっと、まずはルールを聞いても?」
「あぁ、そうだな………アティス。頼むぞ。」
「わかりましたっす!」
先程ステージ周囲で観客として立っていた騎士のうちの一人が駆け寄って来た。
「はじめまして!俺はアティスって言うっす。一応、エスコルタ騎士団の副団長をしてるっす。
それでえっと、ルール説明っすね!
まず、武器はちょっと危ないんで木製の物のみ使用可能っす!
それと、技巧は使用可能っす!存分に戦ってくださいっす!
最後に、どちらかが負けを認めるか、戦闘続行不可になるまでこの試合は続くっす!
これで以上っす!お二人は大丈夫っすか?」
「あぁ、俺は問題ない。」
僕は、近くの棚に置いてあった木刀を借りる。
「僕も大丈夫です。」
「了解っす!それじゃあ、早速行くっすよ!」
フォートが木製の大剣、ニフタが木刀をそれぞれ構え、間に緊張感が走る。
「試合……開始っす!」
———ヒュゥッ
開始した瞬間にニフタが距離を詰め、攻め、大剣と木刀がぶつかり合う。
それは、レオンの教えだった。
—————————
◻︎宿屋にて
『フォートとの戦いにおいて一番重要な事は、とにかく攻める事、だ。』
『何故…ですか?』
『まずあいつは、腕力というか、全体的に力が尋常じゃなく強い。そうだな…例えるなら……人間の腕を片手で二つ折りにできる程だ。だが、あいつは大剣しか使わない。つまり、隙ができやすい。
そして今はミラー襲撃という大仕事が控えている……負傷を少なくするために、木製の武器を使うだろう。
お前はそこに賭けろ。まず———』
—————————
(まずは武器破壊!!)
フォートの馬鹿力によって押されていた刀を滑らせ、フォートの大剣を外側へと流す。
「ッ!」
そのままニフタはフォートの大剣を側面から二連撃を加え、
流れるようにしてフォートにも攻撃を喰らわせようとするも———
「フゥゥン!!!!」
態勢を整えたフォートの一撃が迫り、すんでのところで後ろに飛び退く。
「成程、な。レオンさんの入れ知恵か。」
フォートは力が強いが動きは遅い。つまり、速度を重視するニフタとは相性が悪いとも言える。
だが、
「上等だ……叩きのめしてやろう。」
フォートは不敵に笑い、大剣を握る力を強める。
そう、彼は戦闘狂だ。それも、結果ではなく過程を楽しむ、タチの悪い方のだ。
そしてニフタは、(何か……フォートさんの性格が変わっている気が…)と、考えていた。
そして、
(大剣は……あとニ、三回ぐらい叩けば折れるかな……?)
ニフタの予測はおおよそ当たっていた。
ニフタが大剣にあと三回攻撃を加えた時、フォートの大剣は破壊される。
「次はこちらから行かせてもらうぞ。」
ゆっくりと、一歩づつ、フォートの重く力強い足が近づいてくる。
その顔は感情を読み取るのは難しいが、一部者達はそれが興奮の感情を示していることを理解していた。
一歩、一歩と近づいてくる。
そしてフォートはニフタの間合いへと———
踏み入る直前、力の権化のような木製の大剣がニフタへ振り下ろされる。
振り下ろし。大剣を破壊する絶好のチャンスではあるが、
(これは確実に避けないと……死ぬ!!!)
恐らく死にはしなかっただろうが、大剣はそれほどの恐怖をニフタに与え、ニフタを退けさせた。
大剣が空を切り、地面へと振り落とされる。狙うならそのタイミングだ。
すかさずニフタが地面に突き刺さった大剣に一撃、二撃———
「俺の武器に触れるな。」
「ぅぅぐふっ」
三撃目を加える寸前に、尋常じゃなく重い蹴りを胸に受け、吹き飛ばされる。
「げほっげほっ………」
フォートの馬鹿力をもろに受けたニフタが咳き込む。
すでにニフタの肋骨は骨折寸前である。
(だけど……もう少しで壊せる!!)
大剣には明確にヒビが入っている。後一撃で、破壊できるだろう。
だが、
「ふん。もう触れさせんぞ。」
次、ニフタが大剣に攻撃を加えようとした時、ニフタは蹴飛ばされ、肋骨を折るだろう。
気づいた時には、ニフタの足は震えていた。
そう、恐怖である。
負傷の、恐怖。
恐怖は感情で打ち消すことが出来る。
だが、ここは生優しい手合わせの場。
それ故に恐怖を直に感じる。
(一体、どうすれば。)
フォートと向き合いながら、ニフタは考える。
そこでふと、レオンがニフタの方を見ている事に気づいた。
そして、結論は出る。
(いや、僕に足りないのは覚悟だ。いつでも、どんな時でも全力で向かう、覚悟だ。多分、師匠は、それが必要だってことを教えたかったんだ。)
足の震えは、止まった。
「ぅぉおおおお!!」
フォートに覚悟を持って突撃する。
恐らく、先程のような大剣の振り下ろしがやってくるだろう。
そして、ニフタが考えた、作戦。
それは、
(真正面から叩き折る!!!)
覚悟、である。
フォートの間合いに入り、大剣が振り下ろされる。
それは、先程よりも力強い。
これは直撃すれば、死ぬ可能性があるだろう。
だが、覚悟だ。
———ボキッ
覚悟を持ち、適切に力を入れ、ニフタが持つ最大限の力で応えられた大剣が、折れる。
(そのまま本体を!!!)
その力を保持したまま向きを変え、フォートの肩へと刀を振り下ろす。
確実に、当たる。
———ボキッ
「え?」
フォートの肩に振り下ろされ、力が伝わった瞬間、木刀は折れた。
「武器を壊すところまでは、なかなか良かったじゃないか。だが、油断したな?」
ニフタはフォートに頭を鷲掴みにされた。
「フゥゥゥゥン!!!」
地面に、叩きつけられた。
「これが終わったら、レオンさんから話があるそうだ。」
意識が消える寸前、そう、聞こえた。
—————————
フォートは、地面に倒れたニフタを見ていた。
「なかなか、楽しめたぞ。特に、覚悟を持って俺の攻撃を受けたところは良かったな……だが———」
「団長、あの、多分もう聞こえてないっす。早めに医務室に運びましょう。」
ニフタは完全に気絶していた。
「ん?あぁ、そうだな。誰か、ニフタ君を医務室へ運んでくれ。」
フォートの命令で騎士達がニフタを医務室へと運んで行く。
そしてこの場には、まだ興奮冷めやらぬフォートと、それを見ているアティス含む数人の騎士と、レオンが残っていた。
「なぁ、フォート。」
その時、レオンがフォートへと詰め寄る。
「どうしました?レオンさん。」
「少し……やり過ぎじゃないのか?」
結構、キレていた。
「いや、これは本気の勝負なので、多少の負傷は仕方が無いかと……」
「……そうか……ところで、私と手合わせでもしないか?」
「え?」
ふと周りを見ると、アティスがいなくなっている事に気がつく。
そして彼は既にステージの外へ………
「団長、お疲れ様っす。それじゃあ………試合開始っす!!」
「え。」
何故か、フォート対レオンの試合が始まった。
—————————
首の辺りが…痛い………
目が覚めると、僕はどこかの部屋のベッドの上にいた。
えっと、確か…フォートさんの大剣を折って…その後、頭を掴まれて、それで………
あぁ、負けたのか。
悔しい、でも、しょうがない。油断したのは事実だ。大剣の破壊に集中して、少し気を抜いてしまった。
その時、扉をノックする音が聞こえた。師匠だろうか。
「起きたか、ニフタ。」
師匠だった。手には木刀を持っている……………何で?
「すいません、負けてしまいました………」
師匠に謝罪をする。
顔を上げると、師匠は真剣な表情でこちらを見ていた。
「それで、何が悪かったか、わかるか?」
「まず、僕には戦う覚悟が足りませんでした。
二つ目に、一つの目的を成し遂げた事で、油断をしてしまいました。
最後に、相手の力を見誤ってしまいました。」
これらが、僕にとっての欠点だろう。
そして師匠は……にこやかに笑っていた。
「まぁ一つ足りないが、及第点だろう。フォート!入って来ていいぞ!」
え?
疑問に思ったのも束の間、フォートさんが入って来た。
……何故か怪我をしている。
だが顔は爽やか………というより、興奮してる……?
「ニフタ君。調子はどうだ?」
「ちょっと首が痛いですけど……大方大丈夫です。」
「そうか、それは良かった。」
フォートさんは、一呼吸おいてから語り始めた。
「実はこの試合は、レオンさんから頼まれて実施したのだよ。」
「……はい?」
どういう事なんだろう。
「まぁ、私が命じたのは、ニフタに力を見せてやれってだけだけどな。」
「えっとつまり………どういう事ですか?」
「お前の悪いところは、私を信じすぎるところだ。
私は天才だが、人間だ。いつかは間違う。
フォートの武器を破壊しろと言ったが、あれは罠だ。
フォートは武器を使わない方がむしろ強い。
まあ、今のうちから自分で考える力を身につけておけ、って事だ。」
「なる、ほど。」
何となくわかった。どうやら、師匠は僕を教育したかったらしい。
……確かに学べた事はあるが……少し回りくどかったのでは、と、少し思う。
「まぁつまり、武器を折ったところで、フォートには勝てなかった事だな。」
「まぁ、そうですよね…………」
少し、悲しい。
「だが、それまでの動きは良かった。技巧も、言いつけ通り使用しなかったようだしな。」
「そういえばレオンさん。何でニフタ君に技巧の使用を禁止させてるんですか?」
僕は、技巧の使用を師匠から禁止されている。その理由は……
「まぁ、純粋に危険なんだよ。今のニフタじゃ、加減がわからず、木っ端微塵になる。
だから、禁止だ。」
「ふむ………俺は、使ってもいいんじゃないかと思いますけどね。」
「………何だと?」
師匠が、険悪な表情を見せた。
「レオンさん。ニフタ君はもう、強い一人の戦士です。俺はそれを先の戦いで感じました。
まだ粗削りではありますが………充分強いです。
それに………」
「それに?何だ?」
「師匠の言葉にずっと従い続けるのも、良くないと思いますしね。」
フォートさんは僕の方を見てそう言ってくれた。
「チッ、だが———」
「師匠。」
「何だよ、ニフタ。」
「先日の……ミラーとの戦いと、フォートさんとの戦いで、僕は……自分が、弱いと理解しました。
だからこそ、本気で、全力でやりたいんです。」
しっかりと、目と目を合わせ、自分の想いを伝える。
「だから、技巧を使わせてください。」
そう言った途端に、師匠が嫌そうな表情をした。
でも、
「はぁ……………ニフタ。」
ため息混じりに静かに喋り始める。
「今までよりも、修行をキツくするが……いいのか?」
「はい。」
「負傷覚悟で、死ぬ覚悟を持って戦う事は出来るか?」
「はい。」
先程よりも、深く返事をする。
「そう、か…………成長したな。」
「…はいっ。」
「よし、わかった。技巧の使用を許可する。だが………本当に、気を付けろよ。」
「はいっ!!」
これまでで、一番深く返事を、お辞儀をした。
「それじゃあ、今から修行を始めるぞ。まだ昼前だからな。時間はたっぷりとある。」
「了解です!準備してきますね!」
僕は、荷物を取りに走り出した。明確な、覚悟を持って。
———
「なあ、フォート。」
「どうしました?」
「覚悟が無かったのは、私だったかもしれないな……」
レオンさんにしては珍しく弱々しい、だが優しさが籠った声で、そう言った。
「あ?何だよ。」
「え、はい?いえ、なにも……」
気付くとレオンさんはこちらを鋭い眼光で睨みつけていた。
何かが顔に出てしまっていたのだろうか。
「お前も修行に参加しろ。」
「え。……何故ですか?」
「少し……学生時代を思い出してな。」
そう言えば、そうであった。
学生時代は、レオンさんを含めた天才三人に修行をつけてもらっていたな………
そのおかげで、ここまで来れた。
いや、あれは正直修行というよりいじめだった気がするが………まあ、強くなれたからいいだろう。
「おい、行くぞ。」
「はい、レオン先輩。」
三ヶ月後に大仕事は控えているが……
とにかく今は、学生時代を思い出して楽しむとするか。
—————————
「ぜぇっ………ぜぇっ………」
本当に、疲れた。もう動きたくない。
師匠がキツくするとは言ってたけど……まさかここまでだったなんて……
今は、地面に倒れている。
足がガクガクだったからだ。
それに対して、何故か修行に参加していたフォートさんは、ピンピンしていた。
騎士だから、体力が多いのだろうか。
「凄く…けほっ………体力があるんですね……」
「俺か?俺は技巧で少しづつ体が回復するからな。だから、体力の消費は少ない。」
技巧だった。
技巧といえば、僕の技巧を使う練習をした。
結果だけ言うと………腕が吹き飛びそうになった。
やっぱり、危険だ。
でも、使いこなせば、強いと思う。
「フォート、明日からもここで修行をしていいか?」
「えぇ、大丈夫です。ついでに、うちの騎士達も鍛えて頂けると助かりますがね。」
「まぁ、考えておく。」
ふと周りを見ると、騎士達が愕然としていた。巻き込まれるとは思っていなかったのかな。
「さて、今日は帰るか………ニフタ、宿まで走るぞ。」
「いや、ちょ、もう少しだけ休憩を………」
「後三十秒な。」
急いで息を整え、荷物を背負う。
「三、二、一………行くぞ。」
「っはい!!」
———翌日、とんでもない筋肉痛に襲われた。
—————————
◼︎二日後
三度目の会議がやってきた。
今回は、傭兵団も交えた会議らしい。
会議室には、教師や騎士団の代表者と、僕たち。それと、傭兵団らしき人が一人いた。
「それでは本日の会議を開始いたします。それではまず………互いの自己紹介から始めましょう。」
「俺は、エスコルタ騎士団団長、フォート・アグリンドだ。」
「それで、俺が副団長のアティスっす。」
「私は、ハイレピア学園三大叡智者のうちの一人、レオン・ヘルツだ。」
……師匠って、そんな風に呼ばれてたのか………
「同じく、ハイレピア学園三大叡智者の一人、リンダ・エンシールです。」
最後に、あの傭兵団らしき人が立ち上がった。
「最後に僕ですね…………僕は、今回依頼を受けさせて頂いた、傭兵団のリーダーを務めている、リオレ・イスタールと申します。どうぞ、お見知り置きを。」
イスタールさんが、深くお辞儀をした
「これで、全員ですな。それでは、会議といきましょう。まず、騎士団の皆様と、傭兵団の皆様には、襲撃当日に、王都防衛に当たって頂きたいのですが、よろしいですかな?」
「そうですねぇ…今は僕の傭兵団の多くが遠征に行ってて、使える戦力は多くないですが……できる限りの戦力は提供しましょう。何せ、ここは僕の生まれ育った国ですからね。問題はないです。」
「我々も、問題はございません。全力で責務を全うすると誓います。」
「感謝いたします。
次に、その他の実力者の方々には各門に襲ってくるであろう意識持ちのクレープスの討伐と、主犯格……ミラーの討伐を任せたいのです。」
王都エストゥールには、東西南北四つの門が存在する。
「具体的に言いますと、フォート様、アティス様、レオン様、イスタール様、ニフタ様、リンダ……それと私ですな。
恐らくミラーは、各門に意識持ちのクレープスを配置してくるでしょう。
それを、各自で討伐して頂きたいのです。
それに、ミラーの戦力量はいまだに不明です。なので、臨機応変な対応が必要となるでしょう。
つまり、町中を駆け回ることになるやもしれませぬ。
その部分は、先に了承を頂けると幸いです。」
「それなら、情報伝達員として僕の傭兵団のメンバーを何人か貸しましょう。きっと、うまく情報伝達をしてくれるはずです。」
「それはありがたい。使わせてもらおう。」
そこで、師匠が急に喋り出した。
「急で悪いんだが……王下近衛兵の協力は得られなかったのか?」
王下近衛兵、名前の通り、王直属の近衛兵だ。
噂によると、構成されているメンバーの全員が騎士団団長よりも強いらしい。
確かに、これは国の危機だし、王下近衛兵たちも防衛に参加するべきなのではとは思うけど………
「あれは王をお守りする兵達ですからな………。ですが、この都内にクレープスが侵入した場合は
対応をしてくださるそうですぞ。」
「成程な………回答感謝する。」
「いえいえ、それでは次は———」
その後も、会議は続いた。
窓の外が暗くなってきた頃、会議は終了した。
そして、帰路に着く。
明日の修行に備えて、今日は早く寝よう。
—————————
◼︎ミラー襲撃予定の二週間前
修行の日々が続いた。
ふと体を見ると、王都に来る前よりも、結構筋肉がついたように思える。
辛くても、頑張ったおかげで、報われた。
———今日も修行だ…頑張ろう!
そう思っていたけど………
「ん?今日は修行はしないぞ?」
「え?じゃあ、今日は何をするんですか?」
「今日は、知り合いの鍛治師にお前の武器を作ってもらおうと思ってな。その技巧が刻まれていない刀だけだと駄目だろう。」
確かに、僕の武器には技巧が刻まれていなかった。
そういえば、技巧って………どうやって刻まれているんだろう。
—————————
「ここだ。」
幾つかの道を曲がり少し薄暗い路地裏に入ったところで師匠が足を止めた。
「えっと………本当にここであってるんですか?」
ここは、どう見ても裏路地だ。
薄暗いし、ここで何かをしていたらそれはもう不審者だろう。
「あぁ、フォートからの情報では、ここ………のはずだ。」
「あれ?師匠の知り合いなんですよね?」
「知り合いには違いないんだが………あいつはちょっと考えが特殊でな。
確か、『秘密の店って感じがいいじゃあないですか!!!』とかなんとか言ってたっけな。」
「その人………大丈夫なんですか?」
なんだか、不安だ。
「まぁ、腕前は確かだ。信用もできる。それに、最悪別のやつに頼めばいいしな。」
まぁ、それもそうか。
「それじゃあ、入るぞ。」
「はい。」
師匠が少しカモフラージュが施された扉をゆっくりと開ける。
扉の先の部屋は少し狭く、壁には何本かの武器が飾られている。
いかにも怪しい物が陳列していることや、薄暗い雰囲気が漂っていることに目を瞑れば、普通の店のようであった。
———いらっしゃい。よく来たね。
カウンターの奥にある部屋から、声が聞こえてきた。
予想に反してその声は明るく、抑揚があった。
でも、声の主の格好はすごく怪しかった。
黒いフードで顔を隠し、ゆらゆらと歩きながらカウンターへと出てきた。
やっぱり、ここは駄目なような気がする。
「おいアルマ、私だ。」
その言葉を聞いた店主(?)が急いでフードを脱ぎ去る。
「なぁんだレオン先輩か………お久しぶりですね。」
フードの中から出てきたのは、少し線が細いが、優しそうな男だった。
「それで、どうでした?秘密って感じはしました?」
ニマニマと嬉しそうに聞いてくる。
「あー………秘密ってよりは怪しいというか……胡散臭いというか………ニフタはどうだ?」
「そうですね…………もし知らない人が入ったら、通報される………って感じですかね…?」
「そ、そんなぁ…………」
アルマさん?が膝から崩れ、地に伏す。
「ちょっと師匠………この人本当に大丈夫なんですよね?」
「私も少し不安になってきたが………学生時代もこんな感じだったはずだ。多分大丈夫だろう。」
師匠と小声で話し合う。
というか、やっぱり学生時代の知り合いか………フォートさんといい、学園長といい、この人といい、師匠の人脈って広いんだな………
「………ところでレオン先輩、その子は?」
アルマさんが僕の方を見た。
「ん、こいつは私の弟子の、ニフタだ。」
「なるほど………。それで、今日は何をしに来たんですか?」
「私の刀の修繕と、こいつの武器を作って欲しい。あとついでに、こいつに刻造を見学させてやってくれ。」
「了解です!それで、武器種は?」
「そうだな……ニフタ、何がいい?」
「やっぱり、刀ですかね……扱いやすいですし。」
「それじゃあ、早速作り始めましょうか!」
アルマさんが僕たちを店の奥へと案内する。その奥には立派な工房があった。
「あぁ、そうだアルマ。刻造には私も協力する。」
「………つまり、学生時代以来の共同制作ってわけですね………良いですね…!興奮してきましたよ!」
………なんだか、フォートさんと同じ気配がする。………つまり、鍛治狂かな。
—————————
「えっと、刻造については何処まで知ってる?」
「師匠が教えてくれなかったので………何にも知りませんね。」
思い返すと、師匠は修行ばかりで授業はあんまりしてくれなかった。
「じゃあまずは、基礎の部分から行こうか。これが、刀の原材料だよ。」
そう言ってアルマさんが見せてくれたのは、黒い鉱石だった。
「君の師匠…レオン先輩の武器もこれが原材料なんだよ。この素材の良いところは、加工しやすくて、技巧も刻み込みやすく、よく馴染むってところだね。この鉱石の名前はアルディニウムって言うんだ。これは北にある武術国家アルディエストから採掘されたのが由来で、その国では何本かの栄光武具が造られたらしいんだ。あ、栄光武具っていうのは世界武術協会が指定した優秀な武具に与えられる称号で、現在百九個の栄光武具がこの世に存在しているんだ。レオン先輩の刀もその栄光武具のうちの一つなんだ!称号が与えられる条件は複数あって、純粋な武具の強さ、技巧の効果、その武具の知名度の三つの条件を査定して称号を得るに至るかを決めるんだ。ちなみに、レオン先輩の刀は知名度はあまり無いけどその分技巧と性能が良かったおかげで称号を得ることができたんだ。あとね、世の中には沢山の鍛治師がいて、その中でも栄光武具を大量に造った鍛治師は、世界に名前が広がって神として崇められるほどなんだ。一番有名なのは、『神鍛のベルディフォルカ』だね。彼は世界一の鍛治師と呼ばれているんだ。百九個の栄光武具のうちの三十一個が彼の作品で、どれも一線を画した性能を誇っているんだ。彼が創った武具は死後に神鍛シリーズと呼ばれ始めたのだけど、彼が造ったはずの三十二個のうち、一つだけ見つかっていないんだ。世界武術協会はその最後の一つに巨額の懸賞金をかけたんだ。あぁ、これは今は関係ないことだったね。話を戻すと、このアルディニウムは繊維がきめ細やかで、応力をよく通すんだ。だから、技巧を刻み込みやすい。ちなみにベルディフォルカはこのアルディニウムと他の金属を混ぜ合わせた謎の鉱石を使って武具を造っていたとされいるけど、その鉱石が何なのかはまだ解明されていないんだ。でも、どんどんと技術は発展してきているから、いつか解明される日が来るかもね。その時は僕も使ってみたいな………。一体どんな武器が出来るんだろう。流石に彼の様な最高の武器は作れないだろうけど。作るとしたらどんな武器が良いかな?刀、ナイフ、槍、あとは—————痛っ!」
「落ち着け。」
師匠によって頭を叩かれたアルマさんが我に返る。
………正直、早口すぎて頭の中には殆ど入ってこなかった。
だが、かろうじてベルディフォルカという人が凄いということは伝わった。
それにしても、師匠の武器も凄い物だったのか………
「すまんな、ニフタ。こいつは武器のこととなると歯止めが効かなくなる時がある。許してくれ。」
「ごめんねニフタ君………それじゃあ早速刀を造ろうか。」
アルマさんががアルディニウムを炉に放り込んだ。すると炉の中が紅く染まり高熱がこちらまで漂ってくる。
燃料を入れた様子はなかった。つまり、この炉にも技巧は刻まれていんだろう。
紅く熱を帯び変色したアルディニウムが取り出される。
「普通なら、ここから不純物を取り出す工程に移るんだけど………僕の場合は違う。」
その時、アルマさんがアルディニウムに手を向けた。そして…触れた。
「え!?熱くないんですか!?」
「勿論、熱いよ。でも、僕は鍛治が大好きだからね…!」
………理由にはなってない気がする
そして、アルマさんが手をアルディニウムから離した。その手は焼け焦げ、溶けている。
———重症ではないだろうか。
「ほら、よく見て。」
アルマさんに言われてよく見ると、手のひらに何かがくっついている。
これは………不純物?
「僕の技巧はね、不純物を引き寄せるんだ。全く、最高の技巧だよ!」
アルマさんが、狂気的な笑顔を見せた。ちょっと、怖い。
もしもこの人が鍛治と出会っていなかったら………どうなっていたんだろう。
「さあ、形を整えようか。」
取り出した金槌で叩き、炉で熱し、叩き、炉で熱し、を繰り返す。
段々と刀の形が見えてくる。
薄く細長い、洗練された形だ。
「一先ず、これで一般的な刀は出来たね。」
そこには、一本の刀。黒い刀身が光を反射し、存在感を示す。だが、普通の刀だ。
「それじゃあ………刻造を始めるよ。レオン先輩、お願いします。」
「ああ、了解した。今回の構成は私が決めよう。」
二人が専用の台の横に立つ。
両手には、金槌と、鑿の様な物。
黒い刀身が再び炉に入れられ、紅く染まる。
「行くぞ。」
「はい。」
真剣な表情で、アルマさんが紋様を刻み始めた。
まずは一本。真っ直ぐと刻まれる。
「次は、出力だな。」
次に、横に線が一つずつ刻まれてゆく。寸分の狂いもない、綺麗な線だ。
「そうだな………もう少し上げてくれ。」
師匠の指示で、紋様が微調整されてゆく。
一本一本、丁寧に刻み込まれる。
一見単純に見えるその紋様には幾千もの思いが込められているのだろう。
「最後は私がやろう。」
師匠に手番が移る。
慣れた手先で次々と紋様を刻む。狂いはない。
時々その紋様には応力が流し込まれ、薄く光る。
気付けば、黒い刀身には美しい幾何学模様が浮かび上がっていた。
「———これで、完成、だ。」
刻み終えた刀身が僕に手渡される。
「これが………」
その刀は、存外に軽かった。だが、煌々と威圧感を放っている。
並の者では気圧されしまう程の存在感。その刀身にはそれが込められていた。
気付くと、師匠は椅子に座り、溜息を吐いていた。恐らく極限まで集中力を使ったのだろう。
対して、アルマさんは何ともなさそうだ。むしろ、この刀を見て更に元気になっている気がする。
「我ながら、名刀だね、これは。もしかしなくても、知名度が上がれば栄光武具に認定されるかな…?」
ふふふ、ふふふふふ。と、少し気味悪く笑っていた。
「あの、この刀に刻まれた技巧って———」
「それは、私から説明しよう。」
師匠が気怠そうに椅子から立ち上がった。
「まあ、実際に使ったほうが早いだろうがな。
まず、普通に素振りをしてみてくれ。」
師匠の指示通りに刀で素振りをした。
やっぱり、軽くて振りやすい。
「次は、刀に応力を流して、素振りのイメージを頭に浮かべながらやってくれ。」
素振りの、イメージ………こうかな?
フォン、と空を切る音が聞こえた。
明らかに、先程よりも速い。
「その刀は、ニフタが想像した動きに追従するように補正がかかる。まぁ、お前の潜在技巧と似ているな。」
「ふむ、確かに………」
その時、ぶつぶつと独り言を呟き続けていたアルマさんが乱入してくる。
「何度見ても美しく刻まれた技巧…やっぱり、レオン先輩は天才ですね!僕と一緒に鍛治師になりません?」
「ならん。」
唐突の勧誘を唐突に断られたアルマさんが凹んだ。
………師匠の知人って、癖が強い人が多いな…
「それじゃあニフタ、帰るぞ。」
「あれ?僕と昔話をしてくれたりとかは………?」
「ないな。私達は急がなければいけない。だから、二週間後にリンダとフォートも呼んで、また集まろう。」
「そうですか………それじゃあ二週間後を楽しみに待ってますから、気をつけて戦ってくださいね!」
アルマさんに笑顔で送り出される。
「さぁ、帰るぞ。」
「はい。師匠。」
僕達は直ぐに帰路に着く。
決戦の時は近い———
「あぁ、そうだ。その刀、作るのが超大変だったから絶対に壊すなよ。壊したら………」
「壊したら………?」
「普通に、キレる。」
師匠がキレたところを、僕は見た事がない。だから、余計に怖かった。
———大事に使おう。そう決心した。
フォート学生時代にレオンにボコボコにされています。なので、尊敬はしていますが、戦うとなるとちょっと怖いです。
でも、結局は楽しんじゃいます。
戦闘狂こえぇぇぇ




