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安直勇者 ~俺はなんでも安直に解決できる勇者様~  作者: 差肥塚 祝


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次のステップへ

 「さて、こっちの試合は……おぉ!?」

 ユウヤが目をやると、一人のドワーフ族がドリブルをしているところだった。

 ただのドリブルではない。エルフほどではないが、頻繁な切り返し、鋭いフェイント、小柄な体格を生かしたすり抜けなどを駆使し、大柄といえども決して鈍重ではない竜人族の守備を翻弄し、次々と抜き去っていき、個人技だけであっさりと一点をもぎ取った。前世ならプロレベルで活躍できるのではないか、ユウヤのそういったハイレベルな代物である。

 (ドワーフ族は器用さが売りだというのはわかってたけど、ここまでとはね……教えたばかりのルーレットまでしっかりマスターしてたし。これじゃ竜人族はどうしようも……あれ?)

 手書きのスコアボードを見ると、意外なことに2対2の同点である。

 (竜人族も意外と点取ってるな。それにしても、試合開始して5分くらいだろ? いくらなんでも点が入りすぎじゃないか?)

 ドワーフ族が得点したので、竜人族ボールで試合がリスタートする。

 竜人族はパスを回し始めた。ドリブルはあまりせず、ドワーフ族が近くにいない選手を選んでパス交換を頻繁に行いながら、少しずつ敵陣深くに食い込んでいく。

 (ドリブルの巧さじゃドワーフ族には勝てないだろうから、パス主体ってのは間違ってないんだろうけど、ここからどうする?)

 と、一人の選手が大きくボールを蹴り出す。それをゴール近くで待ち構えていた選手が巧く胸でトラップして方向を変えると、側にいたもう一人の竜人族がヘディングでゴールにボールをねじ込んだ。竜人族の観衆が雄叫びを上げる。

 (なるほど、高さを生かしたわけね。あれをやられたら、背の低いドワーフ族は何もできないよな。体幹も強いから、割り込むこともできないだろうし)

 その後も試合は壮絶な点の取り合い……と言えば聞こえがいいのだが、正直なところ、バカ試合と言わざるを得ないような様相を呈してきた。なんせ、お互いに守備がろくに機能していないのだ。竜人族はドワーフ族のドリブルを止められないし、背の低いドワーフ族は竜人族の高さに対抗できない。

 結果としては、10対8でドワーフ族の勝利となった。流石に、空中戦だとボールの精度が落ちる上に、トラップのミスがどうしても起こるのが竜人族にとって致命傷となったようだ。

 (まぁ、ある意味一番面白い試合だった……かな? やっぱり守備の方は陣形とか連携が必須だし、少し時間がかかるっぽいな)




 その後も組み合わせを変えて数試合を行う。

 結果としては、ドワーフ族が全勝、次いでエルフ族、竜人族、人間族、魔人族、天使族の順となった。ただし、前回の試合に比べて、レベルはともかく、割とまともな試合になっていた。一チームだけ例外はあるが。

 試合後は簡単な表彰と褒賞の授与を行った上で、会議室ではなく、その場に皆で座って協議を行う。選手たちの意見を聞くには会議室は手狭だったからだ。

 「どのチームも、非常に上達していたと思う。種族の特性に合わせた工夫や創意も見られたし、」

 「どのチームも、守備があまり機能していないような気がしますな」

 「人間族はそうでもなかったのでは? まぁ、得点も少なかったですが」

 「『加速』の使用許可は正解でしたな。今回は魔人族も中々健闘していたと思います」

 様々な意見が出たが、一番大きな声は「天使族にも何か補正を!」という意見だった。何しろ天使族だけが全敗だったので、ヴィキを中心に強硬な申し入れがあったのだ。

 意見が出そろったところで、ユウヤは結論を出す。

 「まず、守備が機能していない点についてだが、一対一で守備側が安易に飛び込んで抜かれることが多かったな。無理にボールを取りに行くのではなく、味方が近づいてくるまで時間を稼ぐこと、相手とボールの間にうまく体をねじ込むことを意識する必要がある。だけど、もっと重要なのは組織的な守備だな。一応は教えたはずだけど、人間族くらいしかできてなかったし。まぁ組織的な動きは慣れが必要だから、上達には時間がかかるだろう。今後に期待だな」

 「で、天使族の補正は?」

 青筋を立てるヴィキに苦笑するユウヤ。

 「まぁ、補正は必要だろうな。そうだな……オフサイドを適用除外にするか」

 「オフサイド……? 何、それ?」

 「今まではサッカーに慣れてもらうために、省いてたんだけど……待ち伏せ禁止のルールで、味方がパスを出した時に、パスの相手とゴールの間に敵選手が二人はいなきゃいけないってルールだ。皆慣れてきたんで、次から採用する予定だったんだけど、天使族には適用しないことにしよう」

 「……? それって、なんか意味があるの?」

 ヴィキが首を捻る。

 「あるぞ。高さが天使族最大の強みだろ? なんせ飛べるからな。実際作戦に取り入れてたろ? 流石に全部を空中でってのは無理があったし、だからこそあの成績だったわけだけどな。ゴール前の競り合い、ポストプレーなんかの要所に限定して飛ぶようにすれば、もっとやれたと思うぞ。で、最大の要所であるゴール前で天使族だけ待ち伏せ可になるんだから、大きな補正になると思うぞ」

 「……よくわかんないけど、じゃあ次はそれで……」

 「ああ、次はないな」

 「え?」

 全員が目を見開く。

 「今までのは、サッカーに慣れてもらうこと、種族ごとにハンデが必要かを確認することが目的だったからな。そろそろ、次のステップに進もうと思う」

 「次のステップ、で、ございますか?」

 ツァンフェイが首を傾げる。

 「おいおい、忘れてないか? サッカーを始めたのは、あくまでもインぺリアの全種族が共通して楽しめる何かを作るってことだろ? 一応ゲームとして成立するようになってきたようだし、ここからは、市民への普及を進めていく」

 「そうね。それで、具体的にはどうするのかしら?」

 興味深そうに聞くアンジェラ。

 「まずは、市民にサッカーってものを周知する。とはいっても役所を通じて周知するより、実際にやって見せたほうが早いだろ? ここにいる皆を鍛えたのはそのためだ。とりあえず街中にグラウンドを整備するから、当面は週一で試合をしてくれ。今まで選手も観客も盛り上がってくれてたし、絶対に市民にも受けると思う」

 「まぁ、盛り上がるのは間違いないでしょうね」

 「そしたら、市民も自分でやりたくなるはずだろ? ルールは単純だし、貴族でなきゃできないものでもないしな。ボロ布でボールを作るなりして、空き地でサッカーを始める連中が出てくると思うんだ。特に、子供とかな」

 「なるほど」

 「それを見計らってグラウンドを増やし、ボールを安価で売り出せば、後は普及するのを待てばいい」

 「……種族間の交流になりますか? 同種族同士だけで試合をすることになるのでは……」

 「ある程度サッカーが普及すれば、種族間の対抗戦も始まるんじゃないか? 場合によっては、賞金をつけて皇室が主催するなんてのもいいだろうし」

 「平民の趣味に帝国の予算を割くつもりなの?」

 アンジェラが眉を寄せる。

 「平民向けだし、賞金といってもそんなに大きい額じゃないしな。ただ、ゆくゆくは元が取れるようにできないかと思ってる」

 「元を取る? どうやって?」

 「職業チームをいくつか作って、客から観戦料を取るとか、飲食物を売るとか、チームごとにユニフォーム、つまり制服を作って、それを一般向けに売るとか、色々できるだろう? 今一気は進まないけど、勝敗予想で賭事の胴元をするって手もある。もっとも、市民のサッカー熱がよっぽど盛り上がらないと無理だから、当分先の話だけどな」

 「……時間がかかりそうね。まぁ、いいわ。種族間の交流強化を言い出したのは私だし」

 「じゃあ、来週からその方向で進めることにする。で、さっきちょっと話をしたが、チーム分けを変える。各種族から平均的に人数を割り振って、チームを再編成してくれ。チーム間の差異はなくなるかわりに、どのポジションにどの種族を割り振るか、監督やコーチの手腕が問われることになるから、よくよく考えておいてくれ。後、オフサイドのルールを教える必要があるから、監督とコーチと審判に集まってもらう必要があるな。ツァンフェイ、以上のことについて段取りを頼む」

 「はっ!」

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